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声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


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4話目

いきなり泣き出す公爵

ぎょっとして、私は思わず一歩引いた。


(え、えええ!? なに!? 驚かせてしまいましたか!?)


彼はまるで感情が抑えきれなくなったかのように、静かに涙を流していた。

表情は硬いままなのに、頬を伝う涙があまりにも綺麗で――なんだか妙に心を締めつけられる。


「え、ちょっと……大丈夫ですか!?」


慌ててハンカチを取り出し、彼の顔にそっと当てる。


「すみません、驚かせちゃいました? ほら、涙、拭いてください……」


手元がふるふると震える。

けれど、公爵はじっとしたまま、されるがままに涙を拭かれていた。


……そして、私は気づいた。


(しまったーーーー!!)


私、もともと29歳だったから、つい子供扱いするように、公爵様の顔拭いちゃったーー!!


しかも、相手は公爵よ!? 貴族の中でも最高位の一人!!

こんな無礼、普通なら即座に不敬罪になりかねない!


――なのに。


ふいに、公爵の手が動いた。


温かい指が、私の手をぎゅっと握る。


「……っ」


驚いて顔を上げると、彼は静かに微笑んでいた。


涙を拭かれた後の瞳は、どこか穏やかで、優しさを含んだものになっていた。


(えっ、えっ、えええええ!? どういうこと!?)


私は完全に混乱していた。

冷たいとばかり思っていた彼が、こんな表情を見せるなんて。


周囲もざわざわと騒ぎ始める。


「え、ミシェリア嬢、男を泣かせたの!?」

「相手、公爵よ!? まさかもう婚約の話が!?」


聞こえてくるヒソヒソ話に、私はさらにパニックになった。


(ちょっと待って、誤解が広がってる!!)


「テラス! テラス行きましょう!!」


とにかく、このままじゃまずい!!


「早く!!」


そう叫ぶやいなや、公爵の手を掴んで引っ張った。


彼は驚きつつも、抵抗することなく私についてくる。

背の高い彼を引っ張るのは少し大変だったけれど、とにかくこの場から離れなきゃ!


「ちょ、ちょっと……!」

「公爵様、連れていかれてる……!」


ざわめきがさらに大きくなる。


でも、もう知らない!!


私は、泣いてしまったイケメンの公爵様を連れて、夜風が吹くテラスへと急いだ。


――――――――――

――――――――


夜空には無数の星が輝き、涼やかな風が静かに流れる。

煌びやかな王宮の喧騒から離れ、テラスには落ち着いた静けさが広がっていた。


私はラヴェルノワ公爵――ヴィヴィエンの正面に立ち、胸の前で手を組む。


(よし……ここでしっかり話を進めなきゃ……!)


彼は優雅にテラスの欄干にもたれかかりながら、紫の瞳でじっとこちらを見つめている。


少しだけ躊躇しつつも、私は思い切って口を開いた。


「えーっと、その……公爵様、結婚とかにご興味ないですか? お困りではないですか?」


彼はゆっくりと首を傾げた。


(お困りじゃないの!?)


そう言いたくなるほど、素直に「?」という顔をしている。

私は慌てて続きを話した。


「あのー……私も婚約相手が見つからず……このままでは少しまずいといいますか……えーっと……。」


言葉が詰まる。

何を言っているのかわからなくなってきた。


(ちょっと待って!? 私、元・王太子妃なんだけど!?)


宮廷で何度も交渉や駆け引きをこなしてきたはずなのに、こんな単純な話すらまともに言葉にできない!?

なんだか馬鹿みたいなことを言ってる気がして、顔が熱くなる。


「ですから、あのー……」


どうしよう、うまく言えない。


その時、ヴィヴィエンがふいに私の手を取った。


(えっ?)


驚いて見つめると、彼は私の手のひらに指で何かを書いた。


――『結婚したいの?』


私は思わず息を飲み、彼の顔を見上げる。


紫の瞳が、じっとこちらを見ていた。


その瞳に吸い込まれるような気がして、私は勢いよく頷いた。


「はい!! そうなんです!!」


食い気味に答えると、彼の指が再び私の手のひらをなぞった。


――『いいよ』


「……え?」


一瞬、理解が追いつかなかった。


「……本当ですか!?」


思わず確認すると、彼はにこやかに微笑み、コクリと頷いた。


(いやー……これ、相当困ってたんだわ。)


公爵という立場で、しかも失声症。

おそらく、家同士の都合もあって、まともな婚約話なんて進まなかったに違いない。


(でないと、こんな即OKみたいなことにならないもの!)


私が焦っていたように、彼もまた、焦っていたのかもしれない。


――でも、ここで大事なことを思い出した。


「……あの! でも!!」


思わず声が大きくなる。


「私、普通の結婚じゃなくて神殿婚がいいんですけど……それでも、大丈夫ですか?」


慎重に問いかけると、彼は少し考える素振りを見せた後、またもやコクリと頷いた。


「ほ、ほんとにわかってますか?」


念のため、もう一度確認する。


(だって、神殿婚って本当に絶対に離婚できないのよ!?)


しかし、彼はやはり何の迷いもなく頷いた。


すると、ヴィヴィエンは懐から一枚の紙を取り出した。

そこには文字の表が書かれていた。


彼はそれを指差しながら、ゆっくりと視線を向ける。


(えっと……これは……?)


表に目を凝らすと、そこには手書きの単語が並んでいた。

どうやら彼は、これを使ってコミュニケーションを取ることがあるらしい。


その中の一つ、『婚約期間』という言葉を指し、さらにその隣の『1年と数か月』という文字を示した。


(……公爵家だから、婚約期間が長くなるかもしれないってこと?)


彼は一生懸命、指で順番に文字を示していく。


どうやら、公爵家のしきたりや貴族の手続きの関係で、すぐに結婚することはできないらしい。


「……なるほど。でも、18歳までに結婚できれば、私はなんでもいいです!」


すると、彼はまたもやにこやかに頷いた。


(うわ、本当に迷いがない……!)


どうやら、この話は正式に成立しそうだ。

私はぐっと拳を握ると、心の中で叫んだ。


これで、王太子妃にはならずに済む!!


心の中で勝ち誇ったように叫ぶ。

これで、未来の破滅ルートは回避できる……はず!


喜びを噛みしめていると、ふいにヴィヴィエンが私の袖をそっと引っ張った。


「……?」


視線を向けると、彼は静かに紙を指差していた。


『明日、求婚状を送る』


「……!」


思わず、胸が高鳴る。


(つまり……もう、正式に婚約の手続きを進めるってこと!?)


「はい!」


勢いよく頷くと、彼は満足そうに微笑んだ。


(神様……いや、天使……!!)


突然目の前に降臨した救済の存在。


ここ数年、必死になって探し続けても見つからなかった"絶対に離婚できない婚約相手"。

それが、こんなにあっさり決まるなんて……。


(これはもう、神が使わせた天使としか思えない!!)


私の中でヴィヴィエンの存在が一気に尊くなる。

ありがとう、ありがとう、ありがとう……!


……しかし。


ヴィヴィエンは再び紙を取り出し、そこに書かれたある言葉を指差した。


『どうして僕だったの?』


「……!」


(まずい!!)


神殿婚を誓う相手に、適当なことは言えない……!!


ここで何を答えるかで、この婚約の意味が変わる。

彼は、私のことをどう思っているのかわからない。


ただ単に婚約が必要だから、という理由だけなら、それなりの誠意をもって伝えなければならないし――

かといって、「適当に選びました」なんて口が裂けても言えない!!


(慎重に……慎重に考えるのよ、私!!)


何を言えば無難なのか、何を言えば正解なのか――。


(深く考えて、冷静に答えを出すのよ……!!)


――そして、私は出した答えが。


「……運命。」


「…………」


沈黙。


えっ、私……!? もっとマシなこと言えなかったの!?!?


(ちょ、待って!? なんかすごくロマンチックな雰囲気になっちゃったじゃない!!)


思わず自分の発言を後悔し、頭を抱えたくなる。


しかし――


ふいに、ヴィヴィエンがふわりと微笑んだ。


その笑顔は、どこか穏やかで、嬉しそうで……

心なしか、ほんの少し、照れているようにも見えた。


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