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声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


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34/72

34話目

扉を開けると、そこには広々とした衣装ルームが広がっていた。

ふわりと微かな香りが漂う。優雅でありながら落ち着いた空間。


繊細な刺繍が施されたドレス、美しい宝飾があしらわれた装飾品。

整然と並ぶそれらは、まるで王宮の衣装室のような光景だった。


「……どうしてこんなにあるの……?」


ミシェリアは、驚きと戸惑いの入り混じった目で部屋を見渡した。

ドレスの数だけでなく、一着一着が明らかに手の込んだ逸品ばかり。


すると、傍らにいたメイドが当然のように微笑む。


「当たり前です。ミシェリア様はすでにラヴェルノワ公爵家の奥様なのですから。」


「……あぁ、だから"若奥様"って呼ばれたのね。」


ミシェリアは小さく息をつき、少しだけ胸にこみ上げるものを感じた。

確かに、結婚したのだ。書類にも、神にも誓いを立てた。

それがこうして、衣装という形で目に見えると、不思議な感覚になる。


(結婚したんだな……。)


今さらながら、じわりと実感が押し寄せてくる。


それにしても――。


「……面白いほど、ランブルリアのドレスばかりね。」


視線を走らせると、そこにはランブルリアのドレスばかりが並んでいた。

鮮やかな色合いのものから、落ち着いたパステルカラーのものまで、すべてが上品で洗練されている。


(ヴィヴィアンって、ランブルリアがお気に入りなのかしら?)


ミシェリアが何気なく呟くと、メイドが不思議そうに小首を傾げる。


「え? 若奥様のお気に入りだと聞いておりますが……。」


「……私の?」


思わず口にしてから、考え込む。

ランブルリアなんて、ヴィヴィアンと出会うまでは一度も足を運んだことがなかったはず。


でも、なんだか見覚えがあるような――。


ふと、ミシェリアの視線が止まる。


淡い青に、金の刺繍が施された気品あふれるドレス。

上品で、派手すぎず、しなやかな生地が流れるようなシルエットを描いている。


(これ……。)


指先で、そっと布地を撫でる。


その瞬間、記憶が鮮やかに蘇った。


――回帰前。

王太子妃だった頃、華美なドレスを着せられることが当然とされていた。

その身にまとうものは、誰よりも豪奢でなくてはならない。


だから、どんなに気に入ったデザインでも、上品で控えめなものは"王太子妃らしくない"と却下された。

華やかすぎるサロエローズのドレスばかりを選ばれ、私はただ従うしかなかった。


(でも、本当は……。)


静かに、美しく、しとやかなドレスを着たかった。

誰よりも煌びやかに飾られるのではなく、"自分が心から好きなもの"を纏いたかった。


何度もカタログを眺めながら、「いつかこんなドレスを着られたら……」と思ったことがあった。


(まさか……そのときの?)


息を呑む。


並べられたドレスをもう一度見渡すと、そこには見覚えのあるデザインばかりが揃っていた。

あの頃、密かに憧れていたもの。

一度も袖を通すことのなかった、"本当に着たかった"ドレスたち。


――未来で私が望んでいたドレスが、ここに揃っている。


心臓が高鳴る。

驚きと感動がないまぜになり、胸の奥がじんわりと温かくなる。


(……ヴィヴィアン。覚えててくれたんだ。)


消えてしまった世界の"私"を。

記憶の中にしか存在しない、あの頃の私の気持ちを。


ヴィヴィアンは、私が忘れてしまいそうになっていた願いを、こうして現実にしてくれた。

消えた過去の私を、彼は今も、ずっと把握してくれている。

そして――"今の私"のことも。


「……っ」


涙が、ふわっと溢れそうになった。


(なんで……なんで、こんなに……。)


こみ上げる感情が抑えきれなくなる。

嬉しさ、愛おしさ、切なさ――それらが一気に胸を締めつける。


ミシェリアは思わず、両手でドレスをぎゅっと抱きしめた。


(もう……ずるいわよ、ヴィヴィアン。)


止めようとしても、滲む視界がどうしようもなく揺らぐ。

胸の奥で、言葉にできない思いがぐるぐると渦を巻いていた。


◇◆◇◆◇


着替えを終えたミシェリアは、大きな姿見の前でそっとスカートの裾を整えた。

淡いベージュを基調としたドレスに、優しい黄色の刺繍が施された上品な装い。

シンプルでありながら洗練されたデザインは、彼女の柔らかな雰囲気を一層引き立てていた。


(……なんだか、不思議な気分。)


そんな考えが頭をよぎり、思わず頬が熱くなる。

気持ちを落ち着かせるように息を整えながら、そっと衣装室の扉を開けた――その瞬間。


「……え?」


廊下に出た途端、目の前に立っていたのはヴィヴィアンだった。


彼もまた、ベージュと黄色を基調とした衣装を纏い、まるで最初から揃えていたかのような統一感を醸し出していた。

彼の端正な顔立ちを引き立てるシックな色合いは、貴族らしい落ち着きと威厳を漂わせる。

そして何より――隣に立つ自分との相性が、驚くほど完璧だった。


「適当に選んだのに……どうしてお揃いなの?」


思わずクスリと笑いながら呟くと、ヴィヴィアンは少し驚いたように目を瞬かせ、それからふっと微笑んだ。

その微笑みはどこか照れくさそうで、けれど優しさに満ちていた。


「……良く似合っている。綺麗だ。」


低く甘い声が、心の奥をくすぐる。

言葉以上に、彼の視線が優しく絡みつくようで、思わず目を逸らしたくなるほどだった。


(なんだか……変な気持ち。)


自分でも気づかぬうちに、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。

まるで、これが当たり前のように――。


そんなミシェリアの様子を見守りながら、ヴィヴィアンはゆっくりと手を差し出した。


「夕食を食べて行かないか?」


差し出された手は、すらりとした美しい指先を持ち、どこまでも紳士的だった。

けれど、その指の間にほんの僅かに力がこもっているのを感じる。

まるで「今夜は、もう帰さない」とでも言わんばかりに――。


ミシェリアは少しだけ考える素振りを見せたが、それもほんの一瞬。


「えぇ、喜んで。」


そっと彼の手を取ると、ヴィヴィアンの目元が優しく和らいだ。

そのまま絡められた指がほどけることなく、彼にエスコートされながら、ミシェリアは館の奥へと歩き出す。


――心臓の鼓動が、普段より少しだけ速くなるのを感じながら。


◇◆◇◆◇


案内された食堂の扉を開けた瞬間、目に飛び込んできた光景に、ミシェリアは思わず足を止めた。


「……え?」


驚きに瞳を瞬かせる。


そこにいたのは、思いがけない人物――ヴィヴィアンの両親だった。

優雅に席についている彼らは、まるで待ち構えていたかのように、ミシェリアを見て微笑んでいる。


その隣で、ヴィヴィアンの動きが一瞬止まる。

彼の表情がピクリと引きつり、低く響く声が室内に落ちた。


「……どうして、ここに?」


滲む困惑。


その問いに、母エミリアは上機嫌に微笑みながら、軽やかに答えた。


「だって、ヴィヴィアンだけずるいじゃない? 私たちもミシェリアちゃんとお話したいわ。」


「まあ、そういうことだ。」


父ヴィストリアが、どこか呆れたように肩をすくめる。


さらりとした言葉に、ミシェリアは思わず肩をすくめた。


(すごく歓迎されてる……。)


一方、ヴィヴィアンは明らかに意表を突かれた様子で、わずかにため息をつく。

そして、静かに椅子を引きながら、投げやりな口調で告げた。


「……好きにしろ。」


その一言に、ミシェリアはくすっと笑いながら、用意された席へと歩みを進めた。

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