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声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


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26/72

26話目

婚約式当日――。


王都、ラヴェルノワ公爵邸の広大な庭園 は、祝福の色に包まれていた。


手入れの行き届いた花々が咲き誇り、庭園の至るところに豪華な装飾が施されている。

公爵家とローベルク伯爵家の紋章が誇らしげに掲げられ、二つの家の結びつきを示していた。


貴族たちは談笑しながら、高級な軽食 を楽しみ、上質なワインや紅茶 を味わっている。

あちこちで交わされる祝福の言葉。

貴族社会において、名門ラヴェルノワ公爵家との婚約は、一大イベントとして注目されるのも当然だった。


――そして、婚約者である ヴィヴィアンとミシェリア は、それぞれ家族とともに入場し、中央へと進む。


静まり返る会場。

厳かな空気の中、司祭 が前に進み出る。


「本日、ここにお集まりの皆々様。この婚約の意義は、ただの契約ではありません。

 これは、二つの家が未来をともに歩む証。

 そして、二人が結びつくことで、この国の安定と繁栄をもたらすものであると――」


流れるような荘厳な言葉が続く。

その間、ヴィヴィアンとミシェリアは隣に立ち、静かに司祭の言葉を聞いていた。


(……ついに、この時が来たのね。)


ミシェリアは、ふとヴィヴィアンの横顔を盗み見る。

相変わらず表情は穏やかだが、彼の指先はわずかに強張っていた。


(緊張してる……?)


なんとなく可笑しくなり、思わずくすっと笑いそうになったが、すぐに真剣な顔を作り直す。

今は、婚約の儀式の最中なのだ。


――そして、婚約の証の授与が行われる。


ラヴェルノワ公爵家の代表 が前に出て、誇らしげに口上を述べる。


「これより、ラヴェルノワ公爵家とローベルク伯爵家の婚約を正式に認める。

 この婚約が両家の繁栄をもたらすことを、ここに誓おう――」


堂々とした宣言に、会場は静かに頷く。


指輪の交換――。


ヴィヴィアンが懐から小さなベルベットの箱を取り出し、静かに開いた。


そこに収められていたのは、

ラヴェルノワ公爵家に代々伝わる指輪――銀細工の美しいデザインに、紫色の宝石があしらわれたものだった。


ミシェリアの指に、ヴィヴィアンがそっと指輪をはめる。


(……とても、綺麗。)


思わず指輪を見つめ、微かに唇を噛む。

今、ようやく 現実として受け入れられる瞬間 だった。


ヴィヴィアンが婚約者として正式に自分の隣に立ち、これからの人生をともに歩むのだと――。


しかし、その静かな感動の瞬間は、突如として不躾な声 によって打ち破られた。


「待ってください!!」


会場がざわめく。


その声の主を確認し、ミシェリアは息を呑んだ。


王太子ミリスクレベン が、兵を引き連れて ゆっくりと歩いてきたのだ。


「……ッ!」


ヴィヴィアンの指先が、ミシェリアの手を強く握る。

彼の顔を見るまでもなく、その手のひらから伝わる温度だけで、彼の警戒心がひしひしと感じられた。


一歩ずつ、王太子がこちらへと近づく。

彼の姿を見た招待客たちは、口々にざわめき始めた。


「なぜ王太子殿下が……?」

「こんな場で、何を……?」


緊張が走る。


王太子ミリスクレベンは、堂々とした足取りで壇上へと歩み寄り、ミシェリアを真っ直ぐに見つめながら言い放った。


「その婚約を、破棄していただきたい。」


その場が、凍りついた。


誰もが息を呑み、静寂が広がる。


「そして、私と婚約してほしい。」


――次の瞬間、会場が一斉に騒然となる。


「な、なんだって!?」

「まさか、王太子殿下が直接求婚を!?」

「ありえない……!」


その場の貴族たちは、口々に信じられないというような顔をしていた。


しかし、ミシェリアは 静かに王太子を見つめていた。


(やっぱり……来たわね。)


彼が何かを仕掛けてくることは、分かっていた。

でも、まさか 婚約式当日に堂々と乗り込んでくる なんて――。


(ミリスクレベン……あなた、どういうつもりなの!?)


指先に冷たい汗が滲む。

心臓が早鐘のように鳴っていた。


そして、横に立つヴィヴィアンの手のひらが、さらに強く握られるのを感じた。


(……ヴィヴィ。)


彼もまた、静かに、そして確かな怒りを込めて王太子を見つめていた。


――婚約式は、最悪の形で中断せざるを得なかった。


王太子ミリスクレベンが、自らの私兵を率いて圧力をかけてきたからだ。


ラヴェルノワ公爵邸の庭園に並んでいた招待客たちは、困惑の色を浮かべながらざわめき立つ。

誰もが、貴族社会において絶対にあってはならない事態を目の当たりにしていた。


「王太子殿下、これはあまりにも唐突すぎます……!」


前に出たのは、元ラヴェルノワ公爵夫妻 だった。

彼らはすでに現役を退き、今はヴィヴィアンが正式な公爵として公の場に立つ。

それでも、長年公爵家を支えてきた彼らの言葉には、依然として重みがあった。


「殿下、いくら王家の血を引いておられるとはいえ、これは一方的すぎる。

 この婚約は、両家が合意の上で結ばれたもの。それを、この場で破棄しろと……?」


ミリスクレベンは微動だにせず、その鋭い金色の瞳を元公爵夫妻に向けた。


「私は、正式な求婚をしているのです。」


静かに、しかし決して覆せないといった確信を込めた声だった。

そして彼の背後では、王家直属の私兵たちがずらりと並び、無言の圧力をかけている。


(なんてこと……。)


ミシェリアは拳を握る。

王家の権力を背景に、この場を自分のものにしようとしているのは明らかだった。

それがどれほど異常であろうとも、王太子の求婚を真正面から拒絶すれば、貴族社会に影響が出る可能性は高い。


「殿下……これは"契約" なのですよ?」


元ラヴェルノワ公爵夫人もまた、毅然とした表情で言葉を紡いだ。


「貴族の婚約はただの恋愛とは違います。お互いの家門、名誉、未来をかけてのもの。それを貴方は、今この場で無に帰せとおっしゃるのですか?」


ミリスクレベンはその言葉に対し、一瞬だけ目を伏せた。

そして――次の瞬間、彼は 膝をついた。


会場が、再びどよめく。


王太子が、膝をついて懇願する。


この光景は、誰もが想像だにしなかったことだった。


「……どうか、チャンスをください。」


頭を下げる彼の言葉に、会場は完全に沈黙した。

次の瞬間、ある者は感嘆し、ある者は動揺し、ある者は疑念を抱いた。


王太子という存在が、これほどまでに 一人の女性を求めている。

それを見せつけるかのような光景だった。


(違う……この人は、ただの恋愛感情で求めているわけじゃない。)


ミシェリアは思わず、彼を見つめる。

その表情は、懇願する者のそれではなかった。


そこにあるのは――

狂気にも似た、執着。


「……ミーシャ、私の気持ちは、本物だ。」


ゆっくりと顔を上げた王太子の目が、まっすぐにミシェリアを捉える。

碧い瞳は、深い暗闇を宿していた。


それは、かつての彼が見せたことのない、異常なまでの情熱だった。


「私がどれだけ、君を愛しているか……知ってほしい。」


彼の言葉が、重く響く。


このまま正面から拒絶すれば――王家との関係が決定的に悪化する。

しかし、この申し出を受ければ――ヴィヴィアンとの婚約は、完全に崩れてしまう。


選ばなければならない。


ミシェリアは、息を呑んだ。


婚約式は――完全に、止まってしまった。


静寂が会場を包む。


(どうする……どうすれば、この場を丸く収められる……?)


――そして、ミシェリアは 決断 した。


気絶するフリをしよう。


決して下手に動かず、ただ、倒れる。

そうすれば王太子も、これ以上強引には押し通せないはず。


(ごめんなさいね、ヴィヴィアン……。)


視線を感じた。

彼がこちらを見ているのが分かる。

けれど、今は――。


ふらり。


「――っ!」


彼女の体が揺らぐ。

そして次の瞬間、力なく その場に崩れ落ちた。


「ミシェリア様――!?」「お嬢様!!」


周囲がどよめき、会場が騒然とする。


ミリスクレベンの手が、一瞬だけ動いた。

だが、それよりも早く――


ヴィヴィアンが、ミシェリアを抱き止めた。


スッと滑るような動きで彼女を受け止めると、優しく抱え上げる。

その腕の中で、ミシェリアは静かに 意識を失ったフリ を続けた。


(これで……時間は稼げる……。)


「すぐに部屋へ――!」


ラヴェルノワ公爵家の使用人たちが、すぐさま動く。


ミリスクレベンの表情がわずかに歪んだ。


「……ミシェリア……?」


彼女を呼ぶ声が、ほんの僅かに 焦り を帯びていた。

彼の碧い瞳が揺れる。


けれど――


ヴィヴィアンは、ゆっくりとミシェリアを抱えたまま、会場を去った。


王太子の前で、まるで 奪い返すかのように。

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