表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/72

24話目

お茶会も進み、次第に会場はさらに多くの貴族たちで賑わってきた。貴族らしい優雅な笑い声や、食器が触れ合う音が心地よく響く。しかし、その中にあっても、私はどこか落ち着かない気持ちを抱えていた。


(なんだか、妙に人が多いわね……)


姉とヴィーネストの側にいようと歩を進めるが、人の波に飲まれてしまい、少しずつ離れていく。


(え……どうしてこんなに押されるの? 何か……おかしい。)


胸の奥に、嫌な予感が広がる。まるで、見えない力で導かれるように、意図せず勝手に移動していく。


――そう、これは回帰前にも経験したことがある。


18歳の時、王太子との初めての出会いとなった舞踏会でも、まったく同じように人の流れに押され、気づけば彼の前に運ばれていた。


(まさか……)


思い出した瞬間、背筋が凍るような感覚が走った。


そして――。


「これはこれは……ローベルク伯爵家のご令嬢では?」


背後から響く、低く響く声。


心臓が一瞬、ぎゅっと縮こまる。


(――しまった。)


恐る恐る振り返ると、そこには深紅の衣装をまとった王太子、ミリスクレベンがいた。端正な顔立ちに柔らかな笑みを浮かべ、まるで長年の友のような態度で私を見つめている。


「ミリスクレベン殿下……」


言葉を絞り出しながら、私は礼儀正しく会釈する。


(とにかく早く離れないと。)


焦りながらも表情には出さず、静かに距離を取ろうとするが――。


「せっかくだ、ぜひゆっくり話でもしよう。」


彼は私を優雅に誘い、自然な流れで近くのテーブルへと案内する。周囲の貴族たちも、王太子自らが誘っているのだからと道を開ける。


(まずい……断る隙がない。)


仕方なく、席につくことを余儀なくされた。


「噂では、ローベルク伯爵家の次女はすでに婚約されたとか。」


にこやかに問いかけてくる彼に、私は静かに頷いた。


「はい。その通りでございます。」


「婚約というのは、まだ結婚ではない。心変わりということもありますね?」


(……来た。)


私は深く息を吸い、冷静に言葉を紡ぐ。


「いいえ、私はラヴェルノワ公爵を愛しておりますので。」


ミリスクレベンの表情が一瞬だけ変わる。驚きというより、何かを確かめるような鋭い眼差しだった。


「恋愛結婚……ならば、なぜ婚約式を早めるのですか? 騙されているのでは?」


王太子らしい巧みな言葉の選び方に、私はすぐに返す。


「お互いに愛し合っているうえ、相手の病のこともあり、早く安心させてあげたいという気持ちからです。」


それは嘘ではない。私がヴィヴィアンを心から思いやっているからこそ、できるだけ早く彼を安心させたかった。


「……では、まだ私にもチャンスがあるのでは?」


冗談めかした口調の中に、真意が含まれているのがわかる。


私は微笑みながらも、遠回しに釘を刺した。


「すでに書類も提出しており、二週間後には婚約式が執り行われます。殿下ともあろうお方が、醜聞を生むような行動はなさらないでしょう?」


「先ほども言ったように、結婚するまではチャンスがある。」


ミリスクレベンは余裕の笑みを浮かべながら、まるでゲームを楽しむように言う。


(……この人、昔はこんな話し方をしなかった。)


以前の私は、彼の言葉に翻弄され、いつしか彼に夢中になっていた。でも今は――。


「その心は、いつからでしょう?」


私は静かに問いかけた。


王太子はわずかに目を細め、答える。


「学園の視察へ行った時、一目惚れしました。」


(――学園!?)


私は衝撃を受けた。


そんな昔から……? 私は気にも留めていなかったのに?


心臓がざわつく。動揺してはいけないとわかっていても、過去の記憶が私を乱す。


回帰前の私は、死ぬほど――ううん、死んでもいいと思えるほど、彼を愛していた。


けれど――。


心に浮かぶのは、王太子の顔ではなく、銀髪の青年だった。


(……もう、私は。)


ヴィヴィアンの微笑み、手の温もり、優しく撫でる仕草、筆談で伝えてくれた言葉たち。


王太子にどれほど囁かれようと、私の心はもう彼に向いていない。


その時、お茶会の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。


(……よかった。)


私はそっと安堵の息をつく。


「もっと話をしたい。ディナーでもどうですか?」


ミリスクレベンが微笑みながら提案してくる。


「申し訳ありません、迎えが――」


言いかけた瞬間、人混みに紛れ、私は彼の手によって腰を支えられた。


(しまった。)


周囲には人が多く、まるで流れるように、私は彼にエスコートされながら門へと向かうことになってしまった。


門へと続く道を歩きながら、私は必死に頭を働かせていた。


(このままじゃ……最悪の事態になる。)


脳裏に浮かぶのは、過去の記憶。

王太子妃だった頃、私は何度も彼の策略を目の当たりにしてきた。

彼は欲しいものがあれば、どんな手を使ってでも手に入れる。

どれだけ誠実な言葉を並べようとも、それはすべて彼にとって"計算された手段"に過ぎない。


(このままディナーに行けば、食事に何か混ぜられるかもしれない。)


王宮では、王太子や高位貴族が口にするものはすべて毒見が必要だった。

それは、信頼できる者同士でも、決して信用してはならないという戒めでもあった。

つまり、彼が本当に私を手に入れたいのなら……あらゆる手段を講じてくる可能性がある。


(なんとか……逃げないと!)

(何か、何かきっかけがないと――!!)


――その頃。


門の外では、ヴィヴィアンがすでに到着し、静かに待っていた。

時間が来る前から立っていたのは、彼なりの焦りの表れだった。

一刻も早く、彼女を迎えたい――そんな気持ちが、彼の姿勢から滲み出ていた。


けれど、次の瞬間。

人混みの向こう、門から現れたのは――王太子にしっかりとエスコートされたミシェリアの姿だった。


――心臓が凍りつく。


(……違う。)

(そんなはずはない。彼女が……自ら、あの男のもとへ行くはずが……!)


ヴィヴィアンは息を呑み、すぐに駆け出した。

けれど、王太子の周囲には護衛や従者、そして貴族たちが波のように集まり、ヴィヴィアンの行く手を阻む。

彼は人をかき分けながら、何度も必死に手を伸ばした。


(間に合わない――!!)


喉が張り裂けそうなほど叫びたいのに、声が出せない。

彼の病が、今この場で最大の障壁となっていた。


(……ミシェリア!!!)


心の中で叫びながら、ヴィヴィアンは声にならない声を張り上げる。


(ミシェリア!!!!)


しかし、どれだけ心の中で叫ぼうと、彼女には届かない。

彼女の姿は、王太子に導かれるまま、ゆっくりと門の向こうへ遠ざかっていく。


(行かないでくれ!!!!!)


目の前が暗くなり、足がすくむ。


(ダメだ……また、あのときのように……!!)


未来で、彼は彼女を救えなかった。

あの時、駆けつけたときにはすでに遅かった。

彼の腕の中にいたのは、冷たくなった彼女の亡骸だった。


(もう二度と……絶対に……!!!)


そのとき――。


「ミシェリアーーーーーーー!!!!」


大きな声が響いた。


まるで鐘の音のように、空気を震わせる強い叫び声。

その瞬間、ヴィヴィアンは驚いて振り返った。

そこには――ヴィーネストがいた。

あの無邪気な笑顔を浮かべる末弟とは違う、凄まじい気迫を放つ姿。


ミシェリアがピクリと動く。

彼の声が、彼女の心を揺さぶったのがわかった。


その一瞬の隙を突き――。


「申し訳ありません!」


ミシェリアは、丁寧ながらもはっきりとした態度で王太子の手をそっと外した。


「私はすでに婚約者がいる身ですので、これ以上お手間を取らせるわけにはいきません。」


微笑みを浮かべながら、ミシェリアは優雅に一礼する。

しかし、その瞳の奥には迷いのない強い意志が宿っていた。


王太子が驚いたように目を細める。


しかし、もう彼女は迷わなかった。


(ヴィヴィアン!!)


一目散に駆け出した。

駆ける先には、必死に手を伸ばしている銀髪の彼がいる。

人混みをかき分けながら、懸命にこちらへ向かってくる姿。


彼に向かって、飛び込むように――。


「ヴィヴィ――!!」


次の瞬間、ヴィヴィアンはその細い体を、強く、力強く抱きしめた。


腕の中にある温もりを感じた瞬間――彼は、ようやく息ができる気がした。


彼女の鼓動が、自分の胸に伝わる。


(――間に合った。)


彼の腕は震えていた。

それほどまでに、彼は恐れていたのだ。


再び彼女を失うことを。


ミシェリアもまた、彼の鼓動を感じながら、そっと瞳を閉じた。


「……迎えに来てくれて、ありがとう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ