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声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


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22/72

22話目

婚約式の準備で屋敷中が慌ただしく動き回っている中、私は鏡の前でドレスを選んでいた。


(婚約式の準備で大忙しなのに、どうしてミストリア侯爵家のお茶会にまで出ないといけないのかしら……)


正直なところ、今は余計な行事に参加している余裕なんてない。

でも、貴族の社交界では、こうした招待を断るのはなかなか難しい。特に今回は、格式高い若者の交流会という建前もある。


(はぁ……面倒ね……)


そんなことを考えていると、部屋の外からメイドの声が聞こえた。


「お嬢様、ラヴェルノワ公爵家よりドレスが届きましたよ。」


「え?」


私は思わず顔を上げる。


(ヴィヴィアンが送ってくれたのかしら?)


少し驚きつつも、メイドが運んできた箱を見つめていると、ちょうど廊下を通りかかったヴィーネストが、ひょこっと顔を覗かせた。


「ん? なんか届いたの? みせてー!!」


大きな瞳を輝かせながら、無邪気に駆け寄ってくるヴィーネスト。


(……またこの子ったら)


私は少し呆れつつも、深く考えずに頷いた。


「別にいいですよ。」


「やったー!」


ヴィーネストは嬉しそうに箱を開け、中身を覗き込んだ。

しかし――。


彼はパチパチと瞬きをし、不思議そうに首を傾げた。


「義姉上ー、兄上はランブルリアのドレスしか送らないよ?」


「……え?」


私は一瞬、意味が理解できずにヴィーネストを見つめる。


「でも、ラヴェルノワ公爵家から届いたって……」


そう言いかけた瞬間、メイドの様子が妙にぎこちなくなった。


(……なんか変。)


それに気づいたのか、ヴィーネストもじっとそのメイドを見つめた。


「ねぇ、おねーさん、見ない顔だね?」


その一言で、メイドの表情が一瞬でこわばった。


次の瞬間――。


「……っ!!」


彼女は素早く箱の中のドレスを抱え、窓へと駆け出した。


「え、ちょっ――!?」


私は驚いて声を上げたが、メイドは振り返りもせず、そのまま窓枠に飛び乗る。


「待って――!! そこ三階よ!?」


しかし、メイドは躊躇することなく、しなやかな動きで身を翻し、あっという間に窓の外へと消えた。


すぐさま窓際に駆け寄り、下を覗き込む。


(ま、まさか……)


だが、そこには転落してうめく姿などなく――

信じられないことに、彼女は華麗に着地して、そのまま軽やかに走り去っていった。


「え、普通に降りて逃げた……?」


呆然としながら、その光景を眺めていると、ヴィーネストが静かにぽつりと呟いた。


「警備……強めないとだね……。」


「……」


私はじっとヴィーネストを見つめる。


彼は普段の無邪気な笑顔を浮かべてはいるものの、その目の奥には、冷静に状況を分析しているような鋭い光が宿っていた。


(……やっぱり、この子、無邪気なだけじゃないわよね)


そんなことを思いながら、私はゆっくりと窓を閉めた。


(……でも、これ、どういうこと?)


ラヴェルノワ公爵家からのドレスじゃないのに、誰かがラヴェルノワ公爵家を騙って送りつけた?


そして、その正体を知られたくなくて、わざわざメイドに変装した誰かが逃げた?


(なにか、良くないことが起こる前触れのような気がする……)


―――――――――

――――――――


侯爵家のお茶会の前日――。


準備に追われるローベルク伯爵家の屋敷に、銀色の髪が揺れる姿があった。


「ヴィヴィ!」


思わず呼びかけると、彼は静かに微笑みながら、手にした箱を差し出した。


「……これは?」


箱には、見覚えのあるブランドの紋章が刻まれていた。


「ランブルリアのドレス?」


私が尋ねると、ヴィヴィアンは小さく頷く。


「これを着ていけって?」


再びコクリと頷く。


「ふぅん……まあ、確かに適当なものを選ぶよりは、間違いないわよね。」


婚約者であるヴィヴィアンが選んだものなら、間違いなく最高級のものだろう。 そう納得しながら、私は彼を部屋へ招き入れた。


テーブルには、彼が筆談しやすいように紙とペンを用意する。


「ヴィヴィもお茶会に来るの?」


そう聞くと、ヴィヴィアンは少し困ったように首を横に振り、喉を指差した。


(……ああ、そうよね。)


私は心の中で小さくため息をつく。


(失声症だから、人が多い場所では厳しいか……。)


それでも、彼は静かにペンを走らせた。


『でも、迎えには行きます。』


「……うん。」


短く答えると、ヴィヴィアンはふっと静かに息をついて――

次の瞬間、ストンと私の肩にもたれかかってきた。


「……ヴィヴィ?」


驚いて彼を見上げると、彼はそのままペンを取る。


『二ヶ月後のダーンストレイヴ公爵家の舞踏会へは、一緒に行きましょう。』


「えぇ、ぜひ。」


彼が求めるなら、どこへだって一緒に行く。 そう思いながら微笑むと、ヴィヴィアンの肩が少しだけ安堵したように揺れた。


そして、彼はさらりと次の言葉を紡ぐ。


『明日は、なるべくヴィーネストの側から離れないでください。ああ見えて、あれはちゃんとあなたを守ります。』


「ヴィーネストが……?」


意外な名前に驚きながら、私は思い出したことを口にした。


「この間、お父様とヴィーネストが話している様子を偶然聞いちゃったの。思った以上にしっかりしていて驚いたわ。」


すると、ヴィヴィアンは少しだけ得意げな顔をして、スラスラとペンを走らせる。


『そうなんです。兄弟の中でも、一番頭が切れるやつなんです。』


――その言葉とともに、ヴィヴィアンの瞳がふと遠くを見つめる。


それは、シェリルアのお見合いを持ちかけた時のことだった――。


◇◆◇◆◇


ラヴェルノワ公爵邸の広々とした応接室。

静謐な空気の中、四人の兄弟が並び、ヴィヴィアンを見つめていた。


「兄上、話とはなんでしょうか?」


最初に口を開いたのは、次男のヴィジェストだった。

彼の声は冷静だが、その表情には少しばかりの警戒が滲んでいる。


ヴィヴィアンはゆっくりとペンを走らせ、宙に文字を浮かべた。


『王太子ミリスクレベンがミシェリアに興味を持っている。』


その言葉に、兄弟たちは一瞬息を呑む。


『それだけならば問題はない。しかし、ミシェリアの姉であるシェリルアには現在婚約者がいない。

そのため、王太子が彼女に目を向ける可能性がある。』


「……なるほど。それで俺たちをあてがおうと?」


三男のヴィートヒートが、わずかに眉をひそめながら問いかける。


ヴィヴィアンは首を横に振った。


『そんなつもりはない。だが、もし気に入るのであれば、考えてみてもいいだろう。』


そう言うと、ヴィヴィアンはそばに置かれていた一枚の絵画を見せる。


そこに描かれていたのは、金髪に金眼を持つ一人の女性――シェリルア・ローベルク。

柔らかな微笑みと、優雅な仕草。まさに貴族社会の中でも特別な気品を放つ存在だった。


「……っ!」


「う、嘘だろ!? こんな美人な方が、どうして今まで婚約が決まらなかったんだ!?」


ヴィートヒートとヴィルダンが驚きの声を上げる。


ダーナンドレル王国において、金色は王族に近い色とされ、極めて珍しい。

そのため、貴族たちの間では人気が高く、シェリルアほどの美貌を持つ女性が未婚でいること自体が異常だった。


「これは……どこの貴族も手を出したくなるな……。」


ヴィルダンが呟くように言う。


だが、それとは対照的に、末弟のヴィーネストは何も言わず、じっと絵画を見つめていた。


ヴィヴィアンはそんな彼を一瞥しながら、さらに文字を綴る。


『調べによると、彼女は前の婚約者に酷い裏切られ方をしたらしい。それが原因で、ずっと引きずっているようだ。』


「信じられない! こんなにも引く手あまたの女性が!」


「……逆にそれが原因かもな。」


ヴィジェストが静かに呟いた。


シェリルアほどの逸材なら、貴族社会の中で"政治的駒"として扱われてもおかしくない。

その美しさと家柄を利用しようとする者が、何人もいたことだろう。


そんな彼女にとって、愛を囁いてくれる存在は特別だったのかもしれない。

だが、それが偽りだったと知った時、どれほどの絶望を味わったことか……。


『――見合いをしてみたいと思う者は、手を挙げろ。』


ヴィヴィアンの言葉に、兄弟たちは一瞬顔を見合わせる。


そして――


「……やらせていただきます。」


「俺も。」


「僕も興味がありますね。」


次男、三男、四男が次々に手を挙げた。


その中で、ヴィーネストだけは静かに絵を見つめたまま、少し間を置いてから――


「ねぇ、僕がもらっちゃっていいですか?」


にこりと微笑みながら、さらりと口にした。


「何を言ってるんだ、お前が一番無理に決まっているだろう。」


ヴィジェストが呆れたように言うと、ヴィーネストは肩をすくめる。


「そんなことないでしょ? 14歳になったばかりなのに。」


「14歳だから無理なんだよ!」


「しかも、成長が遅すぎる! その華奢な身体で、どうやって彼女を守るつもりだ?」


ヴィルダンが呆れたように腕を組むと、ヴィーネストは不満げに唇を尖らせる。


「兄上がデカすぎるんですよ。」


「それにしても、金髪に金眼かぁ~! お姫様みたいだね、年上だけど。」


ヴィーネストは楽しそうに目を輝かせながら、改めて絵を見つめる。


ヴィヴィアンはしばし弟たちの様子を見つめると、再びペンを走らせた。


『わかった。ただし、無理強いは禁止だ。あくまで顔を合わせるだけだ。それを忘れるな。』


「はい!」


兄弟たちは一斉に声を揃えた。


ラヴェルノワ公爵家の弟たちには、これまでにも多くの縁談が持ち上がっていた。

しかし、どの令嬢も自分たちよりも容姿が劣っていたり、家柄だけを見ていると感じて断ってばかりだった。


そんな彼らにとって、シェリルアは「理想的な相手」だったのかもしれない。


しかし、ヴィヴィアンは内心で冷静に分析していた。


(特にヴィーネスト……こいつが一番読めない。)


彼はまだ14歳。

しかし、その頭の切れ味は、兄弟の中でも群を抜いている。


実際、ヴィーネストは幼い頃から計算高く、成長すらもコントロールしていた節があった。

必要以上に食事をとらず、発育を抑えることで、縁談を断る理由にしていたのだ。


それほど慎重で計算高いヴィーネストが、今回はどう動くのか。


ヴィヴィアンは弟の横顔を見つめながら、わずかに目を細めた。


(……今回ばかりは、どう出るかが楽しみだな。)

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