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声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


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21/72

21話目

暖かな陽射しが窓から差し込み、庭の薔薇が風に揺れる。

静かで穏やかな昼下がり。

屋敷の応接室では、ミシェリアとシェリルアが並んで紅茶を楽しんでいた。


そこへ、執事が一通の封筒を手にして現れる。


「お嬢様方、ミストリア侯爵家から招待状が届きました。」


「ミストリア侯爵家?」


ミシェリアが不思議そうに封筒を受け取る。

金箔で縁取られた豪華な封筒には、侯爵家の紋章が刻まれていた。


「なになに……?」


封を切り、中の手紙を開く。


『若き貴族たちの交流を深めるために、

ミストリア侯爵家にてお茶会を開きます。

ご都合がよろしければ、ぜひご参加くださいませ。

日程は一週間半後となります。』


「……ふむ、格式の少しだけ高いお茶会みたいね。」


ミシェリアは姉の顔をちらりと見た。


「姉様、行くの?」


すると、シェリルアは優雅にティーカップを口元に運びながら、静かに微笑む。


「ええ、行かないわけにはいかないでしょう?」


「うーん……」


ミシェリアは少し悩んだ。

侯爵家主催の交流会となると、それなりに気を遣わなくてはいけない。

それに、参加者の中には王太子ミリスクレベンもいる可能性が高い。


(うっ……なんか気が重いわね……)


姉が行くのは当然として、私はできるだけ目立たずに済ませたいな……などと考えていたそのとき――


「ぼくも行く!」


元気よく声を上げたのは、膝の上でくつろいでいたヴィーネストだった。


「えっ……」


私は思わず眉をひそめる。


(……いやいやいや、あなたが来る意味あるの!?)


ヴィーネストはにこにこと無邪気に笑いながら、姉の腕にしがみつく。


「シェリーお姉様が行くなら、ぼくも一緒に行きたいなぁ~。」


「まぁ、ヴィニーったら可愛らしいこと。いいわよ、一緒に行きましょう?」


姉は完全に甘々な笑顔で、ヴィーネストの頬を優しく撫でた。


私はその光景を見つめながら、内心で叫ぶ。


(いやいや、姉様!! 騙されてるわよ!! その子、ただの無邪気な子供じゃないから!!!)


確かに、ヴィーネストの外見は可愛らしい少年そのものだ。

けれど、私はもう知っている。


この末っ子のラヴェルノワ公爵家の御曹司が、ただの「純粋無垢な弟」ではないことを――!!


「……ヴィニー、どうして行きたいの?」


試しに探るように尋ねてみると、彼はにっこりと微笑んで、目を輝かせた。


「だって、楽しいことがあるかもしれないじゃない?」


(……この子、絶対何か企んでる。)


私は直感でそう確信した。


しかし、そんな私の疑惑など露知らず、姉は「本当に可愛いわねぇ」とヴィーネストを抱きしめ、完全に油断しきっている。


(あぁ、もう……お姉様……!)


「でも、招待状がいるんじゃないの? ヴィニー。」


私は念のため尋ねてみた。


いくら姉の婚約者とはいえ、ミストリア侯爵家のお茶会は格式ある社交の場。

若者の交流会を兼ねているとはいえ、無作法に押しかけることなど許されないはず。


――そう、普通ならば。


けれど、ヴィーネストは「招待状?」と小首をかしげた後、ニコッと無邪気に笑いながら、とんでもないことを言い放った。


「ラヴェルノワ公爵家に、招待状なんて必要ある?」


ゾクリ。


私は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


(……え? 今、何て?)


彼の言葉はまるで、「貴族の招待状という概念すら、ラヴェルノワ公爵家には適用されない」と言わんばかりだった。


実際、公爵家は王族に次ぐ高貴な家柄であり、その権威は計り知れない。

特に、ラヴェルノワ公爵家は歴代の王族と深く関わりがあり、国の要職を担うことも多い。


(……つまり、公爵家の者が行きたいと言えば、それは即ち"参加決定"ってこと?)


そんな恐ろしい事実を理解してしまった私は、思わずヴィーネストをじっと見つめる。


けれど、彼はあくまでも純真無垢な表情のまま、姉の腕にすり寄るだけだった。


(……この子、やっぱりタダモノじゃない。)


それを察した私は、警戒心を強めた。


しかし、姉はそんな私の心中を知る由もなく、微笑ましく頷く。


「まぁ、ヴィニーはまだ幼いから知らないのね。」


「えっ?」


「貴族の社交の場では、招待状が必須なの。たとえ公爵家であろうと、正式な手続きを踏まなければ失礼にあたるわ。」


(お姉様……!!)


私は思わず額を押さえた。


確かに、一般的な貴族の常識としてはその通りだ。

ただ、それはあくまで「普通の貴族」に限った話。


ラヴェルノワ公爵家に関しては、そんなルールなど形骸化している可能性が高い。

実際、ヴィーネストは「知らなかった」わけではなく、「そんなもの必要ない」と言い切ったのだから。


(お姉様、大丈夫かしら……。)


無邪気に頷くヴィーネストと、彼に何の疑いも抱かずに微笑む姉の姿を見て、私は思わず遠い目になった。


(……さて、どうするつもりかしら?)


私は冷静にヴィーネストの動向を見守る。

彼がこのまま大人しく招待状を受け取りに行くとは思えない。


「えーっと、ミストリア侯爵家の招待状……」


ヴィーネストは指をくるくると回しながら、何か考えている様子を見せた。


そして、ぱっと手を叩いたかと思うと、くるりと振り返り、甘えるように姉の腕に抱きついた。


「ねぇ、シェリルアお姉様~?」


「なぁに?」


「招待状って、もらうの大変?」


姉はふふっと微笑み、優しくヴィーネストの銀髪を撫でる。


「そうね。貴族の社交の場では、主催者が参加者を選んで招待するのが一般的だから……急にお願いしても難しいかもしれないわ。」


「そっかぁ……」


ヴィーネストは頬に指を当て、何やら思案している。

その顔は、姉から見れば「困っている幼い子供」そのものなのだろう。


だが、私には――


(絶対に "次の手" を考えている顔だわ。)


その証拠に、ヴィーネストのエメラルドグリーンの瞳がほんの少しだけ妖しく光った気がした。


「じゃあ……僕、お願いしに行ってくる!」


「まぁ、偉いわね!」


「えへへ!」


そう言ってニコニコしながら椅子から飛び降りると、ヴィーネストは軽やかに駆けていった。


私は彼の後ろ姿を見送りながら、わずかにため息をつく。


「お姉様……あの子、本当に子供に見えてるの?」


「まぁ、何を言ってるの? ヴィニーは可愛い無邪気な子供でしょう?」


(……ちがう。違うのよ、お姉様!!)


――――――――――

――――――――


案の定、それから翌日――。


ヴィーネストは、にこにこしながらローベルク伯爵家の広間へと戻ってきた。


その小さな手には、金色の封蝋が押された、格式高い招待状がしっかりと握られていた。


「はいっ、お姉様! 招待状、もらってきたよ!」


満面の笑みを浮かべ、誇らしげにそれを姉へと差し出す。


「まぁ! すごいわね、ヴィニー!」


姉は驚きながらも、無邪気に喜び、ヴィーネストを優しく抱きしめた。


「ヴィニーったら、本当にしっかりしているのね。これでお茶会にも一緒に行けるわね。」


そう言って微笑む姉に対し、私はというと――


(ちょっと待って。お茶会の招待状ってそんな簡単にもらえるものなの?)


ミストリア侯爵家ほどの名家の招待状なら、通常は厳格な選定を経て送られるもの。

ヴィーネストのような公爵家の人間であれば、申し出ただけで受け入れられる可能性もあるけれど、それでもここまでスムーズに話が進むのはおかしい。


私は怪訝な表情を浮かべながら、恐る恐る尋ねた。


「……ヴィーネスト、どうやってもらったの?」


すると、彼はぱっと私を見て、にこりと微笑む。


「ん? ちょっとお話ししただけだよ?」


(……ちょっとお話ししただけ?)


その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。


この笑顔、私は知っている。


それは、「可愛らしい無邪気な弟」を演じて、大人を手玉に取るときの顔――。


(やったわね、絶対に何かやったわね!?)


その場で問い詰めようとしたけれど、姉が幸せそうに「ヴィニーったら本当に可愛いわね」と抱きしめているのを見て、言葉を飲み込む。


(……お姉様、もう手遅れかもしれないわ……。)


それにしても、ミストリア侯爵家の人間をどうやって丸め込んだのかしら。

あの人たち、そう簡単に譲歩するような人ではなかったはずだけど……。


私は遠い目をしながら、無邪気なふりを続けるヴィーネストの笑顔を眺めるのだった。


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