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声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


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18/72

18話目

広々とした豪華な部屋に通されると、私はふと違和感を覚えた。


(……あれ? お姉様は?)


「お嬢様、お着替えを」


優雅な動作でメイドたちが用意したのは、美しい青のドレス。

細やかな刺繍が施された上質な生地は、見覚えのあるものだった。


「……またお揃い?」


鏡の前でドレスを整えながら、既視感を覚える。

そして、やっぱりこの生地は――


「ヴィヴィアンと同じ生地、だよね?」





着替えを終え、部屋を出ると、そこには青い礼服を纏ったヴィヴィアンが待っていた。

彼は私を見ると、満足げに微笑む。


(やっぱり……またお揃い……!)


「ヴィヴィ、お姉様は?」


すると、彼はオーラを纏わせた指で宙に文字を描く。


『お見合いしてもらってる。』


「……え?」


一瞬、理解が追いつかなかった。


「えっ、誰と!?」


『弟達。』


「…………は?」


私は思わず固まった。


(ちょっと待って、お姉様が……ラヴェルノワ家の兄弟たちとお見合い!?)


「で、でも……それはラヴェルノワ公爵家に迷惑がかかるんじゃ……?」


私は慌てて続ける。


「だって、お姉様の婚約者になる方はローベルク伯爵家を継がないといけないのよ? つまり婿養子になるってこと!」


ヴィヴィアンは、そんな私をじっと見つめた後、コクリと頷き、さらさらと文字を綴る。


『余ってるから。』


「…………」


兄弟が……余ってる?


「で、でも……そんな簡単に決めていいことじゃ……」


『大丈夫、選ぶのは義姉君。無理強いはしない。紹介だけさせてもらってる。』


「まぁ、それならね。無理強いはダメだからね?」


コクリと頷くヴィヴィアン。


(……なんか、めちゃくちゃ手際がいいんだけど。)





しばらくして、私たちは広々とした賓客室へと案内された。

重厚な扉が静かに開かれた瞬間――


「ふふっ、もう、ヴィニーったら可愛いわね~♪」


「えへへ~♪」


お姉様が愛らしい少年を膝に乗せて、頬ずりしていた。


「……え?」


(……どういう状況???)


奥には、困惑した表情の次男ヴィジェスト、三男ヴィートヒート、四男ヴィルダンが壁際に立っていた。

そして、そこへ歩いていくヴィヴィアン。


ヴィヴィアンは、彼らをじっと見つめると、オーラの文字を浮かべた。


『どういう状況だ?』


壁際の三人は、気まずそうに視線をそらす。


「見ての通りさ、兄上。」


答えたのは四男ヴィルダン。


その横で、ヴィヴィアンはゆっくりと首を傾げる。


『お前たち……まさか……』


次男、三男、四男の視線が一斉に床へと向けられた。


『ヴィーネストに負けて恥ずかしくないのか。』


その言葉に、三人はさらに肩を落とした。


「……もうしっかり約束もされてしまいました。」


ため息交じりに言うヴィジェスト。


「え、ええと……ヴィヴィ?」


私は混乱しながら隣の婚約者を見上げる。


『本人に聞いてみてください。』


ヴィヴィアンはそう書いて、そっと姉とヴィーネストを指さした。


「あの~、お姉様?そちらの方は?」


思わず声をかけると、姉は膝にちょこんと座る少年の銀髪を撫でながら、にっこりと微笑んだ。


「ヴィーネスト様よ。私の婚約者になりたいみたいなの。ねー?」


「ねー!」


ヴィーネストがぱっと笑顔を見せ、嬉しそうにシェリルアにぴったりとくっつく。


「……いや、ちょっと待って、お姉様!? 冗談よね?」


私は思わず椅子から立ち上がりそうになる。


「うーん、私も冗談だと思ったのだけれど……。」


姉は困ったように微笑むが、その腕の中ではヴィーネストがふるふると涙目になっていた。


「ぼ、僕末っ子で、何もなくて……僕、この家で余りものだから……シェリルアお姉様がもらってくれないと……どんなめにあうか……。」


ヴィーネストは唇をぷるぷると震わせながら、今にも泣き出しそうな表情を作る。


(な、なんて可哀想なの!?)


その姿に、姉の表情が一瞬で優しげなものへと変わる。


「大丈夫よ。お姉さんでよければ、婚約するわ。」


「うん! お姉様大好き!」


ヴィーネストは嬉しそうにシェリルアに抱きついた。


「ミシェリアお姉様も……」


「え?」


私が聞き返すより早く、ヴィヴィアンがすっと手を伸ばし、ヴィーネストの口を塞いだ。


『ヴィーネスト、ミーシャは僕の。』


ヴィヴィアンの紫色の瞳がわずかに鋭く光る。


ヴィーネストは彼の手を掴み、何度もこくこくと頷いた。


「わかってるよ~! だから怒らないで、兄上!」


そう言いながら、ヴィーネストは再びシェリルアにぎゅっとしがみつく。


(と、とんでもない展開になってきたーーーーー!!!)


視線を横に向けると、壁の隅で三人の兄たち――ヴィジェスト、ヴィートヒート、ヴィルダンが、完全に拗ねた顔で腕を組んでいた。


「末っ子に全部持っていかれるとは……」


「正直、こんなに早く決まるとは思っていなかった……」


「ぐぬぬ……」


彼らのプライドが大いに傷ついたのは、間違いない。


――――――――――

――――――――


ヴィーネストがすっかり姉に懐き、シェリルアもまんざらでもなさそうな雰囲気になった頃、私はようやく落ち着きを取り戻した。


すると、そのタイミングを見計らったように、ヴィヴィアン以外の兄弟たち――次男ヴィジェストと三男ヴィートヒートが私の前に立ち、揃って微笑んだ。


「ミシェリア嬢、僕たちからも正式にご挨拶を」


「それと、なんなら今からでも僕らに乗り換えませんか?」


「そうそう、兄上よりもずっと楽しい結婚生活をお約束しますよ?」


……は?


私は思わず目を瞬かせたが、それよりも早く、ヴィヴィアンが二人の襟元を無言で掴んだ。


「ん? 兄上?」


「な、何か――」


次の瞬間。


ゴツンッ!!


「いったっ!!?」


「……っ、兄上、力加減!!!」


ヴィヴィアンは、反論する余地すら与えず、二人の頭を勢いよくぶつけ合わせた。


(うわぁ……容赦ないわね。)


次男と三男が「ぐぬぬ……」と痛みで顔をしかめているのを尻目に、ヴィヴィアンは静かに筆を走らせた。


『ミシェリアは僕の。』


短く、それでいて絶対的な意思が込められた文字だった。


次男と三男は、痛みよりもその圧に負けたようで、肩をすくめて「……冗談ですよ、兄上」と苦笑いするしかなかった。


(いやいや、冗談の域を超えてたわよ。)


そんな騒ぎの後ろで、四男のヴィルダンが小さな声で挨拶する。


「……ラヴェルノワ家の四男、ヴィルダンです。よろしくお願いします。」


一応、貴族らしく丁寧に礼をするものの、彼の体格は明らかにごつい。


(……やっぱりラヴェルノワ家、みんな個性が強すぎるわ……)


しばらくすると、廊下の奥から足音が聞こえた。


そして、ふわりと優雅な香りをまといながら現れたのは――。


「ようこそ、ローベルク家のお嬢様方。」


「お待ちしておりましたよ。」


元ラヴェルノワ公爵夫妻……つまり、ヴィヴィアンの両親だった。


「!!」


思わず、姉と私は姿勢を正す。


「さあ、どうぞ。食堂へ案内いたします。」


ご両親の優雅な微笑みに導かれ、私たちは広々とした食堂へと足を踏み入れた。


―――――――――――

―――――――――


晩餐が始まると、テーブルには豪華な料理が並び、煌びやかなシャンデリアが柔らかく輝いていた。ラヴェルノワ家の使用人たちは完璧な所作で料理を運び、まるで王宮の晩餐会のような雰囲気を醸し出していた。


食事が進む中、話題は当然のように姉とヴィーネストの婚約話へと移った。


「まあ……ヴィーネストの嫁ぎ先が決まるなんて……!」


エミリア夫人は感激したように微笑みながら、手を組んで嬉しそうに息をつく。隣の元公爵ヴィストリアも深く頷きながら、満足げにワインを傾けた。


「これはめでたいことだ。我が家の末っ子の行く末を少しばかり心配していたのだよ。」


「ぼ、僕、そんなに心配されてたの……?」


ヴィーネストが少しふくれっ面になっている。


「ええ、あなたは可愛らしすぎますから。このままでは、どこかの貴族令嬢に囲われてしまうのではないかと心配していたのですよ。」


「そうそう、だからね、シェリルア嬢! あなたのようにしっかりしたお嬢さんにヴィーネストをお任せできるのは、本当に嬉しいことです。」


「え……ええ……ありがとうございます。」


シェリルアは少し戸惑ったように微笑みながらも、膝の上で甘えるヴィーネストの銀髪を優しく撫でていた。


「えへへ~お姉様の膝の上、とってもあったかいです~。」


ヴィーネストがくすぐったそうに身を寄せると、シェリルアはますます頬を染め、戸惑いながらも微笑んだ。


「ふふ……そんなにくっついては、お行儀が悪いわよ?」


「えへへ、ごめんなさい。でも、離れたくないなぁ……。」


「うんうん、これで安心ですね。」


「え? 何が安心なのですか……?」


思わず聞き返したシェリルアに、公爵夫妻はにっこりと笑みを浮かべた。


「あなたが我が家の娘になることが、ですよ。」


「えっ……?」


一瞬、彼女は言葉の意味が理解できず、まばたきをする。


「え……えっと……?」


「ヴィーネストが望んでいるのでしょう? それなら決まりですね。」


「そうですわ、シェリルア嬢。遠慮なく、今日からもう我が家の娘のつもりでいてくださいね?」


「え……えええ……?」


シェリルアは私の方を見て助けを求めるような視線を送るが、私は心の中で小さくため息をついた。


(……もう逃げられないわね、お姉様。)


しかし、そっと姉の方を見てみると、彼女はまだ戸惑いながらも、ヴィーネストの小さな手を優しく包み込んでいた。


(……まぁ、ダーリルよりは断然マシよね。)


そう自分に言い聞かせながら、私は静かにスープを口に運んだ。


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