表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/72

16話目

やがて、キラキラと着飾った姉が、満面の笑みを浮かべながら、優雅に馬車へと戻ってきた。


その姿を見た瞬間、私は思わず目を見開く。


「わぁ、すごいわ、お姉様! お姫様みたい!」


姉が身にまとっているのは、まるで王族の舞踏会に出るかのような、華やかなドレスだった。

淡いブルーとシルバーが織り交ぜられた繊細な刺繍に、動くたび光を反射する装飾。

まるで王宮の舞踏会にでも向かうかのような仕上がりだった。


姉は少し照れくさそうに頬を赤らめながら、スカートの裾をつまんでみせる。


「ありがとう……でも、こんなに着飾って、いったいどこへ?」


その問いに、ヴィヴィアンが筆を走らせ、オーラの文字がふわりと宙に浮かぶ。


『ラヴェルノワ公爵家へ招待します。』


「えっ!!?」


私は驚きのあまり、思わず声を上げた。


「ちょっと待って! そんなの聞いてないんだけど!! しかも私、こんな格好なのに!」


今の私は、王都を逃げるように飛び出したせいで、身なりはまったく整っていない。

それどころか、馬車の振動のせいで少し乱れたままだ。


けれど、ヴィヴィアンはまるで当然のことのように、筆を走らせる。


『ミシェリア様のドレスなら家にいくらでもあります。』


「……いくらでも!?」


一瞬、何を言われたのか理解が追いつかなかった。


「ちょ、ちょっと待ってヴィヴィアン、それってつまり――」


「ん? ん?」


そのやりとりを聞いていた姉が、興味深そうに私とヴィヴィアンを交互に見つめる。


「ラヴェルノワ公爵様? もしかして、ミーシャのことを"ミシェリア様"って呼んでらっしゃるの?」


「……!!」


ヴィヴィアンの筆がピタリと止まる。


(ヤバッ!!)


途端に彼は焦ったように、手をスッと動かし、空に浮かんでいた文字を消し去った。


(ばっちり見られてたけど!? もう遅いけど!?)


私は慌てて姉の肩に寄り、彼の耳元でそっと囁く。


「ヴィヴィも、ミーシャって呼んで!」


その言葉に、ヴィヴィアンは一瞬固まる。


そして、耳まで真っ赤に染めながら、コクリと頷いた。


(な、なんでそんなに可愛い反応するの!?)


私が動揺していると、姉がじとっとした視線を向けてくる。


「……なるほどね?」


「え、えっと……」


私は誤魔化すように軽く笑い、適当な言い訳を並べた。


「あっははは……前に喧嘩したときに、私が怒って『そう呼びなさい!』って言っちゃったの! い、いつもはミーシャって呼んでくれてるのよ?」


姉は腕を組みながら、じろりと私を見た後、ヴィヴィアンの方へと視線を向けた。


そして、次の瞬間――


「ミーシャ! いくら婚約したからって、公爵様にそんなことしちゃダメでしょう!」


「はい……お姉様……」


私はしょんぼりと肩を落とした。


その横で、ヴィヴィアンが小さく肩を震わせている。


(あれ……これ、絶対笑いをこらえてるでしょ!?)


表情は変わらないものの、微妙に唇が震えているし、手もわずかに揺れている。


(な、なんなの!? そんなに面白い!?)


私がムッとしたその瞬間――


ぎゅっ。


太ももを、思い切りつねってやった。


「……っ!」


ヴィヴィアンが一瞬ビクッと体を震わせた。


「こら! ミーシャ!!」


当然ながら、姉にまた怒られる。


「は、はい……」


ヴィヴィアンの方を見ると、彼は静かに目を細めてこちらを見つめていた。


(なんか嬉しそうに見えるのは気のせい!?!?)


いや、絶対に気のせいじゃない!

むしろ確信犯的な笑みすら浮かべているような気がする……!


その瞬間、彼がすっと筆を走らせた。


『僕はお転婆なミーシャが大好きです。』


「……っっっ!!?」


まるで告白のような言葉が、空中に美しく浮かび上がる。

それを見た瞬間、私の顔が一気に熱を帯びた。


(な、な、な、何を書いてるのよこの人~~!!!)


もうダメだ、恥ずかしすぎる!!

こんなことを堂々と書くなんて、ずるい!!


私は顔を両手で覆いながら、パタパタと手を振る。


「な、なに言ってるのよ、ヴィヴィアン! そんなこと、こんな場で書かないでよ!!」


それなのに、彼はまるで悪びれる様子もなく、ただ優しく微笑むだけだった。


(ずるい、ずるい、ずるい~~!!!)


そんな私の動揺をよそに、姉がクスッと笑って口を開いた。


「まぁ……まぁ……ミーシャったら、愛されてるのね。」


「~~~っ!!」


姉の言葉に、私はもう何も言い返せなかった。

怒りはすっかり収まったようだったけれど、それどころじゃない!


心臓がドキドキして、何も考えられない。


(もう、ダメ……!! 恥ずかしくて死ぬ……!!!)


私はひたすら顔を真っ赤にしながら、馬車の揺れに身を委ねるしかなかった。


―――――――――――

―――――――――


一方、ローベルク伯爵家では――。

赤色の豪華な馬車が、ローベルク伯爵家の正門前に堂々と停まった。

その紋章を見た使用人たちは、ざわめきながら慌てて整列する。


「王太子殿下の御到着です!」


響く声とともに、馬車の扉が開かれる。

その中から現れたのは、ダーナンドレル王国の王太子、ミリスクレベンだった。


彼は金色の髪を整え、深い碧眼をわずかに細めながら、堂々と屋敷へ足を踏み入れる。

流れるような動作で手袋を外し、入り口で出迎えたローベルク伯爵、シェトランド・ローベルクへと視線を向けた。


「――同じ年頃の令嬢がいると聞いていたが?」


柔らかな笑みを浮かべながらも、その言葉には確かな興味が滲んでいた。


ローベルク伯爵は、ほんの一瞬だけ困惑したように眉を寄せたが、すぐに答える。


「……あいにく、本日、娘たちはおりません。次女のミシェリアは婚約者の家へ、長女のシェリルアも付き添いとして同行しております。」


「――そうか。」


その返答を聞いた瞬間、ミリスクレベンの表情が一瞬だけ歪む。

だが、すぐに微笑みを作り直し、無造作に髪をかき上げた。


「一度、会ってみたいと思っていたのだがな……。」


彼はわざとらしく肩をすくめてみせた。

しかし、その瞳の奥には、冷え切った苛立ちが宿っていた。


(またしても……ラヴェルノワ公爵か。)


じくじくとした不快感が胸を満たしていく。


(どういうつもりだ……? 俺が先に目をつけていたというのに。)


彼は、かつて学園で見かけたミシェリアの姿を思い出す。

あの金色の髪が揺れ、上品に微笑む姿。

目を伏せる仕草すら、どこか儚げで美しかった。


(俺が、力をつけてから、囲うつもりだった。)


最初に彼女を見た時、直感的に"欲しい"と思った。

自分のそばに置き、誰にも触れさせたくないと、そう強く願った。


だからこそ、あえて何も仕掛けず、時間をかけて完璧な環境を作るつもりだった。

王太子としての権力をさらに盤石にし、逃げられない状況を整えてから迎えに行くつもりだったのだ。


それなのに――。


(いつの間に、婚約した。)


静かに視線を動かし、伯爵の表情を観察する。

言葉の端々に、すでに婚約が公に認められた確かな響きを感じた。


(もう婚約が決まっている……それも、すでに婚約式が間近だと?)


胸の奥が、焼け付くように熱くなる。

まるで心の奥に巣食っていた炎が、一気に燃え上がるように。


(許せない。)


(俺以外の男のものになど、させるものか。)


じっと伯爵を見つめる。

だが、今はまだ何も言わない。


「……また改めて訪問するとしよう。」


低く、穏やかにそう告げる。


「殿下、またのお越しをお待ちしております。」


シェトランド・ローベルクは、恭しく頭を下げる。


ミリスクレベンは、再び余裕の笑みを浮かべながら踵を返した。

しかし、屋敷を出る瞬間、その手袋をきつく握りしめていることに、周囲の誰も気づかなかった。


赤色の馬車へと乗り込むと、扉が閉められる。


そして、馬車が動き出した瞬間――。


「……ふっ。」


彼は、静かに笑った。


「……いいだろう。面白くなってきた。」


その声は、氷のように冷たく、それでいてどこか陶酔するような響きを含んでいた。


(俺のものになるべき存在が、他の男のものになっただと? そんなの……ありえない。)


馬車はゆっくりと走り出す。


だが、その瞬間、ミリスクレベンの目には、すでにひとつの確かな決意が宿っていた。


――"必ず取り戻す"。


そう、彼が愛した存在は、どんな手を使ってでも、自分のものにするのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
結局自分で殺すくせに....キモいわ王子様〰️( ゜д゜)   一体どんな謎が隠されているのか…ワクテカ(*´ω`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ