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王太子の資格

 魔法を扱える者はこの国の王にはなることはできない。


 それがその伝統であり、その始まりは魔術師でもあった悪名高き第五代の王アルフレッド・ブリターニャによって身分の上下に関わらずブリターニャ国民に等しくもたらされた大いなる災いが再びやって来ぬように、アルフレッド王をあの世に追いやった功によって次の王となった彼の甥シリル・ブリターニャが次王を選ぶ際に創設した王族会議において王太子を選ぶ際の最優先事項として設けられたことだった。


 だが、遺伝や性別、職業に関係なく突然変異的に現れる魔術師の素養は当然王の血統にも出現する。

 では、それが王位継承者に現れたときにはどうするのか?


 当然、たとえそれが王位継承権筆頭の地位にある者だとしても魔術師の素養を持ったのであれば、その者を王太子に立てるわけにはいかない。


 すなわちその者が王に即位することはない。


 これが、シリル・ブリターニャが定めた決まりに従った災いを二度と起こさないための正しき道といえる。


 だが、何事にも裏表があるように、実はこの規則にも裏道が存在する。


 言うまでもない。

 定めに則ったその正道を王になるための正門とすれば、裏門にあたるもうひとつの対処法があるのだ。


 その者は魔術師ではないと言い張る。


 すなわち、正真正銘の魔術師である者を公的には魔術とは無関係な人間にしてしまうという、シリル・ブリターニャが定めたものを形骸化してしまう方法である。


 そして、信じられないことではあるが、このふたつ目の対処法はシリル・ブリターニャの二代後に考案され、すぐさま実行に移されていた。

 そして、その後この方法によって王太子から王に登り詰めた者が最低でもふたりはいる一方で、本来の規則に従って排除された第一王子は現在までゼロとなっている。


 そういうことで、アリストが魔法を使えることを、多くの者が集まるこのような場で弟たちが熱心に褒め称えていたのは、魔術師であることが王太子になれなかった理由となる初めての第一王子という名誉を彼に与えようという兄弟愛溢れる涙ぐましい努力と言える。

 もちろん次の玉座を自らの方に引き寄せようというその奥にあるものが本当の理由なのだが、現在のところ弟たちとその背後にいる彼らの妻の実家である大貴族の努力は十分に成功しているように見える。

 なにしろ十分にその年齢に達しているにも関わらず、アリストがいまだ王太子に立てられていないのだから。


 だが、アリストが完全に王位継承候補者からはずれたのかといえばそうではない。


 王の血を引く男子のみに王の継承権があるという枷が存在する以上必然のようなものではあるのだが、この世界の王室では一夫多妻制が当たり前のようになっている。

 そして、その例に漏れることなく現在のブリターニャの王も正妃のほかに複数の副妃、いわゆる側室を抱えており、アリストと王の六男にあたる十一歳年下のジェレマイア以外は彼の血を引く王子はすべて側室の子であるのだが、それこそがこの王位継承問題を複雑なものにしている。


 まず、次男ダニエル、三男アールを生んだ副妃は爵位を持たない下級貴族の娘。

 四男ファーガス、五男アイゼイヤ、七男レオナルドの母にいたっては武勲多き将軍であり最終的には男爵の地位を得たとはいえ元は平民である者の娘である。

 そう。

 王子とはいえ、そのような輩の血が入る者が至高の地位に就くなど王族の血は特別なものと尊ぶ者たちにとっては看過できない由々しき事態なのである。


 では、王族の一員でもある大貴族バリントア公爵の娘である正妃アマリーエのもうひとりの息子である十七歳の六男ジェレマイアが五人の兄たちを差し置いて王になることがふさわしいのかといえば、年齢的に、それ以上に能力的にそれは難しい。


 つまり、候補者になりそうな他の王子を眺めても誰もが一長一短な「帯に短し襷に長し」的状況なのである。


 そういうことであれば、いっそのこと先人たちと同じ手法で能力的に他を圧倒している第一王子アリストを王太子にすれば、すべての揉め事が解決しそうなものなのだが、彼には更なる問題があった。


 その言動には大いに問題あり。


 もう少しわかりやすくいえば、アリストの思想は男尊女卑と厳格な身分制度に基づいたこの国の政治体制に相いれないもの。


 しかも、分厚いオブラートに包まれていたものの、公的な場でそれを堂々と口にする。


「アリストのあれにはさすがに目を瞑るのは難しい。あれさえ改まればすぐにでも立太子の儀式をおこなうものを。まあ、本人に王位に就く意思が他の息子たちの十分の一でもあればすぐにでも改まるだろうが、どうやらその気もないようだ。まったくの親不孝者だな。アリストは」


 それが跡継ぎ問題についての悩みを吐露する王の口癖だった。


 では、アリスト自身はこの状況をどう考えているのか?

 言うまでもない。

 それは王の嘆きのとおり、日頃の言動を見れば一目瞭然。


 玉座などには興味がない。

 伝統に縛られた息がつまるような宮廷での生活などまっぴら御免。

 今と同じようにたまに王の代理として外交的な仕事をする以外は自由気ままに暮らしたい。


 それがアリストの希望である。


 だが、それとともにアリストはこの国の未来を、誰に対するものでもない言葉のなかでこのように予言している。


「弟の誰が王になっても、よほど幸運に恵まれないかぎりこの国に明るい未来はない。出来の悪い諸国の王子たちと比べても頭ひとつ分は能力が落ちる彼らではただ食い物にされるだけだ。下手をすれば次代でこの国は滅びる。まあ、内輪もめをしている彼らを魔族がまとめて平らげる可能性のほうが高いのだが。だから、王は勇者登場を好機として対魔族連合軍を立ち上げたのだろう。そうならないように。だが、それでも滅びを回避できるのかはおおいに疑問が残る」

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