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7話:吸血鬼はただ一人を愛した

吸血鬼は血を吸う。

これは周知の事実。なぜなら生きるための行動。

彼もまた、かつてはただの吸血鬼に過ぎなかった。

 ガサガサ


 ・・・ん?何の音かしら。


「ご機嫌麗しいですかな?お嬢さん」


 もうすっかり周りは暗くなってしまったのにお客さんが来るなんて。

 だからこそ、すぐに分かった。そのお客さんが人ではないことに。


「あなたは・・・・もしかして吸血鬼」


「ご明察。私は吸血鬼、名をフランシス・カタルシス・ガーネットと申します」


 う・・長い名前、覚えられないわ。


「それで、フランなんたらさんは何をしに来たの?」


「おや?あまり驚かないのですね。まぁいいでしょう。何をしに来た・・と、吸血鬼が夜、独りの若い女性の前に現れたということはある程度想像はつくのではないですか?」


「まぁそれはそうなんだけど。私の血を吸いに来たの?正直いうけど私の血なんておいしくないと思うけど」


「なぜそう思うのです?私はかなり選好みをするので好みではない者の前には現れませんよ?」


「あはは、何それ・・・私の血を吸いに来たんじゃなくて口説きにきたの?」


 これが私が彼女と出会った最初の夜。

 彼女は貴族出身だった。しかし彼女は妾の子。だから私の血はおいしくないなんて言ったのでしょうか?

 私はそれから彼女と毎晩会うようになった。ただ彼女の美しい血が吸いたかっただけだった。


「聞いてよフランさん。今日お姉様があなたの魔法は穢れているわ!!!だなんて魔法の勝負で負けたぐらいでグチグチうるさいんだよ」


「ほぉ、魔法にも美しさの概念があるのですね。確かに大精霊様の光魔法は美しかった覚えがあります。まぁそれのせいで死にかけましたが」


「もぉそういうことじゃないよ」


「フランさん。今日はお兄様が・・・・」


「フランさん。今日はお父様が・・・・」


「フランさん。・・・・」


 毎晩彼女に愚痴を聞かされ続けました。


「そういえばフランさん。私の血を吸いに来たんだよね?まだ一度も吸ってないけどいいの?」


「それはあなたがいつも、私に愚痴を吐いた後すぐ疲れて眠ってしまうからですよ」


「別に私が眠っているときにでも吸えばいいのに」


 そういう彼女の顔は少し赤く見えたがきっとそれは吸血鬼の眼が赤かっただけなのかもしれない。


「吸血行為は痛いんですよ。ただでさえあなたは疲れで寝ているのですよ」


「吸血鬼って優しいんだね。それともフランさんが優しいだけなのかな?」


 彼女はいつも笑顔だった。暗いのに昼だと勘違いしてしまうほどに。

 けれどもある日の彼女の顔は暗かった。


「おや、浮かない顔をしていますね。何かあったのですか?」


「あぁフランさんこんばんは。ははっ、いつも通り愚痴を言ってもいいのかな?」


「えぇ大丈夫ですよ。もう慣れたものです」


「私ね・・結婚するみたいなんだよね」


「ふむ、それはおめでたいことではないのですか?」


「ははっ・・・・フランさんは何も思ってはくれないんだね」


「そうですね。私はあなたを食事だとしか思っていませんから」


「・・・・」


 彼女の顔はやはりいつもより暗かった。その時の私は何を思ったのか、彼女を助けたいと・・・そう思ったのです。


「ですが、あなたが助けてほしいとでも言うのでしたら、私はあなたを助けます。しかしそれは私のような化物の世界に立ち入るということです」


「いまさらそんなの!・・・あの人達に比べればフランさんは優しすぎるぐらいだよ。だから私をたす・・」


 バン!!


 その瞬間。銃声が夜空に鳴り響いた。弾丸は私の胸を貫き、穴を開ける。


「おや?これは銀の弾丸。残念ですがこういった物はもっと下の者でないと効かないんですよ」


「これは・・・・!!お父様!!」


「貴様か!!最近こいつに変なことを吹き込んでいる奴は!!」


「待ってお父様、この人は違うの!!」


「まさか吸血鬼なんぞと会っておったとは。やはりおまえは愚かなな奴だ」


「・・・・・」


「先ほどからこいつだの、おまえだのとせめて娘か名前で呼んであげてはどうなのです?」


「こいつなぞ娘でもない。そんなやつに名前を付ける必要があるとでも言うのか?」


「そこの彼女。先ほど何か言おうとしていましたよね」


「え?・・・」


「あなたが望むのであれば。私は大切なお方をお守りしますよ」


「・・・・お願い、助けて!!!」


「さっきからぺちゃくちゃと、おまえせっかく結婚させてやろうとしたのに、私の話すら聞けないのか!!」


「黙りなさい」


「は!?なんだと吸血鬼風情が、どこのやつなのかは知らないがこんなのを狙うなんて、どうせ程度の低いやつなんだろ」


 吸血鬼はゆっくりと歩き出した。


 バン!!バン!!何度も弾丸は吸血鬼の体を打ち抜く。しかし、吸血鬼の歩みは止まらない。


「いい機会です。教えてあげましょう。・・・我が名はフランシス・カタルシス・ガーネット。すべての吸血鬼を束ねるヴァンパイアロード」


「ヴァ、ヴァンパイアロードだと!?馬鹿を言うなそんなやつこんなところにいるわけがないだろ」


「そして我には許せないものが二つある。それは美しくないもの、そして美しいものにその美しくない穢れた思想を浴びせる貴様のようなものだ」


「何を言って・・・!?うぐ」


「我が力をもってすればこんな首など簡単に飛ぶ。いいか、今度、美しき彼女に近づいてみろ。覚えておけ、それは我からの永遠の恐怖におびえながら暮らすことになると」


「・・・・・・・」


「おや、気絶してしまいましたか」


「フランさん」


 その女性は吸血鬼のもとへと走り、泣いていた。


 それから私と彼女は一緒に遠く離れたこの港町で暮らすことにした。

 彼女には名前がなかったのと彼女によるとどうやら私には名前のセンスがないらしい。


 なので私は彼女のことを''ハニー"と呼ぶことにした。

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