4話:勇者という呪い
時は少し遡りとある辺境の村で勇者がで誕生した。
ただ平和に暮らしていた。
親がおらず村長の家で暮らしていた僕は毎日を繰り返していた。
それが幸せで変化は存在しなかった。それでよかった。
ある日、神託を受けた。僕は勇者となった。
王都から大勢の騎士や役人たちが僕を迎えに来た。
いつも通りの毎日が崩れ始めていた。僕はそんなこと知る由もない。
「すごいよ!!勇者になるなんて。きっと勇者は人々を笑顔にできる心優しい人だけがなれるんだよ!!」
彼女はそう言った。村長の娘。僕の大切な人はそう言ってくれた。
あの時の僕は希望で満ちていた。美しい物だけが僕を満たし穢れ無き僕の魔力はまさしく勇者の魔力だ。
「勇者よ、よくぞ参った。そなたにはこれから勇者の剣を探してきてほしい。そのためにもお主の仲間となる者達を集めた」
そう言って王が紹介してくれた仲間は3人。全員女性。妙に煌びやかな装飾を身に着けた姿は貴族の令嬢であることが一目で分かった。
そんなことどうだっていい。僕はただ悪しき魔王を倒して、また村に帰るだけ。
僕が勇者になってしばらく経った頃。
夜、パーティメンバーの一人が部屋にやってきた。
「?・・どうしたの?君の部屋は隣でしょ」
「勇者様。どうして部屋を分けてしまうのですか。私はずっと勇者様のお隣にいたいです」
そういうと彼女は僕のベッドに座り顔を近づけてきた。
とてつもない違和感を感じる。僕はこの女性に好かれるようなことをした覚えはないし。純粋に彼女には温かみを感じない。
「!?・・やめてくれ!!!」
「ちっ」
「え?」
「私もあんたにこんなことしたくないんだよ。お父様に言われてやってやるのにどうして断られないといけないわけ?」
そういうと彼女は勢いよく部屋から出て行った。
これは後から聞いた話だけど勇者は王都の中でもかなり身分が高くもし結婚した場合、その者の身分は高い方が優先される。どうりで周りがそこまで名の通っていない貴族ばかりだったわけだ。
はぁ・・もう当時のことは思い出したくもない。
勇者になってからこんなのばかりだ。それでも一つだけいいことがあった。
王が言っていた勇者の剣の場所を記した地図。その目的地の経路に僕の故郷の村があった。
村から出たのはこれが初めてだったし王都に連れていかれるときも周りはあまり見えなかったから気付かなかったけど。そうして今僕は村へ向かっている途中だ。
まさかこんな機会があるなんて。村のみんなは元気にしているかな?それに今あの娘は何をしているんだろう。
「多分もう少しで着くな」
馴染みのある空気がどんどん近づいてくるたびに僕の心も落ち着いてゆく。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
どうして煙が立っている?
馴染みのある空気の匂いに焦げ臭い匂いが混じっている。
「う・・・嘘だ」
僕は走った。パーティのことなんか考えずただ走った。
「どうして・・・こんな」
ん?なんだあいつ。見たことのないモンスター。遠すぎてよく見えない。まずい眼があった。
「お待ちください。勇者様」
「!?・・来るな!!」
とっさに危険を感じて、後ろを向きそう伝えると地面には大きな影ができていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「あぁ?うるせぇ女だなぁ」
ぐしゃ。
「俺はうるせぇやつが嫌いなんだよ。だからさっきの奴らも叫ぶ前に全員殺した」
あまりの恐怖に立ち上がることのできない者が一人。我を忘れてただ逃げる者が一人。
「あぁ?姿を見られて逃げさせるわけがねぇんだよなぁ」
「・・・・やめて」
ぐしゃ
まるで地面に落ちた赤い果実のように潰されてゆく。
「お願いします!!勇者様助けてください!!勇者様!!勇者様!!」
ぐしゃ
僕の腕を掴んだその手には体がついていない。
「最後はお前だな。お前はいいなぁ、叫ばねぇから耳障りじゃない」
「・・・・どうして村を滅ぼしたんだ」
僕は最低だ。今死んだパーティメンバーよりも故郷のことが頭から離れない。
「あぁ?質問の意図が分からねぇなぁ。魔族が人を殺すことに何か理由がいるのか?」
そうか僕はこんなの相手にしてたのか。
結局勇者になったところでこんなの相手にしないといけないだけなんだ。僕は変わらず無力なのに。
「なぁ・・もう殺してもいいか?どうせお前生きる意味を見失ってるんだろ?なら殺したってよぉそれは救いってわけだろぉ?じゃあ俺は神ってk」
パン!!
突然その魔族の頭が破裂した。
?・・・何が。これは・・・・槍?
「大丈夫か。君」
全身鎧で染められた。おそらく男性。間違いなく強いのに着飾っていない。
まぁでも良かった。助かった。僕だけ。
「私はこれで戻る。こいつを討伐することが今回の私の任務だからな」
「最後に言っておくが、人の死は経験しておくと良い。冒険者にとってこれは日常だ。そして後悔しろ」
そう言って鎧の男はその場を後にした。
村はもう完全に焼けていた。焦げた匂いと血の匂いが混ざって死が強調される。
僕は自然と村長の家のもとにやってきていた。もう家は潰れている。
これは・・あの娘が大切にしていた花。僕があげたものだ。
そうか・・・・・あの娘、死んだんだな。
言葉にできない絶望と自分に対しての失望が僕を襲った。
「なぜ僕が勇者なんだ。もっと強いやつがなればよかっただろ。それならこんなことにはならなかったはずだ。僕は何も守れてない、せめて勇者にならなければ最後を村のみんなと過ごせたんだ」
そうか、これは呪いなんだ。
ならどうして僕が呪われる必要があるんだ。
どうするか。このまま王都に戻るのか。・・・いいや疲れた。ひとまずしばらく寝泊りしていた街に戻ろう。
そうして帰り道の途中・・・
「ねぇどうしたの?」
「え?」