2話:悪魔に人は愛せるか
冒険者になって数日が経ったけど・・・
私、草むしりしてるだけじゃない!?
ここら辺、思った以上にモンスターが少ないし、あのスライムからまだ1度も遭遇してないよ。
受付嬢のおねぇさんもクエストをこなせばすぐにDランクは抜け出せるって言ってたのに一向に上がれる気がしないよ。
このまま、雑草テイマー少女は神草をテイムする旅に出ますっていうタイトルに変わっちゃうんだ・・
はぁ、そんなこと考えてないで早く帰ろ。
帰り道、私は多分、お父さんが渡してくれた瓶について考えていた。
この瓶、なんだか中から物凄い気配がする。もしかしてこれを割ればすごいモンスターが出てきて無双って感じにでもなるのかな?
いや、だめだめ。そんなことしたらテイマーとしてのプライドが・・・
でも、クエストこなさないと金貨が足りない。
ぬわぁぁぁぁ!!どうしよう。
って街に帰ってきたのはいいけどなんだか騒がしい。
ギーーーーーーーーッッ!!
う、なにこの音。なんかの叫び声みたいな。でも絶対に人じゃない。
「警戒を怠るな!!奴は悪魔だ。眼を離せば、心臓をえぐり取られるぞ!!」
あ、悪魔?そ、そんなやつなんで街中なんかに。
でも確か、悪魔ってめちゃくちゃ強いよね。そんな奴のステータス見てみたいかも・・・
HP、28000・・・MP、12000・・・攻撃力22000
す、すごい・・スライムなんかとは大違いだね。あのおっさんよりも少し高いってことはAランク以上はあるってこと?
「おい、嬢ちゃん!何してるんだ早く離れろ!!」
え?おっさんの声・・なんか悪魔こっちを見てる?
ま、まずい。ステータス見るのに夢中で近づきすぎた・・・
昔からこの眼のおかげで動体視力が異常に良い。だからはっきりと分かる、悪魔は完全に私に狙いを定めている。
な!?なんて速さ・・・そっか、この悪魔、異常に素早さが高い。
これ、死んだかな・・・
パリンッ!!
ん・・・・・・?
あれ、死んでない。
ゲホッゲホッ。なにこれ・・煙?
いてっ!これは、ガラスの破片?もしかして瓶が割れて・・
「はぁ、やっと出られたのぉ。あの中は涼しいが狭くてかなわん」
わぁ、なにこのモフモフ。
「おや?あまり童の尻尾を触らぬほうが良いぞ。呪われてしまうからな」
「誰だ、貴様」
え?なにこれどういう状況。このモフモフなおねぇさんは瓶の中から出てきたの?
「童を誰というか?もうこの時代に九尾はあまりおらぬのか?」
「九尾だと?馬鹿言うな、九尾は九つの尾を持つ”獣”だ。お前のような人型がいるわけないだろ」
「まぁ、そんなことどうだっていいのじゃ。主殿を傷つけようとした時点でもうお主は童の敵じゃ。妖術・・鬼火」
紫色に燃える炎。でもあの悪魔、明らかに炎耐性が高そうだけど。
「くそ!!なんだこれ」
「童の炎は熱を持たぬがその者の魔力を燃やすのじゃ。魔力を媒介にして現世で体を維持しておる悪魔にはちと辛かろうな」
思ってた以上に、九尾のおねぇさんは強くて終始、悪魔を圧倒している。
でも、おかしい。決して九尾のおねぇさんの鬼火は速くはないのに、なんで悪魔は避けようとしないんだろう。
「はーっ、はーっ」
「ほれほれ、このままでは死んでしまうぞ」
「もうやめて!!!」
え?いや、私じゃないよ。
悪魔の傍に1人少女がいる。
「な!?どうして出てきたんだ!!」
「もうパパをいじめないで!!」
「・・・もう時間がないんだ。頼むから家に戻ってくれないか」
悪魔の声色はさっきとは打って変わってとても優しくなった。
「いやだ!!このままじゃパパ、死んじゃう。お願いだから私を1人にしないで!!」
悪魔はその鋭い爪で少女を傷つけないようゆっくりと涙をぬぐった。
「なるほどのぉ」
「なんだ」
「いや、なぜこんな街中に悪魔がいるのかを考えていたのじゃが。まさか少女1人を守るためとはのぉ」
「俺は、こいつの父親に召喚されて嫌々、やってるだけだ。全ての魔力を代償にされたせいで、こんなお荷物を背負わされる羽目になった」
「それにしてはやけにその子を大切にしておるようじゃが、悪魔にこんな情に厚い者がいるとは驚きじゃ。それはそうとして・・お主、本当に時間がないんじゃな」
「まぁな、お前のせいでさらに時間ギリギリだ。このままじゃ契約が切れて理性が保てなくなる。そんな無様な死に方はしねぇ」
「なら、さような契約破棄してしまえばよかろう。お主、上級悪魔なんじゃから簡単じゃろ?」
「それは、どういう意味だ」
悪魔は突然、声を鋭くした。
「単純な話。その娘を殺せば万事解決じゃ」
「・・・はぁ、もういい。俺を殺せ。お前ならできるだろ」
「ふむ、童としては主殿が無事であればなんでもいいのじゃが。まぁお主の願いを叶えてやらぬこともない」
「だ、だめ!!」
「だめだよ」
こんなの見過ごせるわけがない。
できるかは分からないけれど、1つ試してみたいことがある。
「だめと言われてものぉ。主殿、なにか策でもあるのか?」
それはね・・・
「悪魔!!私があんたの新しい契約者となることだよ!!」
「・・・・・は?」
「私、テイマーだからね。テイムも契約の1つ。ならあなたをテイムすれば解決する話だよ」
「馬鹿言うな!お前みたいなちんちくりんにこの俺が・・」
「そんなのいいから、ほら眼を見て」
「な・・・・!?」
本来テイムには魔力を持続的に与え続ける必要があるけど、私の神眼には1度発動すれば永続的に効果が持続する。だから必要なのは最初の魔力だけ・・足りない分はもうこのおねぇさんから借りればいっか。
「おねぇさん!!魔力借りるよ」
「の?」
は、はぁ。なんとか終わった。
あれ、頭がクラクラする・・・
ガクッ
「おっと、大丈夫か?主殿」
ふ、ふわふわだ・・
「は!呪われる!!」
「ふふ、そんなの嘘じゃよ、安心して眠りんさい」
「な、こんなこと・・・」
「ふむ、皆の者!!安心せぇ。この悪魔は我が主殿の契約モンスターとなった。たしか・・・テイマーの所有するモンスターに無断で手を出すことは禁止されておるな?」
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
歓声が辺りを包んだ。
「おい」
「なんじゃ?」
「助かった。そいつに感謝を伝えといてくれ」
「まさか、悪魔に感謝される日がくるとは、驚きじゃ」
「ちっ、いちいち鼻につくやつだな」
「お父さん?」
「アリア」
「名を持たない悪魔が名を呼ぶとは・・」
「まぁな」
「契約者の魔力に充てらると悪魔でも心を持つようになるんじゃな」
「はは、こうなったのも全部あいつのせいだ」
=とある頃=
「俺を召喚したのはお前か」
「あぁ願いを聞いてくれるか?」
「俺はただ願いを聞くだけの神とは違う。代償を言え。代わりにお前の欲を一つぐらい埋めてやる」
「俺には娘が一人いてな。家内は娘を産んですぐに死んじまったんだ。だが俺も時期に死んじまう。だから娘の面倒を見てくれないか?」
「は!?そんなの悪魔に頼むことじゃねぇだろ。それこそ神にでも頼めばいいだろ」
「代償は俺の魔力すべてだ。悪魔なら俺の魔力量も見えるだろ」
「おい!!俺の話を聞けよ」
「俺は悪魔が優しいことを知ってる。少なくとも契約を簡単を破るような奴じゃない」
「なんでそんなのお前みたいな人間が知ってんだよ」
「少なくとも俺の家内はそうだったからな」
=現在=
「まぁあんまり悪くはねぇかもな」