1話:神眼テイマー少女は冒険者になります
まだ私が幼かったころの話だ。
幼くして親元を離れたせいで親の顔すら覚えてはいないけれど、親がいたこと、そしてある物語だけを覚えている。
「大昔、神様は邪悪との戦いで共倒れになったんだ」
「じゃあ今、神様はいないの?」
「そうだね、でも神様は最後に贈り物を残してくれた」
「?」
「神獣だよ、彼らは今も僕たちを見守っててくれているんだよ」
きっとこの話をしてくれたのはお父さんなのだろう。
親のことも覚えていないけどこの物語は私の気持ちを躍らせた。
いつからだろう"会ってみたい"と感じたのは・・・
ここはとある冒険者ギルド。
ギルドなんて強面のおじさんぐらいしかいないようなものだけど、今その場にはギルドの雰囲気とは似つかわしくない少女が1人いた。
「名前はミーコ、職業はテイマー、パーティメンバーはいない、所持スキルは神眼?」
「はい!!」
少女は自信満々そうに返事をしたけれど、受付嬢の反応はあまり良くないみたい。
「はぁ、すみません。あまりにもツッコミどころが多すぎます」
少女はあまり納得のいかない様子だ。
「まず、テイマーなら現状テイムしているモンスターを教えてください」
「いません!!」
なぜ少女はそんなにも自信ありげなのだろうか。
「だ、だとしたらパーティメンバーがいないのはなぜですか?」
当たり前の反応だね。テイマーは本来モンスターの力を借りて補助を行う役職だから。
パーティメンバーがいなかったら誰が彼女のことを守るのだろう。
「えっと、大丈夫ですよ!私にはこの神眼がありますので」
少女は自分の眼を指しながらどや顔をしているけど、別にそれがパーティメンバーが必要ない理由になっているとは言えないね。
「いや、そのスキル神眼?とやらが一番のツッコミポイントなんですが・・。その神眼?とやらはいったいなんなんですか?」
「この神眼、驚かないでくださいね。なんとモンスターのステータスだけでなく、ほくろの数、家族構成、その子の好きな相手まで見れてしまうんですよ」
受付嬢は驚きのあまり沈黙してしまった。でも、それは能力のすごさに驚いたわけではないのは明白だ。
「そ、そんなのどう役に立てると言うんですか・・・」
受付嬢はあきれ返っていたけれど、そんな会話を聞いていた1人の大男が大きな足音を立てながら近づいてきた。
「おい、嬢ちゃん。なにやら随分自分のスキルに自信があるみてぇだな」
「まぁね!」
少女は大男にも物怖じせずに自信満々に胸を張っている。
「はっはっは!!面白れぇな嬢ちゃん。だが、そんなに冒険者になりてぇのか?言っておくが冒険者はそんないいものじゃねぇぞ。俺みたいなおっさんばっかだからな」
少女はその質問を待っていたかのようにキラキラとした眼で語り始めた。
「それはね・・・神獣をテイムするためなんだよ!!」
少女は大男が固まっているのを見て、きっとあまりにすごい夢を聞いて面食らっているんだとでも思っているのだろう。
がーっはっはっはっは!!!!
突然、大男だけでなくギルド内にいたおっさんたちが飲んでいる酒を吹き出す勢いで一斉に笑い出した。
受付嬢はあきれた様子で少女に説明し始めた。
「はぁ、いいですか。神獣というのは物語に出てくる"架空"の生物なんですよ。なんならこのモンスターブックでも見ますか?」
「まぁまぁ、いいじゃなぇかおっきな夢を持つってのは大事なことだ。そうだ!受付嬢のねぇちゃん。この嬢ちゃんにDランクのクエストを受けさせるってのはどうだ?」
「確かにそれなら危険性はないですが、そうではなく将来的に冒険者を続けられる可能性が低いことが問題なんですよ」
「まぁ、そういうのはなるべくしてなるってもんだ。その時になったらまた考えたらいいんだよ。どうだ嬢ちゃんやってみるか?」
「もちろん!!」
そうして少女はDランククエスト、つまりただの薬草採取クエストを受けた。
薬草採取ってのは私にとっては役不足な気がするけど・・まぁいいや。
私にとっては、薬草採取なんてお茶の子さいさいだってこと教えてあげる。
まず、生えてる草々を全部表示する。
次に、薬草だけをピックアップする。
こうすれば、雑草の中から薬草だけを見つけられる。
ほらね?簡単でしょ。
少女が薬草を採取していると・・
うにょん
青くぷにぷにとした体。そうスライムだ。
スライムか・・・
まぁ序盤のモンスターでいえば鉄板みたいなとこはあるけど。
ひとまずステータスでも見てみるか。
HP20
MP8
攻撃力15
魔力10
防御力5
素早さ20
わぁ・・すごい低い。
でも、この加護っていうのはいったい・・・それに進化種?初めて見るな。
少女の勘がこのスライムをテイムするべきだと感じた。
スライムが最終的に最強になるなんて王道だからね!!
少女とスライムの格闘が始まった。
しかし、思っていた以上にスライムが手強いみたい。
こいつ、つるつる滑るし柔らかいせいで上手くつかめない。
「みゅ~~!!」
ふん、そっちもやる気みたいだね。なら!とことんやりあおうじゃないか。
少女とスライムの戦いは長く続いた。そして日も落ち始めた頃。
よし、やっと捕まえた。はぁ、もうとっくに疲れちゃったけど。それはあんたも同じだったみたいだね。
私のテイムは他のテイマーとは一味も二味も違う。めんどくさい手順を踏まなくても眼を見て魔力を流し込めば完了しちゃうんだから。
しかし、少女はここで衝撃の真実に気付いた。
ス、スライムってどこに眼があるの?
そう、スライムには眼も鼻も口もない。さっきの鳴き声?も体を震わして鳴らしているだけだった。
つるんっ
「あ!」
に、逃げられた・・・ま、まぁ眼が無いなら仕方ないよね。うんうん。
少女は帰り道、パーティを見かけた。彼女は少し寂しそうに感じた。けれどそのパーティはハーレムなのにあまりにも雰囲気が悪かった。
少女はギルドに帰った。
おっさんたちは気前よく迎えてくれたけど、受付嬢は不満そうだった。
「遅かったですね」
「いやぁ、スライムをテイムしようとしてて・・」
「で、そのスライムはどこにいるんですか?」
「実は逃げられちゃって、まさか眼が無いなんてね。驚きだよ」
受付嬢は完全にイラ立ちを隠せずにいた。
「えっと、これ薬草・・・」
「はい・・・確かに受け取りました」
パチッパチッパチッ
あの大男が拍手をしながら近づいてきた。
「おめでとう!嬢ちゃん。これであんたも立派な冒険者の仲間入りってことだな!」
「はぁ、私はもう知りませんからね」
「まぁ、困ったことがあれば俺を頼りな。これでもAランク冒険者なんだ。戦力ぐらいだったらなってやれるぜ」
意外にもこのおっさん。優しい。
「おいおい、ランス。お前、その娘が自分の子どもと同じぐらいだからって優しすぎないかww」
「うるせぇ」
このおっさん、強面だけど。ギャップ持ちのかわいい系だったんだ。
そんなことあって少女は冒険者になった。まだ神獣にたどり着くには遠いのかもしれないけれど。
そうだ、ここら辺で私はお暇するとしよう。彼女の物語が幸せな結末を迎えれるように願って。