28 炎凰将軍との戦闘
さいはての大陸(西の大陸)でアギンドラ王国の漁師だったドルドンと出会ったジェランとゲンスランは、アギンドラ王国について知っていることを簡単に説明した。
「・・・そうか、あんまり変わってないんだな」と涙ぐむドルドン。
「ドルドン、君はいつここに来たんだ?」とゲンスランが尋ねた。
「もう5年前になるかな。ひとりで漁に出て、少し沖に出過ぎて潮に流されて帰れなくなった。飲み水がなかったから魚を釣って、その生き血を飲んで何とか生きた。この村の近くの砂浜に着いた時、ほとんど死にかけていたんだが、ここの村人に助けられたんだ。その村人の中にエーベッへ帝国の漁師だった男がいて、一緒に暮らして言葉を教えてもらった・・・」
「先人の漂着者がいたのか・・・」
「その男は十数年前に俺と同じようにここへ流されて来たと言っていた。その男は2年前に亡くなったんだが、その男の前にも同じような漂着者がいて、その漂着者に世話になったと言っていた」
「ここは数年おきに漂流者が流れ着くところなんだな」とゲンスラン。
「お前はこの地に住む人々の言葉が話せるんだな?」とジェランが聞くと、ドルドンはうなずいた。
「だったら通訳として同行してもらうのはどうだ?」とジェランはゲンスランに言った。
「同行?どこへ行くんだ、見知らぬ土地なのに?」といぶかしむドルドン。
「ミスティに追いついて、国へ連れ帰るんだ」とジェランが言って、ドルドンは意味がわからないという顔をした。
かいつまんで事情を説明するゲンスラン。
「あんたは王子様だったのか?」と、漂流中にぼろぼろになった服を身に着けているジェランを見てドルドンは驚いた。
さらにドルドンが驚いたのは、人を追ってわざわざこの地に来たという理由もさることながら、国へ帰ると言ったジェランの言葉だった。
「国に帰るって、海を渡ってふるさとに帰るってことか?帰れるのか?」
「多分大丈夫だ。ミスティをつかまえればな」と根拠のない自信を示すジェラン。
「言い換えると、ミスティ様というご令嬢に追いつけなければ、国には帰れないということだ。ミスティ様の従者たちは、みな不思議な力を持っているようだからな」とゲンスランも言った。
「国へ帰れるんなら、いくらでもお供する!」と歓喜の声を上げるドルドンだった。
「ところで我々は国から金を持って来ているが・・・」と言ってふところから銀貨を1枚出すゲンスラン。
「この金はこの地で使えるのか?」
「村でたまに見る金とは模様が違うが、地金の価値で同じように使えるんじゃないか?」とドルドンは答えた。
「なら、この村で食糧と馬を買えるか交渉してくれないか?」とゲンスランはドルドンに頼んだ。
数日後、何とか馬1頭と食糧を手に入れたゲンスランたち3人は、村を後にして北に向かって旅立った。もちろん馬に乗るのはジェランとわずかばかりの荷物だけだ。
「北の方に大きな砦があって、そこを抜ければ都に向かう道に入れるそうだ。ミスティ様というお方が何をしにこの大陸に来たかは知らないが、大きな町に向かうつもりなら必ずそこを通るんじゃないかと村人に教わった」と説明するドルドン。
「大きな町に着いて、そこで僕がダンデリアス王国の王子だと言えば、大国の王子が来たと喜んで、領主か大商人が歓待してくれるだろう」とジェランは馬の背に揺られながら楽観的に考えていた。
ダンデリアス王国など、この大陸の住人は誰ひとり知らないだろうとゲンスランとドルドンは心の中で思ったが、何も言わなかった。
「おや、前方の空に黒い雲がわいているな」とゲンスランは遠方を眺めてつぶやいた。まもなく雷鳴が聞こえてくる。
「この地で雷が鳴るのは珍しいな」とドルドンもつぶやいた。
炎凰将軍の槍の先端から炎が吹き出て、ミスティたちを火炎で包み込んだ・・・ように見えたが、先頭のホムラのすぐ後でトアラが寒獄障壁を展開し、その炎を遮断していた。さらにミスティの周りはエイラの防御で守られている。
炎を操るホムラは炎凰将軍が放った炎に包まれても涼しい顔をしていた。しかしそれは敵将も同じだった。ホムラが放つ炎獄溶弾を、炎凰将軍は炎に包まれた槍で涼しげに跳ね返す。
「炎獄剣!」ホムラが剣で炎凰将軍に斬りかかるが、すべての斬撃を槍で軽々と躱されてしまった。
「敵将とホムラの力は互角ですね」とミスティに言うフワナ。
「いや、炎の熱量も剣技も敵将がわずかに上回っているように見える」とトアラが口をはさんだ。
「いずれホムラが力負けします」
「私たちにできることはないの?」とミスティが聞くと、
「水獄巨塊!」「寒獄氷鏃!」とミナラとトアラが叫んで、水の塊と氷の槍を撃ち出した。
しかしいずれもホムラたちの炎の熱で、相手に到達する前に気化してしまった。
「私たちにはどうすることもできない・・・」トアラが弱音を吐いた時、ミスティはホムラたちの上空に白いもやのようなものが浮かんで行くのに気づいた。
「あれは蒸発した水や氷ね。・・・雲が発生しているみたい」その瞬間、ミスティの脳裏にあるアイデアがひらめいた。
「みんな、手を繋いで!」ミスティが従者たちに指示を出す。すぐに戦っているホムラ以外の従者たちがミスティを含めて互いに手を繋ぎ合い、輪を作った。体の中を大量の魔力が流れて行くのをミスティも感じた。
「ミナラ、できるだけたくさんの水の塊をホムラたちにぶつけて!」
「わかりました。後で邪魔をしたとホムラに怒られそうですが、・・・水獄巨塊!水獄巨塊!水獄巨塊!・・・」
ミナラが大きな水の塊を次々とホムラたちにぶつけるが、瞬時に蒸発して、目の前が見えなくなるほどの白い蒸気がたち込めた。その蒸気はホムラたちの炎に暖められて上空へと上がって行く。
「フワナ、あの白い雲をもっと上に押し上げて!」ミスティの指示が飛ぶ。
「はいっ!風獄昇竜!」
「トアラ、冷気の塊をあの白い雲に当てて!ミナラとフワナは繰り返し異能を使ってね!」
「寒獄凍気!」「水獄巨塊!」「風獄昇竜!」
3人の異能が汲み合わさって、炎を巻き上げて戦うホムラと炎凰将軍の上空に黙々と雲が巻き起こり、雲の色は白から灰色、そして黒っぽい色へと徐々に変化していった。
「あ、光が!」エイラが上空を見上げて叫ぶ。従者たちが発生させた雲の中で時おり閃光がきらめき出していた。
「ヴェラ!ホムラと敵将の間に燃えにくい木を生やして!なるべく高い木がいいわ!」
「豊穣!」ヴェラの言葉とともに、ホムラと炎凰将軍の間の地面から突然空に向かって先端が尖った細長い木が生えてきた。すぐに水平に枝を伸ばて葉を付けるが、ホムラたちが放つ炎でたちまち枝ごと燃え尽きてしまう。
しかし従者たちと手を繋いで強化された異能のため、木自体は燃え尽きずにどんどんと上空に向かって成長する。その表面は黒い炭になっているように見えるが、その高さは20メテル(20メートル)を越えてなおも伸び続けていた。
ホムラと炎凰将軍は突然生えてきた木に一瞬驚くが、すぐに戦いを再開する。
その時、上空の黒雲の中に再び閃光が走った。
「ホムラ、下がって!その場から離れて!」ミスティが叫ぶが、戦闘に夢中になっているホムラの耳には届かないようで、伸び続けている木のそばで炎凰将軍と剣を交え続けていた。
「だめだわ、私の声が聞こえない!」ミスティが嘆いた時、
「木のそばから離せばいいんですね!」とリュウレが言った。「羽衣!」
戦っているホムラの体が光に包まれ、背中から光の翼が生えてホムラの体が地面から浮き上がった。
「風獄飛竜!」すかさずフワナが強い横風を炎の中に叩き込んだ。
横風は炎の勢いに負けずに炎の中を直進し、浮かび上がって踏ん張りが利かないホムラの体に直撃した。ホムラは自分たちが起てていた炎の中から吹き飛ばされ、同時にリュウレがホムラの羽衣を消したので、ホムラは地面に落ちて転がって行った。
ひとり残されてあっけにとられる炎凰将軍。
「私たちの勝ちよ、雷神の鉄槌!」ミスティが叫ぶのと同時に稲妻が走り、炭化しつつある高木に落雷する。さらに雷を受けた木から周囲に放電し、炎凰将軍と部下の兵士たちの体を貫いた。
その直後、雷雲から豪雨が降ってきた。ホムラと炎凰将軍の炎で熱せられた地面が湯気を立てて冷やされていく。
やがて上空の黒雲は消滅し、再び陽の光が大地を照らし出した。地面には炎凰将軍と兵士たちが倒れており、身動きしていなかった。
「ホムラは?大丈夫?」ミスティが聞くと、
「あそこに倒れています!」とココナが指さした。その指の先の、炎凰将軍たちから離れた地面にホムラが倒れていたが、その体はかすかに動いている。
「見て来ます、加速!」ピデアの姿が消える。
炎凰将軍は生きているのかそうでないのかわからなかったが、まったく身動きをしないので、エイラの防御とトアラの寒獄障壁を消し、ミスティたちもホムラのそばに駆け寄った。
「ホムラ、大丈夫?」
「生きていますよ、ミスティ」とホムラの体を抱えながら言うピデア。
ホムラは炎凰将軍との戦闘や吹き飛ばされた時の衝撃で満身創痍のように見えたが、顔を上げるとミスティたちに向かって、
「何が起こったんだ?」と聞いてきた。意識はハッキリしているようだ。
「あなたの戦いを邪魔して悪かったけど、強敵だったのでみんなの力を合わせて敵将を倒したの」と説明するミスティ。
「すごいですよ、ミスティが私たちの異能を組み合わせて、敵将に雷を落としたんです!」と興奮して説明するミナラ。
「・・・私だけで倒せなかったのが残念だが、練習試合ではないからな。ミスティ、ありがとう」とミスティにお礼を言った。
「あなたの奮闘のおかげよ、ホムラ。お疲れさま」とミスティはホムラをねぎらうと、他の従者たちに指示を出した。
「敵を倒した混乱に乗じて鬼門城を通り抜けましょう!みんな、馬車に戻って!」
「まかせてください!羽衣!」起き上がろうとするホムラとミスティと従者たちの体を光が覆い、光る翼が出現して宙に浮かぶ。そのまま馬車のそばまで一気に飛んで行った。
「みんな、馬車に乗り込んで、城門に入るのよ!」ミスティの言葉とともに馬車に乗り込む従者たち。すぐに御者役の従者が馬車を走らせ、開いている鬼門城の城門に突っ込んで行った。
そして城内の街路を失踪し、短時間で反対側の城門に到達すると、フワナの強風で門扉を吹き飛ばして鬼門城から出て行った。
「いろいろなお店があったみたい。・・・買い出しする暇があれば良かったのに」とティアが残念そうにつぶやいた。
ゲンスランたちが数日後に鬼門城に到達すると、城壁の外に人が大勢集まっていた。よく見ると地面にいくつもの盛り土が並び、その前で人々が頭を下げていた。
「何をやってるんだ?」と疑問に思うジェラン。
「ドルドン、その辺にいる人に状況を聞いてくれないか」とゲンスランがドルドンに頼んだ。
話を聞きに行くドルドン。しばらく話してからゲンスランのそばに戻って来た。
「ここで数日前に戦いがあって、将軍や城の責任者が亡くなったそうです」
「葬式か。・・・しかし誰と戦ったんだ?この大陸には戦が絶えないのか?」
「女ばかりの軍隊と戦ったようですよ」とドルドン。
「女ばかり?・・・ミスティたちのことか?」と首をひねるジェラン。
「あいつら、見知らぬ土地で諍いを起こして、何をやってるんだ?」
「女ばかりの軍隊は鬼門城を強行突破して、内陸に向かったそうです」
「すぐに後を追おう!」といきり立つジェラン。
「この城は通過できそうか?」
「主を失った衛兵たちが混乱していて、今なら自由に城内に出入りできます」
「そうか。なら城内で食糧を調達して、我々も内陸に向かおう。引き続き案内を頼むぞ、ドルドン」とゲンスランに言われ、ドルドンはジェランが乗る馬の手綱を引いて城門へと向かった。




