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21 上空からさいはての大陸を眺める

ジェランが帝都の皇宮にいる頃、ミスティたちは帝都から西の方向にある大きな半島を海岸沿いに進んでいた。


徐々に道は狭く、凹凸が目立つようになっていたが、それでも海岸の漁村を巡るようにして半島の先端まで続いていた。


半島の先端は高い崖になっていて、その崖の上から海峡の向こう側が見渡せる。


水平線の上に黒っぽい稜線がかすかに見える。海峡と言うから最近渡った大河の河口ぐらいの幅かと思っていたが、けっこう遠そうだ。大鯨竜バレラゴンのような海の怪物もいっぱいいるのかもしれない、とミスティは思った。


「ここを渡るには外洋用の大きな船が必要ね」とミスティが言うと、


「そうですね。通過した漁村にはあまり大きな船がないようでした」とココナが言った。


「リュウレは以前、異能タラントで海を渡るのは無理だと言っていたが、このくらいの距離でも渡れないか?」とホムラがリュウレに聞いた。


「どのくらいの距離があるの?ここから辺境伯領までの距離よりも遠いのかしら?」とリュウレ。


「空高く飛んでみたら、おおよその距離がつかめるんじゃないか?」とピデアが提案した。


「じゃあ、真上に飛んでみる。フワナ、一緒に来て。上空の風が強くて押し流されそうになったら、ここへ戻れるよう手伝ってほしいの」


「わかったわ」とフワナが答えた。


「ほかに一緒に飛びたい人がいる?」


「私も行こう」「私も」と、手を上げたのはホムラとピデアとミスティだった。


「ミスティはご主人様なんだから、危ない真似はしないでください」とホムラに嗜められる。


「リュウレとフワナがいれば大丈夫よ。周囲の地形も確認しておきたいから、連れて行って」とミスティが頑なに同行を主張したため、ホムラもあきらめざるを得なかった。


「高く上がると風が強いかもしれないから、みんなで手をつないで輪を作りましょう」とリュウレが言って、ミスティを含む5人が手を繋いで輪を作った。


「行きますよ、羽衣プルメジ!」リュウレがそう唱えるとリュウレの体を光が包み、さらに手を繋いでいる全員を光が覆っていった。


さらに各々の両肩から光の翼が生えてくる。


「気をつけてくださいね」とココナが声をかけた時、5人の体がふわりと宙に浮かび上がった。


人の背丈の数倍の高さまで手を繋いだ5人の体が浮かび上がると、フワナが「じゃあ、上向きの風を吹かすわよ」と言った。


その時、「ええっ!?」と驚きの声を上がるリュウレ。


全員がリュウレに注目し、「どうしたの?」とフワナが聞いたが、


「い、いえ、大丈夫、何でもないわ。・・・フワナ、お願い」とリュウレが答えた。


「じゃあ行くよ、風獄昇竜ガスティウプドラ!」


フワナの言葉と同時に上昇気流が巻き起こり、5人の体は急上空に向かって急速に飛び上がっていった。上空を飛んでいた海鳥があわてて5人を避ける。


ここでリュウレの羽衣プルメジについて説明しておこう。上記したように体を光が包んだ後、光の羽が生えて空を飛ぶことができる異能タラントだ。


リュウレひとりだけでなく、多くの人を飛ばすことができる。その場合、手を繋いでいれば確実だが、手を離していても近くにいる人に羽を生やすことも訓練でできるようになっていた。


ただし空を飛ぶ速さはせいぜい小鳥の飛行速度と同じくらいで、それほど速く飛べるわけではない。そこでフワナに風を吹かせてもらうことによって、より高速に空を飛べるようになる。


今回はフワナが強い上昇気流を作ってくれたため、5人は一気に上空へと上がることができた。ミスティがおそるおそる眼下に目をやると、徐々に視野が広がって、けっして小さくはない半島の輪郭が見えるようになっていた。地上から見るとおそらくミスティたちは見えなくなっていただろう。


「西を見てください」とリュウレが言った。


ミスティたちが西の方を向くと、半島の先端に海峡があり、その向こうの大陸の陸地の黒い影が徐々に広がっていくのが見えた。


「あれが『さいはての大陸』ね」とホムラ。


「海峡はけっして幅が狭いわけではないけど、強い風に乗れば飛んで行けない距離じゃなさそうね」とフワナが言った。


「ねえ、私たち、海の上に浮かんでない?」とピデアが真下を見ながら言った。


西の大陸の方ばかり見ていたミスティたちがあわてて下を見ると、青い海面が広がっているだけだった。半島の先端は東側の少し離れたところにあった。


「風で流されているみたい」とリュウレ。


「上空では強い東風が吹いているんだわ!」


「西の大陸の半島がこちらに伸びている。・・・東西の大陸の半島が向かい合わせになっているみたいだ」とホムラが言った


「このまま私が西向きの風を吹かせたら、1日以内に西の大陸の半島に着きそう」とフワナ。


「ただ、東に戻るには東風に逆らって飛ぶことになるから、戻るのには時間がかかりそう」


「とりあえず高度を落として、元の半島に戻りましょう。ほかの人たちを置いていくわけにはいかないわ」とミスティが言ったので、リュウレは少しずつ高度を下げた。


風獄飛竜ガスティフルドラ!」フワナが強い西風を吹かせて元の半島を目指す。


白く波立つ海面が徐々に近づいて来る。


「幸いなことに海面近くの東風はあまり強くないから、何とか戻れそうだわ」とフワナが言った。


「私だけだと戻れなかった・・・」とリュウレが小声で言った。


「あ!海面を見て!」と突然叫ぶピデア。


ミスティたちが下を向くと、青い海面に時々黒い巨大な物体が浮かび上がっては再び沈んでいくのが見えた。


「あれは大鯨竜バレラゴンか?・・・河口で見たのより大きそうだ」とホムラが言った。その声は落ち着いていたが、ほかの4人は思わず身震いする。


「す、少し離れたところにも黒い塊がいくつか見える・・・」とリュウレ。


「黒い塊が縦に数個並んでいる。・・・あれは大鯨竜バレラゴンじゃなくて、伝説の大海竜レビラゴンかもしれない」


大海竜レビラゴンって?」と聞き返すフワナ。


「巨大なウミヘビのことよ」とリュウレが答えて全員が震え上がった。


「こんな海、船じゃ渡れないわね。あの船長が海の彼方に向かうのは無謀だって言ってたけど、こういう怪物がいっぱいいるからなのね」とミスティ。


「大河の河口にあった2本マストの船じゃあ、あの怪物たちに襲われたらひとたまりもないな」とホムラも言った。


「さすがに今の高さなら、怪物たちも襲っては来れないみたいだ」とピデア。


海面の少し上空を東に進むうちに、徐々に半島の先端の崖が大きくなっていった。目を凝らしてみると、ココナがミスティたちに向かって手を振っているのが見えた。


フワナが風を調節し、ふわりと半島の先端に降りて行く。地面に足が着くと光の翼が消え、ココナたちが駆け寄って来た。


「おかえりなさい、ミスティ」


「ただいま、みんな」と返答するミスティ。


「あっという間に高く上がって見えなくなったので、しばらく周囲を見回していたら、海峡の上から近づいてくるのが見えたので驚きました」とトアラが言った。


「ずいぶん西の方に飛んで行ったんですね?」とミナラも聞く。


「上空では強い東風が吹いていたのよ、その風に乗れば西の大陸まで飛んで行けそうだったわ」とミスティが説明した。


「私たちだけだったら向こう側に渡れるのですか・・・」とエイラが言って後に停めてある馬車を振り返った。


「身ひとつで行くと、向こうで苦労しそうです」


「とりあえずお茶を淹れます。休んでください」とヴェラが言い、ティアとともに馬車の近くに熾している焚き火の方に向かって歩き始めた。


その後からついて行くミスティたち。


「どうしたの?」とフワナがリュウレに聞いた。着地してからずっと押し黙ったままだったからだ。


「うん、ちょっとね・・・」


その時、さっそくお茶を淹れ始めていたヴェラがミスティたちに声をかけた。


「お茶を淹れましたからどうぞ。リュウレもフワナもお疲れさま」


ティアと一緒に木のコップに入れたお茶を次々と手渡してくる。リュウレとフワナも受け取って、焚き火の近くに置かれたいた丸太に腰かけた。


お茶はハーブティーだった。ヴェラが生やしたものだろう。いい香りが二人の鼻腔をくすぐる。


「我々だけで海峡を飛び越えるなら、できるだけ多くの荷物をまとめて背負う必要があるな」とホムラがみんなに話していた。


「荷物は食糧と着替え?・・・食糧はティアとヴェラがいれば向こうの大陸でも何とかなると思うけど、野宿をするのは嫌ねえ」とココナが言った。


「ここで折り畳める天幕テントのようなものを作って背負って行くのはどう?」とトアラ。


「夜露はしのげそうだけど、布が足りないかも。帝都で買っておけば良かったわ」とエイラも言った。


「あ、あの!」と、突然リュウレが立ち上がってみんなに声をかけた。


「どうしたんだ、リュウレ?」と聞き返すホムラ。


「さ、さっき、5人で手を繋いで飛んだ時にね、妙な感じがしたの」とリュウレが言った。


「妙な感じ?空を飛ぶ時に違和感があったの?」とフワナが聞き返した。


「違うの。逆よ。・・・いつもより力がみなぎった気がしたの」


「力がみなぎった?・・・空を飛ぶ力が強くなったってこと?」とホムラが聞き返す。


「そうなの。・・・私はここにいる11人を一度に浮かせることができるわ。でも、やっぱり自分ひとりだけで飛ぶ時よりも疲れる気がしていたの。ところがさっきは5人で飛んだのに、いつもよりずっと・・・ひとりで飛ぶ時よりも力強く飛べたの!もちろんフワナの力を借りてはいたんだけどね」


「つまり、どういうこと?」とココナが聞き返した。


「つまり、さっきのように力がみなぎっていれば、私たち11人だけじゃなく、もっと大きいものも浮かせることができるかもしれないってこと!」


「例えば馬車ごととか?」とエイラが聞くと、リュウレは黙ってうなずいた。


「そう言えば私も思ったより強い風を吹かせられたような気がする」とフワナも言い出した。


「私たち二人とも力が増したのかしら?」


「その状態が保てるなら心強いけど、いつもその調子で飛ぶことができるの?」とミスティが聞いた。


「試してみます。フワナ?」とリュウレがフワナに言い、二人は立ち上がると片方の手を繋いだ。


羽衣プルメジ!」リュウレとフワナの体を光が包み、羽が生えてふわりと浮き上がる。


風獄昇竜ガスティウプドラ!」フワナが上昇気流を発生させ、二人が上空へ飛び上がって行った。


「・・・さっきの5人の時よりも上昇が遅い気がします」とミナラが見上げながら言った。


それでも上昇を続けた二人は、東風に押されたのか徐々に西に流され、海の上に出る。


高度を下げる二人。フワナが横風を吹かせたように見えるが、その高度でも東風が強いらしく、なかなか半島にまで戻れないようだった。


「苦労しているわね。さっきので疲れたのかな?」と心配するホムラ。


「危ない!」ミスティが叫んだ。リュウレとフワナの二人がバランスを崩して手を離しそうになったからだ。


二人はあわてて両手を繋ぎ合った。その瞬間、二人の体がぐんぐんと半島にいるミスティたちに近づいて来た。


両手を握り合ったままミスティたちの前に降り立つリュウレとフワナ。みんなが心配して集まって来た。


「大丈夫?苦労していたようだけど」とミスティが聞くと、リュウレは顔を輝かして口を開いた。


「わかったんです!力を出す方法が!」


「そ、そうなの?・・・どうすればいいの?」と、リュウレの勢いに押されながらもミスティが聞き返した。


「もう一度検証してみます。みんな、こっちに集まってください!」


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