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11 十勇士の集結(3)

「もちろん、その高嶺白詰草でしたっけ?買うわよ」とミスティがヴェラの様子を見ながら言った。


「ところで、もう一度空を飛ぶところを見せてくれないかしら?」財布の革袋から金貨5枚を取り出しながらミスティは聞いた。


「いいわよ」高嶺白詰草と金貨5枚を交換すると、少女は胸の前で両手を交叉した。たちまち淡い光でできた翼が両肩から生えてくる。その間にミスティは高嶺白詰草をヴェラに手渡した。


ふわりと浮き上がる少女。2メテルほど浮き上がってミスティを見下ろした。


「すごい力を持っているのね」と見上げながら少女をほめるミスティ。


「どのくらいの高さまで飛び上がれるの?」


「私ひとりだとこのぐらい。でも、相棒がいればあの崖の上まで軽く飛べるよ」


「相棒?」とミスティが聞き返した時、「誰か走って来ます」とホムラがミスティに囁いた。


ミスティが振り返ると、崖沿いの道をひとりの少女が走って来た。


「リュ、リュウレ、何があったんだ?この人たちは?」と聞く少女。


「この人たちが高嶺白詰草を買ってくれたんだよ、ねぎらずに。薬屋に行く手間と値段交渉をする手間が省けて良かったよ」とリュウレと呼ばれた宙に浮いている少女が答えた。


「この人が相棒なの、リュウレさん?」


「そう。フワナが風を吹かせて私をもっと高くまで飛ばせてくれるんだ」とリュウレは答えた。


「あなたは風を操ることができるの、フワナさん?」と聞くミスティ。


「は、はい」と息を切らしながらフワナが答えた。


「(はあ、はあ)リュウレから無理矢理草を(はあ)盗ろうとするやつが現れたら、(はあ、はあ)私が風で吹き飛ばす!」


「この人たちはすぐに代金を払ってくれたよ、フワナ」とリュウレが安心させるように言った。


「金払いのいい人たちだよ。ねえ、お嬢さん、また高嶺白詰草を取って来るから、買ってくれるかい?」とリュウレはミスティに聞いた。


「お嬢様、生やすことができた!」とヴェラが両手に高嶺白詰草を持ってミスティに報告した。目を丸くするリュウレとフワナ。


「あなたのおかげで高嶺白詰草をいくらでも手に入れることができるようになったわ。金貨5枚じゃ安いくらい」


「そ、そんな!?私たちの生活手段が!」リュウレが叫びながら地面に降り立つ。


「この辺じゃ、金になるものはあまりないのに!」とフワナも怒り顔でミスティに詰め寄った。


「これがあなたたちの生活の糧なの?せっかくの素晴らしい力なんだから、私のところに来てもっと有効活用しない?あなたたちを雇いたいの」


ミスティの言葉に顔を見合わせるリュウレとフワナ。


「私たちは辺境伯令嬢のミスティ様の専属部隊だ。一緒に来ればその力はもっと強くなれるし、世のために使う機会がくるぞ」とホムラが二人に言った。


「私たちはみなお嬢様に仕える運命にあるんだ。何となくわかるだろ?お嬢様があなたたちの主となるお方であると」とピデアも言った。


「・・・確かに、上空から見ただけでこのお嬢さんが信用できる人だと思った。・・・フワナはどう思う?」


「高嶺白詰草は滅多に見つからない。高く売っても生活はあまり楽にならないから、私はこのお嬢さんと一緒に行っていいと思う」とフワナも言った。


「それでは!」とミスティの方を向いてひざまずくリュウレとフワナ。


「私たちもお嬢様の配下にお加えください」異口同音に言う二人。


「歓迎するわ、リュウレ、フワナ。せっかくだからここでお茶にして、二人の話を聞きましょう。ティア、お願いね」


「はい、わかりました」ティアは村で買い置きしていたリンゴを馬車から持ち出すと、皿の上でいくつかに切り分けた。そしてその皿をリュウレとフワナに差し出した。


「お茶の用意ができるまで、これを食べていて」


「リンゴ?嫌いじゃないけど・・・」といいつつリンゴの一切れを手に取るリュウレとフワナ。さりげなく口に運ぶと、その瞬間二人は叫び出した。


「何これ!?リンゴだけどリンゴじゃない!」「こんなにもおいしいリンゴがこの世にあったなんて!」


あっという間に一切れを食べ終えた二人は、次の一切れに手を伸ばしながら、


「こんなにおいしいものがいつも食べられるなら、喜んでお嬢様の従者になります」と感涙を流しながら言った。


「まるでモモタローのキビダムゴね」とひとり言を言うミスティ。


「モモタロー?キビダムゴ?・・・それは何ですか?」と耳ざとく聞きつけたココナがミスティに聞いた。


「さあ?頭に浮かんだ言葉をつぶやいただけで、私にも意味がわからないわ」とミスティは困惑顔で答えた。


二人を仲間に迎えたミスティ一行は辺境伯邸を目指した。これで従者の人数は9人。あとひとり従者がいるはずだけど、辺境伯邸への帰路ではそれらしき人材に出会わなかった。


帰宅までの数日間、何もしなかったわけではない。従者たちはそれぞれの異能タラントを鍛えるべく、折りをみて訓練に励んだ。


フワナの風魔法も見せてもらった。自在に体の周囲に突風を吹かせることができるし、つむじ風を起こすこともできた。ただし敵と戦う際は突風を浴びせかけるだけで、敵を傷つけるほどの強さはなかった。


一方のリュウレの異能タラントは、出会った日に見たように自分の体に光の翼を生やして、少しだけ宙に浮くことができるだけだったが、別の人と手を繋いだ状態では、その人にも翼を生やして一緒に宙に浮くことができた。


「二人とも訓練をすれば、もっと力が強くなるわ」とホムラが二人に言った。


「フワナの風は相手を吹き飛ばすくらいの威力になるし、リュウレは単独で空高くまで飛べるようになるかもね」


「わかりました!励みます!」とやる気を見せる二人だった。


久しぶりに辺境伯邸に戻ると、初めて見るトアラ、ミナラ、ティア、ヴェラ、リュウレ、フワナはその屋敷の大きさに感動していた。


「こんなお屋敷に住めるの!?」「夢見たい!」と口々に叫ぶ従者たち。


「みんなの部屋は私の部屋の近くに用意するわ。しばらくはひとつの部屋に数人ずつ入ってもらうことになるけど、我慢してね」とミスティ。


「そんなの平気です。今までの暮らしに比べたら、天国のようです!」


「ティアには厨房を、ヴェラには庭を案内するわ。料理人や園丁たちと仲良くしてね。


「はい!」と答える二人。


ミスティたちが馬車を降りて、辺境伯邸の正門から中に入ると、すぐに執事が駆け寄って来た。


「お嬢様、長旅を終えられてお疲れと思いますが、相談したいことが存じます」


「何かしら?」


「執務室にお越し下さい」


「わかったわ。ココナ、ホムラ、新しい仲間たちの世話をお願いね」ミスティはそう言い残して執事の後を追った。


ミスティが執務室に入ると、父親である辺境伯が待っていた。


「ミスティリア、変わった従者を集めているお前に頼みがある」と父親。


「わかりました。何でしょうか?」


「最初から話すと、領都と隣町の間の街道で商人の馬車が盗賊に襲われた・・・」


「盗賊!?まだそんな輩が領内にいるのですか?」


「由々しき事態だが、そちらの方は騎士団が討伐に行っている。・・・商人の夫婦と使用人たちは盗賊に殺され、金品は奪われたが、馬車の中にお前と同い年ぐらいの娘が残っていた」


ミスティはそれを聞いて疑問に思った。女の子なら盗賊たちに連れて行かれるか、あるいはその場で殺されるはずだ。よっぽど運が良かったのか、それとも盗賊たちに見逃されたのか・・・?


「襲われた馬車が見つかった時、その娘は光の壁で覆われていた。調べに行った騎士たちが押しても剣で突ついても、その壁はびくともしなかった・・・」


ミスティはそれを聞いて「新たな異能タラントね」と直感した。


「騎士たちがなだめすかしてようやくその壁は消え、気を失った娘をこの屋敷につれ帰って来た。それから空き部屋を与えて面倒を見ているが、食事の時以外はその光の壁を作って、その中に引きこもっておる」


「わかりました。その女の子の心を開かせればいいんですね?その後で私の従者に加えます」とミスティは言った。


執務室から出ると、その少女が引きこもっている部屋まで執事に案内してもらった。


使用人用の部屋の一室だ。部屋の中に入ると、その少女はベッドではなく床の上に座り込んでうつむいていた。確かに少女の周り・・・少女から1メテルぐらい離れた空間に球形の光り輝く壁のようなものがあった。その壁は半透明で、中にいる少女の姿が見える。


少女はミスティが部屋に入って来たことに気づくと顔を上げたが、すぐにまたうつむいてしまった。


「部屋に食事を置いておくと、いつの間にか空になっているのです。食事の時だけ壁を消しているのでしょうが、ほかに人がいる時にはけっして壁を消そうとしないのです」と、案内してくれた執事がミスティに説明した。


「寝てる時にもあの壁はあるの?」


「一度夜中に見に行ったら、眠っている娘の周りの壁が薄くなっているようでした。しかし物音に気づくとすぐに壁を作ってしまうのです」


おそらく両親が盗賊に襲われて殺されたことが、心に深い傷を残したのだろう、とミスティは考えた。そしていまだにおびえている。


しかし食事をしているのなら、まだ生きる意思はあるのだろう。そう考えてミスティは光る壁の中に閉じこもっている少女に近づいて行った。少女はうつむいたままだ。


「こんにちは」と話しかけるミスティ。少女はうつむいたままだった。


「私はこの家の娘のミスティよ。あなたはとてもつらい目にあったそうね。でも、いつまでもうつむいたままだと、あなたのご両親はきっと悲しまれるわよ」


ミスティの言葉を聞くと少女はやっと顔を上げた。赤く泣きはらした目は、怒っているように見えた。


「・・・ごめんなさいね。つらいのはあなたなのに、関係ない私が気休めなことを言っても、腹立たしいだけよね」


「・・・の」少女が小声でつぶやいた。


「え?」


「ひどいのは私なの」と少女は言った。


「父さんと母さんとおじさんたちは命をかけて私を守ってくれた。私は・・・私はみんなが天国で幸せにいられますようにって、お祈りし続けなくてはならないのに・・・」


そう言って少女は顔を手で覆った。


「それなのに、眠ったり、お腹がすいてお食事をいただいたりして自分のことばかり!」


「それはあなたが生きているから仕方がないことよ」とミスティは優しく諭した。


「愛する家族や友だちを突然失うことはまれなことではないわ。でも、生き続けなければその人たちを悼むことはできないし、天国に迎え入れられた人たちも、残された家族が元気に、幸せに生きていくことを願っているわ」


ミスティの言葉に少女は顔を上げた。


「私は普通に生きていていいんでしょうか?」


「もちろんよ。つらいことがあっても精いっぱい生きていれば、いつか天国でご両親と出会った時にほめてくれるわよ」


「・・・ありがとうございます、お嬢様。少しだけ気が楽になりました」とその少女は涙を拭きながら言った。


「ところであなたの周りにある光の壁、これはあなたが出しているものなのね?」


「そうみたいです。盗賊に襲われた時に初めて作れた壁ですが・・・」そう言ってまた少女は泣き崩れた。


「どうしたの?」


「こんな力があると知っていれば、自在に出せたのなら、父さんたちも助けられたのに・・・」


「それまで使ったことがなかった力だったのなら、しょうがないことよ。これから人々を助けるのに使いましょうよ。・・・とりあえず元気を出して、あちらでお茶を飲みましょう」


「は、はい・・・」少女は再び涙を拭き、手を動かすと光の壁が消滅した。


「あなたの名前を教えて」とミスティは少女に聞いた。


「エイラです」


「そう、エイラ。これからはこの屋敷があなたの家、私や父や仲間たちがあなたの家族になるからね。さあ、仲間たちのところに行きましょう」とミスティは優しく言った。


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