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10 十勇士の集結(2)

狼から逃げ惑う二人の少女は、馬車からまだ50メテル(約50メートル)近く離れていて、ホムラの炎の攻撃は届かない。


ピデアが加速して走ろうとした時に、


水獄飛鳥ストリムファルコ!」とミナラが叫んだ。


先端が尖り、両側に翼のようなヒレが付いた鳥形の水の塊が2つミナラの手から射出される。その水の鳥はトアラが作った凍気を抜けて氷の鳥になった。


あっという間に逃げ惑う少女たちの横をすり抜け、狼の体に直撃する氷の鳥。狼はギャンと鳴くと、血を吐いてその場に倒れた。


狼が死んだのに気づいて路上にへたり込む二人の少女。そこへミスティたちの乗る馬車が近づいた。


「あなたたち、大丈夫?」と声をかけるミスティ。


「あ、あんがと」ぜいぜい息を吐きながら何とかお礼を言う少女。


「山菜を摘みに来たら狼が出て来て、死ぬかと思った」


「このあたりに食べられる山菜があるの?」と聞くミスティ。行く先々で食べられるものを見つけられるかどうかは、行軍中の騎士団にとっては重要なことだった。


「例えばこの草とか、おいしいよ」と言って無造作に道端の薄汚れて硬そうな草の葉を手で千切る少女。


「こんなの食べられるの?」とトアラが聞いた。「私の家の近くでもよく見かけるけど、誰も食べないわよ」


馬車を降りたピデアが同じ草をむしり取った。水筒の水をかけてざっと洗い、口に入れて噛んでみるピデア(水はいつでもミナラが出してくれるので、ミスティ一行は水を気軽に使えるようになっていた)。


「べっ!」苦そうな顔をして葉を吐き出すピデア。


「硬くて臭くて苦くてまずいっ!こんなの馬でなきゃ食えないよ!」


「見ただけで想像がつくな」とホムラ。


「こうすれば食べられるよ」とその少女は言って草の上を手でなでるような動作をした。とたんに草の葉の汚れが消え、瑞々しく、いかにも軟らかそうな葉っぱに変化した。


「うん、しゃきしゃきしておいしいっ」そう言って草をおいしそうにほおばる少女。


「私にいただけないかしら?」と少女に聞くミスティ。少女は道端の草を摘むと、同じような仕草をしてきれいになった葉をミスティに渡した。


その葉を口に入れてかんでみるミスティ。「ほんとうだ、チシャの葉みたいだわ。塩があればもっとおいしく食べられるでしょうね」ミスティはおいしそうな顔をして言った。


ホムラたちも少女に頼んで草の葉を食べられるように変えて分けてもらい、その草・・・山菜というよりはもはや野菜?・・・を食べさせてもらった。


「あなた、不思議な力を持っているわね。あなたの名前を教えていただけるかしら?」


「私の名前はティア。この先の村に住んでいるの」


「あなたはティアと一緒に山菜を摘みに来たの?」ともうひとりの少女に聞くミスティ。しかしその少女は首を横に振った。


「ヴェラ」自分を指さして言う少女。次にティアを指さして「たまたま会った」と言った。あまり言葉が達者ではないようだ。


「この子は村の子じゃないの」とティアが説明した。


「森の中でひとりで住んでいるの。村の大人たちが一緒に住もうって誘いに行ったことがあるんだけど、森の中の空き地に草で編んだような小屋を建ててその中に住んでいるの」


「ひとりで大丈夫なの?」とミスティが聞くと、ヴェラはうなずいた。


「この子の家の周りには鋭いトゲが生えたイバラが植わっているから、狼に襲われないそうよ。不思議なことに、イバラの内側に果物のなる木がいつも生えているの。どうしていつも果物がなっているの?」


「自分で生やすだけ」そう言ってヴェラは足元の地面を撫でた。たちまち芽が出て来て、あっという間に1メテルぐらいの高さに成長して、さらに拳大の緑色の実が成った。


「それ、食べられるの?」と聞くミスティ。するとヴェラが実をひとつもいでミスティに渡した。


匂いを嗅いでからその実をかじってみるミスティ。たちまち目が見開いた。


「とっても瑞々しくて甘くておいしいわ!」ミスティの言葉にほかの少女たちがヴェラの方を見た。


しかしヴェラはミスティ以外には実を渡そうとしなかったので、ミスティが一度かじった実をホムラに手渡した。順番にかじってその甘さと水気に驚く従者たち。


「あなたも不思議な力を持っているのね。・・・ねえ、あなたたち二人とも私の屋敷に来て、私の侍女にならない?」とミスティはティアとヴェラに聞いた。


考え込む二人。特にヴェラはミスティの言葉の意味がわからないようだった。


「私たちはね、いずれ世界の敵と戦うつもりなの。あなたたちは戦わなくてもいいけど、その力で私たちのお手伝いをしてくれると助かるわ」


「そうねえ・・・?」と考え込むティア。


「二人を誘っている間に狼から肉を獲って来ていいですか?」とトアラがミスティに聞いた。


「い、いいけど。・・・ほんとうに食べるの、狼の肉を?」


「私たちにはご馳走ですよ」と言ってトアラとミナラは死んでいる狼のそばに行った。


「ミナラ、お願い」とトアラが言うと、ミナラは手のひらに上に水しぶきを吹き上げた。


噴水状の水をトアラがつかむと、一瞬で氷でできたナイフになった。そのナイフはよく切れるようで、狼の毛皮を容易に切り裂いていった。


「いい切れ味だな」とほめるホムラ。


「だけど冷たいから、トアラじゃないと扱えないんだよ」とミナラが笑いながら言った。


トアラは狼の内臓を森の中に投げ捨てながらあばら肉を切り取り、ミナラがむしり取って並べた草の上で薄く切り分けていった。骨付き肉がたくさん並べられていく。


次にミナラとトアラは氷の鳥を森の木に向けて飛ばし、枝を何本も切り落とした。その枝を道の真ん中に重ねる二人。


「ホムラ、お願い」とミナラが言うと、ホムラが近づいて指を鳴らした。とたんに重ねた木の枝が燃え上がる。


生木なのでもうもうと煙がたつが、ミナラとトアラはかまわず骨付き肉を火の中に放り込んだ。


煙がさらに立ち上り、まもなく火は消えていった。生木を燃やしたところに生肉を放り込んだので、火の勢いが衰えたのだろう。ミナラとトアラは表面が真っ黒になった骨付き肉を取って、うまそうに食べ始めた。


それを見てヴェラがほしがったので、「あとで果物をちょうだいね」とミナラが言って骨付き肉を1個ヴェラに手渡した。さっそくうまそうにほおばるヴェラ。


3人がうまそうに食べているので、ココナが「私にもちょうだい」と言って骨付き肉を分けてもらった。ココナがその肉を一口かじるなり、


「表面が焦げていて苦く、中は生焼けで、血なまぐさくて、硬くてまずい」と顔をしかめながら言った。


「肉は血抜きをして、熟成させないとおいしくないわよ。特に肉を食べる獣の肉はまずいのよ」とティアが言って骨付き肉を1本取った。


その肉の上にティアが手をかざすと、肉表面の焦げた部分がきれいになった。


「これならおいしいはずよ。食べてみて」とミスティに手渡すティア。


ホムラたちは止めようとしたが、ミスティはすぐにその肉にかじりついてみた。


「何これ!?軟らかくて脂が乗ってとろけそうにおいしい!・・・ちょっと塩気が足りないけど」


「塩ならありますよ」とピデアが言って、馬車の荷物から塩が入った革袋を出して来た。


塩をひとつまみかけて肉をほおばるとミスティは「さらにおいしくなったわ!」と叫んだ。


ミスティの言葉を聞いてホムラたちも急いで肉を取り、ティアに「お願い、おいしくして!」と頼んだ。もちろんココナも。ミナラとトアラもみんなの様子を見て、食べかけの肉をティアに差し出した。彼女らの肉を処理して、ピデアが塩を振りかけていった。


ヴェラはピデアを見て、「塩・・・」とつぶやいて同じように肉を差し出した。森の中で果物しか食べていなければ、塩への欲求が高まるのだろう。血なまぐさかった肉も、血の中の微かな塩分を味わっていたのかもしれない。


肉をおいしく処理してもらい、塩をかけて食べるトアラとミナラは、


「こ、これが肉なの!?・・・じゃあ、私たちが今まで食べていたのは何だったの!?」と感極まって叫んでいた。ヴェラも目を輝かせて食べている。


肉を食べ終わると、お礼のつもりなのかヴェラが果物を次々と生やしてみんなに配った。この果物の甘さを改めて味わうミスティたち。


「みんなが揃えば評判のレストランを作れるわね。火も水も氷も豊富にあるし、どんな食材もティアがおいしく調理してくれる。新鮮な果物も食べ放題!文句を言って来る客がいたら、ココナが適当にあしらってくれるでしょうし」とミスティは思わず言ってしまった。


「あの、私の役目は?」と聞くピデア。


「客に料理を配ったり、足りない食材を買い出しに行ったり、いくらでも仕事はあるんじゃない?」とホムラに言われるピデア。


「おっと、私たちの目的は世界を救うことで、レストランを開くことじゃなかったわ!」と我に返ったミスティが言った。


「改めてお願いするけど、私の下で働かない?目的はまだ見ぬ敵を倒して世界を救うことだけど」


「ヴェラは行く!塩をいつももらえるなら!」とすぐにヴェラが叫んだ。


「私も一緒に行ってもいいわ。ひとりだと、山菜はともかく肉は滅多に手に入らないから」聞けばティアも身寄りがなく、村の一員ではあるものの一人暮らしということだった。


「これで7人ね。あと3人仲間がいるはずだけど、村々を一通り回ったから、北の山麓を通っていったん家に帰りましょう」とミスティが言い、馬車は領都への帰還の途についた。




辺境伯領の北側にも高い山々がそびえ立っており、その麓の道をミスティたちの馬車はゆっくりと進んだ。


「あそこに高嶺白詰草がある!」とヴェラが崖の上を指さした。


見上げると、小さな白い花をつけた草が崖の側面に生えていた。


「あれはいい薬の原料になる」とヴェラ。


「ヴェラなら自分で生やせるの?」とミスティが聞いた。


「自分で触った植物しか生やせない。あの草は旅の薬屋が持っているのを見たことがあるけど、とても値段が高くて触らせてもらえなかった」


「高価なのも納得だわ。あんなに切り立った崖の途中にしか生えないのなら、滅多に取れないわ」とピデアが言った。


その時、ミスティたちの上を影が通り過ぎた。それは空を飛ぶ少女で、高嶺白詰草に向かってまっすぐに飛んでいた。


「あれは天使なの?」と驚いているココナ。


空を飛んでいた少女は高嶺白詰草が生えている崖に手足を伸ばして貼り付くと、すぐに右手で高嶺白詰草を崖からむしり取った。その動作で体のバランスが崩れ、後ろ向きに倒れる少女。しかし両足で蹴って崖から離れると、すぐに体を回転させて両手を開いて飛び始めた。


唖然として見上げるミスティたち。少女はミスティたちに気づくと、旋回しながらゆっくりと降りて来た。


ふわりとミスティの前に降り立つ少女。近くに来て初めて気づいたが、少女の背中には光でできている翼のようなものがあって、地面に降り立つとその翼が消えてしまった。


「あなたはすごいわね。空を飛べるの?」と少女に聞くミスティ。


「はい。なぜか私にだけできる特技です」と少女は答えた。


「特技なんてものじゃないでしょ・・・」とミスティが言いかけた時、ヴェラが飛び出て来た。


「そ、その草はどうするの!?」叫ぶように聞くヴェラ。


「これは回復薬の材料として薬屋に売るつもりだけど、・・・ほしい?」


すごい速さで首を縦に振るヴェラ。


「お金あるなら売ってもいいよ。というか、買ってくれそうなお嬢様の一行だったから降りて来たんだ」


「ヴェラ、ほしいの?」とヴェラに聞くミスティ。


「うん。一度触れば自分で生やせるから」とミスティの耳元に囁くヴェラ。


「いくらなの?」とミスティは聞いた。


「金貨5枚です」と少女が言ったので、みんなが驚きの声を上げた。


「金貨5枚?それだけあれば回復薬が何十本買えるんだ!?」


「そこらの回復薬とはレベルの違うものが作れるのよ。・・・いやならいいけど?」と少女は伺うような目線でミスティたちを見た。


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