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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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謎の生物との遭遇

 依頼書に記されていた座標に再集合した五人。五人は早速依頼をしてきた町長に話を聞くことにした。


「お待ちしておりました。『ディメンジョン』の方たちですね? さぁ、こちらへどうぞ」


 本来は依頼書を持った怜央たちが依頼者に依頼書を見せて依頼は開始されるのだが、どうも先に連絡が来ていたらしく、出迎えた男に五人はすぐに迎え入れられ、客間と思しき部屋に通された。本当なら依頼書を確認してすぐに依頼に向かうのだが、その前に話があると依頼書にあったのだ。


 促されるままに五人が椅子に座ると、早速案内した男が話しだした。どうも彼は使用人でもなんでもなく、町長本人だったようだ。


「早速ですが、依頼のことについて話させていただきます」


 そう前置きをして、町長は話しだした。


「依頼書にあった通り、新種と思われる生物が目撃されています」


 目撃? 誰も見てないんじゃなかったのか?


 怜央はそう思ったが、何も言わずに話の続きを待った。


「どうも目撃談が安定せず、報告書には詳細不明と書きましたが、本当の目撃情報はこのようになります」


 そう言ってさしだされたのは一枚の紙。そこに書かれていたのは簡易的な地図と二つの丸印だった。どうやらそれは周辺地図らしく、山、森、草原が描かれており、丸印が書かれていたのは山の中腹部と草原の中心部だった。


「これは?」


「目撃情報が最も多い箇所になります。ただ、世間に言われる新種とは形状が異なっています。ただ、見たこともない形の生物であることは確かです」


 見た事がないとはいっているが、それはこの辺りでという意味で、生物学者でもない町長がこの世界にいる生物を全て知っているわけではない。『新種の生物』とはあくまでこの辺りに生息していない生物という意味だ。怜央たちの探している本当の『新種』かどうかは定かではなかった。


「それで、二か所とも同じ形の生物なのですか?」


「いいえ。聞いた限りでは全く違うようです」


「なるほど。少し相談させてください」


「どうぞ」


 代表してこれまで怜央が喋ってきたが、これ以上独断で決めるわけにはいかない。そう考えて怜央は話しあうことに決めた。


「さて、どうする?」


その一言だけで怜央の心情を察したのか、縁寿が答える。


「二手に分かれた方が効率的だよ? それでも見つかるかどうかは微妙だけど」


 確かにそれが最良だと怜央も思った。一か所に賭けてもいいが、それでは依頼遂行に支障をきたす。それなら戦力は下がるが分担した方がいいと思ったのだ。


 もちろん二組に分かれるなら怜央と佐奈、丈と縁寿である。


「でも、二人で対処できるの?」


 佐奈は少ない人数で行くことに不安を感じたのか、疑問を発する。


「できるよ。次こそは必ず俺が狩る」


 しかし丈は分かれる気が満々なのか、意気込みを口にする。どうやら何か遺恨があるようだ。


「じゃあ、決まりだな。それで、しのぶはどうするんだ?」


 他の三人には何も聞かず、しのぶにだけ怜央は問いかけた。他の人たちは聞くまでもなく決まっていると思ってのことだった。現にみんな同じ認識だったのか、誰も何も言わなかった。


「そうだね…… 今回は丈と縁寿についていくよ。最近は君たちに付きっ切りだったし」


「これで決まりだな」


怜央はそういうと、町長の方に向き直った。


「それではこれから調査に入ります」


「あぁ、よろしく頼む」


 それから話し合いの結果、怜央と佐奈は草原の印の場所に向かうことになった。




 草原は見せられた地図のとおりの野原だった。ただ、見渡す限りというほどではなく、木々に囲まれた大きな空間といったところだろうか。草に埋もれて分かりにくいが、どうやらここには元々村があったようだ。


「ここに目撃例が多いんだっけ?」


 佐奈は足元にある加工された木材を何とも言えない表情で見ながら言った。


「そうみたいだけど……」


 怜央はそう答えながらそれはない様な気がしていた。何故ならそこは隠れる場所もない見渡しもいい草原だったからだ。


「本当にいるのか、ここ」


「とりあえず探してみる?」


「……そうだな」


 何もないと決めつけるのはさすがに早計だ。そう思い直して怜央も佐奈も探索を始める。壊れた建物などの物影も一応存在するからだ。


 探索には慎重を期した。物陰から本当に飛び出してくるような気がしたのだ。しかし、一つ、また一つと確認していくうちに緊張感はだんだん薄れていき、後半に差し掛かると二人の緊張感は皆無になった。


「もしかして私達はずれかな?」


「そうみたいだな。このまま何事もなければ……だけど」


 そいっている怜央も既に緊張感もなくだらだらと周りを見ている。そしてついに草原を一通り見終わり、最初にいた場所の反対側に到着していた。


「なんにもいなかったね」


「あぁ」


 本当に何事もなく渡り切ってしまった。物影もしっかりと確認したが、見つかるのは怜央にとっては見たこともない昆虫ばかり。しかし特別危険を感じる生物ではなく、そもそも噂の巨大生物ではないので、怜央たちが気にすることではなかった。


「どうしよっか?」


「どうするも何も…… もう一回見て回って終わりにしよう」


 こちらには今回はいなかったんだと諦め半分に怜央と佐奈は一応もう一度見落としがないか調べていく。


「ねぇ、怜央君。良く考えたらこんな小さなところに大きな生物は隠れれないんじゃない?」


「そうかもしれないが、それでも一応だよ。そもそも現実世界でもとぐろを巻いて小さく収まる蛇や、地面に潜っている虫もいるんだ。注意するにこしたことはない」


「え?」


 怜央の言葉に佐奈は驚きの声をあげた。一体何を驚いているのだろうと怜央は首を傾げる。


「私、そんなの気にしてなかったかも」


「え?」


 今度は怜央が驚く番だった。では佐奈は一体何を探していたのだろう。


「だって、そんな生き物の生態なんて全く知らないし……」


 怜央だって詳しいわけではない。ただそれぐらいの知識は普通にあるものだと思っていたのだ。


「じゃあ、今まで何を探していたんだ?」


「だから、不思議だなぁって」


 それならもっと早くに聞いてほしかったと思うが、後の祭り。それよりも問題は佐奈が何を見ているのかだった。


「それで、何か変なものはあったのか?」


「えっと…… 確かあの辺りに大きな穴が一つ……」


 そう言って佐奈が振り返ったのを追うように怜央も振り返ると、視界を黒い影が覆った。その瞬間、怜央は躊躇いもなく佐奈を抱えて押し倒す様に倒れながら横に転がった。


 その勘は正しかった。数回転がって距離をとり起き上がると、そこには見た事のある、探していた姿があった。


「本当にいたのか……」


 現れたのは大ムカデ。前回見たものよりは少し小さく見えるが、それでも脅威に感じるほどの大きさ。二度目とはいえ、その姿に恐怖を感じずにはいられなかった。


「この虫、近づいてきても物音一つしないんだね」


「昆虫なんだからそんなものだよ。それより、集中しろ。やるぞ」


 そうはいっても相手は巨大な昆虫。しかも頭をあげているとなると前回の様に頭を貫いておしまいにすることはできない。


「でも、どうするの?」


 そうなるとこちらに攻撃手段がない。節足動物でもなんでもそうだが、外骨格は予想以上に固い。現実世界では人間との体格差で破壊出来てはいるが、人間よりも大きいとなると、剣で斬れるかどうかは微妙。狙えるとすれば胴の下側か節と節の間、もしくは脚しかない。


「脚にしよう」


 それらの候補の中から怜央は即決する。今の腕前で狙えるのは数の多い脚だと思ったのだ。


「わかった」


 怜央も佐奈もその短い会話を終えると、動きのない大ムカデに向かって走る。


 大ムカデが反応したのは怜央の方だった。


 体を捻り、頭が怜央の方に向かってくる。怜央はそれに素早く反応し、向かってくる大ムカデの頭と対峙した。


 大ムカデは怜央の正面から一直線に向かってくる。怜央はその頭に向かうように走った。そして大ムカデの頭に衝突しそうになった瞬間、スライディングで体の下に滑り込んだ。


「はぁ!」


 大ムカデの腹に向かって怜央は剣を突き出す。これが当たれば前回同様絶命するはずなのだ。しかし剣は思っていたよりも深く刺さらず、かといって全く効果がなかったわけでもなく、大ムカデは頭を大きく振った。


「ぐっ!」


 剣を放せなかった怜央はそのまま振られ、大きく吹き飛んだ。その拍子に剣は抜け、怜央はその剣を手に地面を転がった。


「せやぁ!」


 地面から起き上がると同時に、佐奈のそんな声が怜央の耳に届いた。見ると怜央が襲われていたおかげで安全だった佐奈は脚を何本も斬っているところだった。


 しかしさすがに無視できなくなってきたのか、今度は大ムカデが佐奈の方に頭を向ける。それを見て、怜央は一つ気付いた事があった。


 頭をあげている大ムカデは下半身を移動に使うだけで攻撃できないのではないのかと。


 怜央はそう思った瞬間、走った。これに気付いているのは自分だけ。囮として機能するのは自分だけなのだ。大ムカデの注意が完全に佐奈に向く前に自分に向き直させなければならなかった。


「ムカデ!」


 怜央は叫びながら大ムカデに向かう。その言葉を理解したわけではなく、大きな音に反応しただけだろうが、怜央の目論見は成功し、大ムカデの注意は再び怜央に向く。


 今度は無理をせず、牽制するように正面に剣を構える。そして向かってくる大ムカデの頭を横に回避して軽く斬りつける。それを繰り返した。


 それを何度か繰り返していると、佐奈が脚を斬っているのも相まって大ムカデの動きが徐々に悪くなっていった。


「最後!」


 ここまで動きが遅くなればさすがに怜央でも反応で来た。


「佐奈! 退避!」


 そこで佐奈に声をかけ、先程の様に体の下にもぐりこみ、剣を上につきあげた。今度は深々と突き刺さり、大ムカデは最後のあがきとばかりに大きく体を振り、怜央を吹き飛ばそうとする。しかしもう動きがわかっている以上回避は簡単で、怜央は剣を放してその場から退避した。


 大ムカデは前回の様にのたうちまわり、そしてついには動かなくなった。


「っ……はぁ……はぁ……」


 終わったのだと実感した瞬間、それはそこで初めて自分がまともに息をしていないことに気付き、意識的に息を始めた。


 息は荒くなり、手は震えている。今更ながらに恐怖を感じていた。


「怜央君! 大丈夫?」


 佐奈は怜央にかけよりながら声をかけてきた。しっかりと退避して大ムカデが暴れた時に巻き込まれなかったようだ。


「だ……大丈夫……」


 怜央は少し息を乱しながら答えた。


「怜央君も怖かった? 私もまだ足が震えてる」


 佐奈は表情こそいつものままだが、立っているのが辛くなったのか、その場にへたり込んだ。


「……さすがにきついな」


 その場の雰囲気に当てられ、怜央も弱気を口にする。


 さっきのは本当に危なかった。別に危ない場面があったわけではない。常に命が危機にさらされている。そんな状態なのだ。常に気を張らなければ次の瞬間には自分が終わるという緊迫感。今の世界では決して味わう事のない、必要もない感覚だった。


「は……はは……」


 思わず怜央の口から笑い声が漏れる。生きているただそれだけの事がこの上なく嬉しかった。


「これで俺たちの勝ちだな」


「……うん!」


 佐奈も未だに興奮が冷めていないのか少し情緒不安定なようだ。


「少し休憩していこう。お互い、まだ少し混乱してるみたいだから」


「そう……だね」


 佐奈も少し自分が興奮している自覚があったのか、納得してその場に座り込んだ。怜央もそれに倣い、佐奈の隣に座る。


「私達だけでこれ、倒せたんだね」


「あぁ、必死過ぎてなんか何やってたか良く覚えてないけど」


「でもこの新種倒してよかったのかな? まだ何もしてないんでしょ?」


「それはどうだろう。町長は何も言わなかったけど、調査依頼じゃなく討伐依頼だった。もう既に何人か被害にあってるのかもね。それにその後に三人行方不明だ。結局倒される運命だよ」


 目の前には相変わらず大ムカデの遺骸が横たわっている。自然と話はその話題になっていった。


「この生物、何度見ても現実にいるムカデそっくりだね」


「確かに。あまりにも似すぎてる。なんか妙な感じがするんだ」


 怜央は妙な事を感じていた。確かにこの世界には現実世界と似ている生物はいる。しかし、大ムカデほど似ている生物をまだ見た事がない。そもそもあんな生物が現存できるのかという辺りから怜央には疑問だった。


「妙な感じ?」


「わからない。だから今度調べ物をしようと思うんだ。佐奈もどう?」


「何を調べるの?」


「生物としてあんな巨大になれるのか……だよ」


 怜央はそれが大きな疑問だった。現実世界にも大きな生物はいた。恐竜と呼ばれる種だ。それでもそれは爬虫類。現実世界でも現在最大陸上生物は象だ。昆虫での最大を怜央は知らない。まずはその疑問を晴らすことから始めようとしているのだ。


「この世界はゲームだよ? 現実世界のことを調べたって……」


「でもこの世界は現実世界に近づけて作ってあるんだから意味があるはずだ」


「じゃあ、一緒に調べる?」


「手伝ってくれるのか?」


 怜央は一人で調べる気でいたのでその申し出は正直うれしかった。


「私も気になっちゃってはいるから」


 その時だった。二人の耳に聞き慣れない音が聞こえてきたのだ。それは電子音で、この世界では聞き慣れてはいなかったが、現実世界では良く聞く音だった。


「この音、何?」


 佐奈は音源を探そうと辺りを見渡す。徐々にその場所を絞っていくと、その音は怜央のフォーアームからだった。


「“腕輪”から音?」


 そんな事は今までに一度もない。少なくとも怜央も佐奈も知らなかった。


「これって何かの異常か?」


「警戒音ってわけじゃなさそうだから、そうじゃないんじゃない?」


 音はまだ鳴り続けている。このままでは埒が明かないと思った怜央はとりあえず起動してみることにした。


 起動すると突然音は鳴りやみ、画面が起動する。そこにはしのぶが映し出された。


『やぁ、そっちはどう?』


「ちょ……! これって電話機能があったのか!?」


『ないよ。これが製作者特権ってやつかな。まぁ、それはさておき、長くは話せないから手短に話すよ』


 つまりこちらからは出来ないということだ。あったら便利だと思ったが、そこまでRPGの世界を崩すつもりはないらしい。


『不味い状況。助け……』


 そこで通信が切れたのか画面に何も映らなくなる。代りに裏からのぞいていた佐奈の顔が見えた。


「本当に緊急だったんだね。助けに行った方がいいのかな?」


「行かなきゃやばい。画面の後ろからじゃ見えなかっただろうけど、あいつら、巨大な蟻の大群に襲われてる!」

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