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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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エピローグ その2

 怜央は結局何もわからないまま外に出た。縁寿が状況を説明してくれると信じて。


 集合場所は意外に使用頻度が高い喫茶店。営業しているのか心配だったが、店の中は何事もなかったかのようにいつもどおりだ。道中怜央が見たところによると、確かに謎の塔の出現により騒がれていたが、それは一部だけで、すぐに興味を失って元の生活に戻る人がほとんどだった。


 到着してみれば怜央が最後だった。


「怜央君、こっちこっち」


 佐奈に導かれるままに怜央は佐奈の隣に座る。向かい側には丈と縁寿が座っている。


「いきなりだけど、本題に入るんだよ」


 なんとなく縁寿に違和感を覚えながらも怜央は頷く。


「集まったのってやっぱりあの塔の話?」


「それと、ログインできない件も含めてだな」


 丈の補足に縁寿が頷く。どうも丈は既に事情を知っているような口ぶりだ。


「察しはついていると思うんだけど、ログインを阻害してるのはしのぶ君だよ」


「察しというか、しのぶに直接追い出されたからそれについては間違いない」


「会ったの? しのぶ君に」


 縁寿は意外そうに驚いた顔で言う。


「直接はまだ。ただログインした時に会ったんだ。皆はログインできなかったのか?」


「うん。あたしも丈君もログインできなかったんだよ」


「私も駄目だったの。それで、しのぶ君はなんて言ってた?」


 会ったのは自分だけだったのかと怜央は内心驚いていた。つまり自分はしのぶが何かを仕掛ける前に動くことができたということ。しのぶの不意を打てたということだ。


 怜央はこの期に及んでしのぶが無関係だとは考えない。しのぶが何を考えているにしろ、この騒動を収拾しなければならない。怜央たちにその義務はないが、同時に見て見ぬ振りもできなかった。この場にいる人はみんな同じような心境なのだろうと怜央は解釈していた。


「邪魔しないで、だそうだ。あの塔にしのぶが関係してるのは間違いないよ。縁寿、お前はわかってるんだよな?」


「想像で良ければいくらでも、だよ? でもちょっと確信みたいのはあるんだよ?」


 その瞬間、何の前触れもなくまた世界が揺れた。喫茶店の中がパニックになるが、怜央たち四人は微動だにしない。会話は一時中断しているが、それは周りが騒がしいからであり、会話できないわけではない。


 慣れとは凄いなと怜央は内心自分に呆れていた。だいぶ“一般常識”というものから逸脱しているなと周りの騒ぎを見て思ってしまったのだ。


 今回の揺れもやはり十数秒で収まり、地面ではなく視界が揺れる揺れ。前回の時には塔が現れた。つまり今回も何かある可能性があるということだ。


「……来るよ」


 縁寿は短く鋭く言う。そして次の瞬間、フォーアームが起動し、画面にある人物が映し出される。しのぶだ。


『やぁ、世界の皆さん。僕の言語は通じているかい』


 声はフォーアームからではなく、どこかわからない周りから聞こえた。耳から聞こえているかどうかもわからない。ただ聞こえているということだけは理解できた。


 周りを素早く確認すれば、携帯電話はテレビなどを見ている人がいる。つまり、今は画面と呼ばれるもの全てにしのぶの姿が映し出されている可能性が高かった。


『僕の名前は山本 しのぶ。突然だけど今から世界を初期化するよ。だけど不安に思うことはない。まったく同じように創りなおすから。ただし、例外が三人ほどいるけどね』


 しのぶの後ろにはもう一人の人物と見慣れない風景が映っていた。地面から想像すると、場所は塔の天辺なのだろうと怜央には思えた。


『では始めよう。プログラムナンバー1“世界は神の玩具に過ぎぬ”』


 その言葉を最後に画面からしのぶは消えた。


 怜央は画面が消えても怜央は何も言えなかった。ただ、画面に映った映像が信じられなかったのだ。フォーアームの画面は現実世界では現れないことなども全て無視し、ただ今見た映像の疑問を口にする。


「今、しのぶの後ろに万里奈がいなかったか?」


「あぁ、確かにいた。ただ、あれはどういうことなんだ?」


 自分の気のせいではなかったのだと丈の反応を見て確信する。しかし、それでもなお信じられない。


「万里奈ちゃん、どうやって……」


 そもそも万里奈はいうまでもなくログイン世界の住人だ。この世界にいるわけがない。そう頭でわかっていても、怜央は今見た光景でその考えを否定するしかなかった。皆が皆、今見た万里奈が偽者などとは思えなかったからだ。


「それに、吊るされていなかったか?」


 丈の疑問に怜央は頷けなかった。


 確かに万里奈はしのぶの後ろにいた。そして万里奈のすぐ背後には何かコードのようなひも状のものが絡まりあい、不思議な図形が作られていた。


 それはまるで万里奈を捕らえる蜘蛛の巣のようであり、万里奈の背中から生える複数の翼の様でもあった。


「一体、どうなってるんだ!?」


 怜央は思わず叫び、立ち上がる。そうでもしなければ、心の安定を図ることができなかったのだ。


「万里奈ちゃんは本人だよ?」


 まるで見計らったように縁寿が口を開く。


「万里奈ちゃんは魔法が使えるんだよ? 魔法とはログイン世界から現実世界に干渉する力。それが出来るという事が何を表すのかわからないのかな?」


 それは怜央も一応は考えた事だったが、魔法はログイン世界で起こる現象であり、どうすれば現状と結びつくのか怜央にはわからなかった。


 そんな様子を見てとったのか、縁寿は説明を始める。


「ログイン世界って何次元だと思う? 私はこの三次元より下だと思ってるけど、そこはどうでもいいの。私が言いたいのは、この世界とは次元が違うよねってことだよ?」


 縁寿の言っていることはなんとなく怜央にもわかった。


 この世界は三次元と呼ばれる世界だ。縦、横、高さの三つの要素を持つ空間で三次元。それに時間軸が加わったものが四次元だ。


 じゅあ、あのログイン世界は何次元なのかと怜央は改めて考える。自身が感じているままなら三次元だが、それは自分たちの世界。そうなるとログイン世界は別位相にある同じ世界ということになってしまう。


 では、機械の中に存在する世界なので“0”と“1”の世界。つまり、零次元と捉えるべきか。それはわからない。自分の今の知識では怜央には断言できない。ただなんとなくわかるのは、縁寿の言うとおり、この世界とは別の次元の世界ということであり、三次元よりは下の次元だということだった。そうでなければ人類は、四次元や五次元に干渉できたことになってしまう。


「そうすると、万里奈ちゃんの力は別の次元からエネルギーを取り出せる力。もっと厳密に言えば、別の次元に干渉できる力ってことにならないかな?」


 確かに縁寿の言いたいことは理解できる。しかし、怜央はどうしても納得ができなかった。


「でもそれは、私たちの世界とログイン世界が繋がってるからでしょ?」


 怜央の言いたいことを佐奈が代弁してくれる。


 そう、ログイン世界とこの世界は元々繋がっていたのだ。だからこそ怜央たちも魔法を使うことができるのだから。


「確かにあたしたちはこの世界とログイン世界の繋がりを理解できるし、見ようと思えば見ることはできるんだよ? でもでも、万里奈ちゃんは違うんだよ。ログイン世界の万里奈ちゃんはこの世界とどうやって繋がっているのかなんてわかるわけないんだよ」


 確かにそのとおりなのだが、繋がっていることは事実。ならば万里奈の能力はおかしくはないはずと怜央は思っていた。しかし、それこそが思い違いなのだ。


「じゃあ、この世界は他の次元と繋がっているかどうか、それはわかるのかな?」


 そう。それこそが問題。


 この世界とログイン世界は繋がっている。しかしそれはこの世界の人間だからこそわかることだ。ログイン世界からは理解することはできない。ちょうどこの世界の住人が別次元に繋がっているかどうかわからないように。


 その事実に気づき、怜央は絶句する。そして同時にしのぶが何をしたのかが理解できてしまった。


「しのぶは万里奈の意識を奪い、意のままに操ってる。そして、万里奈の魔法を使ってこの世界に干渉したんだ。そうすれば万里奈はさらにこの世界から別の次元に干渉できるようになる」


 丈は怜央も佐奈も理解できたと思ったのか、結論を言う。


 万里奈は上の次元へ干渉する力を獲得した。それはつまり、この世界に顕現できるということ。ちょうどログイン世界でゴッドがその世界に定着したように。


 そして、この世界の住人になれば、更に上に干渉できるようになる。万里奈の魔法はあくまで上の次元に干渉する力なのだから。


「しのぶはそんな大それた力を使って何をしようとしてるんだ?」


「そこまではわかんないんだよ。でも、きっと普通の方法じゃ叶わない願いを叶えようとしてる。それは間違いないんだよ」


 そしてそれはきっと誰もが願うことなのではないか。怜央はなんとなくそう思う。しのぶのあの今を見ていないような目はきっと、本当に今に興味がなかったのだと、今の怜央には思えたからだ。


 過去にあった何か。しのぶはその事実を変えようとしている。それが怜央の感想だった。


 縁寿の話が終わり、皆の間に小さな沈黙が下りる。しかし、そんな沈黙さえも今の状況は許さない。


「ねぇ、なんか騒がしくない?」


 最初に気づいたのは佐奈。そしてそのざわめきは他の三人にもはっきりと聞こえた。


「一体――――」


 『なんなんだ』と続けて怜央が質問する前に怜央の声は悲鳴にかき消された。


 驚いて悲鳴の聞こえた窓の外を見る。そこにはありえない光景が広がっていた。


 外では人々が逃げ惑っていた。それを追い立てるのは鎧。それも紫色を基本とした奇抜な色彩の鎧。見ていると目が痛くなりそうなその鎧は人々に襲い掛かっていた。


「なんだよあれ……」


 丈もその光景を見て誰に言うわけでもなく言葉を漏らす。四人が呆然とその光景を見ていると、一人の男が鎧に捕まった。そして次の瞬間、その男は鎧とともに――――消えた。


「ど……どうなってるんだ!?」


「しのぶ君の計画が始まったんだよ。さっきしのぶ君が言ってたんだよ。『世界を初期化する』って」


 確かにそう言っていたが、いざ目の前で起きると信じられない気持ちになった。しかし、今は放心する時間さえ与えられていない。


「まず武器の調達だよ。しのぶ君に会うにも何か武器を持たないと!」


「でも、武器なんてどうするんだ!」


「詳しい話はあとなんだよ! 何か行動を起こさないと、本当に世界は初期化されちゃうんだよ!」


 縁寿の強い言葉に怜央はもう言い返せず、武器を探すために外に飛び出した。佐奈はそんな怜央の後に続く。


 外は予想以上に混沌としていた。紫の鎧から逃げ惑う人々。しかし紫の鎧の数は多く、すぐ捕まり消えていく。そんな光景がそこら中で溢れていた。


「怜央君、武器っていってもどうするの?」


 二人が使える武器など今のところ剣しかない。しかし、この国にそんなものが手に入るそんな簡単にあるわけがなかった。


「大丈夫。心当たりがある」


 しかし、怜央は知っていた。自分たちの使える武器の手に入る場所を。


「あ! 待ってよ!」


 怜央は詳しく説明する前に走り出す。この状況を一刻も早く打開するために、佐奈に説明する手間さえ惜しんで目的地を目指す。



「…………―――――――――」

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