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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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これも一つのログイン世界のハッピーエンド

「っは……!」


 怜央は起き上がってすぐに自分の体を確認した。


 全身不快な汗でびっしょりと濡れているが、五体満足で、異常はなかった。


「くそ……」


 怜央は頭を抱え、その場にうなだれた。


 甘かった。怜央はそう思わずにはいられなかった。


 怜央は文字通り大怪我の感覚と死に行く感覚を体験した。


 大怪我の感覚はまだ許容できた。痛みよりも熱が体内に入ってくるような感覚。その地点で挫けそうだったが、万里奈を救うという気力のみで役割を全うした。


 しかし、その後の感覚は形容しがたい感覚だった。大雑把に言えば失われていく不快感。その一言に尽きた。


 全身から失われていく熱。あるはずの足や腕が失われ、体が軽くなっていく感覚。意識を保とうとしても、強制的に眠りに誘われるように意識を失っていく感覚。それら全てが怜央に“死”というものを認識させるのには十分な感覚だった。


 怜央はその失われていく感覚を少しでも忘れるためにうずくまる。しばらく気持ちを落ち着かせて怜央は何とか動く気力を取り戻し、緩慢な動きながらログインの準備を始めた。


 ログインしなおした座標は今万里奈が寝ている城がある街のもの。怜央はすぐにでも万里なの安否が気になったのだ。


 ログインし、すぐに怜央は走って城に向かう。そしてノックする暇も惜しんで万里奈のいる部屋に飛び込んだ。


「万里奈!」


「やぁ、怜央、来たね」


 そこには既にしのぶ、佐奈、縁寿、丈がいた。しのぶはいつものようにフォーアームをいじりながら壁際に、佐奈は椅子に座って万里奈のベッドの脇に、縁寿は仁王立ちで立ち、丈は縁寿の前に座っていた。何で丈は床なんだと思いながら、気にせずに別のことを問いかける。


「万里奈の様子は?」


「問題ない。今は眠っているよ」


「そうか……」


 怜央は安堵し、近くにあった椅子に座り込んだ。助けることが出来たのだという実感がゆっくりと怜央の中に満たされ、今まで感じていた恐怖が薄れていく。全てがうまくいったのだと、怜央は嬉しくなった。


「怜央君?」


 背もたれに体を預けてゆったりとしていると、佐奈が声をかけてきた。


「万里奈、助かってよかったな」


 みんなもそう思っているはずだと怜央は万感の思いで言った。


「正座」


 しかし、怜央の予想に反し、返ってきたのは怒気を含んだ一言だった。


「え?」


「正座」


 佐奈は全く同じように怒気を強めて繰り返す。表情は完全に怒りに満ちていた。


 怜央は口答えしてはいけないと悟り、大人しく佐奈の前に正座した。


「何であんな無茶したの!」


「いや、だってああしないと万里奈が……」


「他にも方法はあったでしょ!」


 確かにあった。正確にはどうにか出来たかもしれない方法だったが、ないわけではなかった。それがわかっていながら怜央は最も簡単で最も楽な方法を選んだのだ。


「何でことしたの! 私は……!」


 そこで感極まったのか、佐奈は泣き出してしまった。ぽろぽろと大粒の涙が瞳から零れ落ちていく。


 怜央はここで初めて自分のしでかしてしまった事に気づく。


 あの時はあれが最善だと思った。万里奈は一刻の猶予もなかったし、こちらにも体力というものがある。何度もいろいろな手を試すことは出来ない。何より佐奈を危険な目にはあわせたくなかった。あの痛みや感覚を佐奈に味合わせずに済んだと安堵した。だから良かったのだと。それが、いかに周りを傷つける、短絡的思考とも気づかずに。命があればいいというわけではないのだ。


「ごめん……」


 怜央はただ頭を下げた。それ以外怜央にできることはないと思ったのだ。


「お願いだから、もうあんな無茶しないで……」


 佐奈は涙をぬぐい、弱弱しい声で言った。


「わかった。もうしない」


 というよりはもうこんな危険なことは起こらないだろうし、やりたくもないと怜央は思ったが、口には出さなかった。


 ふと横を見れば丈はまだ縁寿の前に座っていた。あれも説教されているのだろうと怜央はやっと理解した。


 それから十数分間、怜央は佐奈の小言を聞くことになる。今まで思っていた不満をぶつけるように延々と。俺って思ったより自分勝手に動いていたんだなぁと、ぼうっと考えていた。


 その説教は万里奈が目覚めることでやっと終わった。


「調子はどう?」


「大丈夫です。私は一体どうしたのですか?」


 縁寿がかいつまんで今までの経緯を説明する。万里奈が魔法を使えることも『ログイン』プログラムと戦ったことも包み隠さず。


「皆様が私のためにそんな危険を…… 申し訳ありません」


 万里奈は寝たままでも謝っているとわかるほど頭を動かした。


「そんな他人行儀なこというなよ。俺たちは『ディメンジョン』の仲間だろ?」


「そうだ。仲間が苦しんでるのにほっとけるわけないだろ?」


 二人の言葉に佐奈はしきりに頷き、縁寿は微笑んだ。


「皆様……」


 万里奈はその言葉で感極まったのか、瞳が潤んでいく。そして布団を頭までかぶり、隠れてしまった。


 その反応を見て、皆は笑う。和やかな空気がその場を満たしていく。


 『ログイン』世界も平和になり、万里奈の命も救われた。まさしくハッピーエンド。この上なく理想的に『ログイン』世界での物語は終わりを迎えた。


 もちろん、これからも怜央たちの『ログイン』世界での生活は続いていく。そしていろいろな事件が起きることだろう。しかし怜央たちはその度に力を合わせ解決していくに違いない。『ディメンジョン』の全員で力を合わせて。

次回『エピローグ』です

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