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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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ただ一人の存在を守るために 後編

 呆然とする四人を尻目に現れたもう一人の何かが一瞬にして『ワールド』を元に戻してしまった。


「修復完了」


 修復を終えると『ワールド』と『ワールド』にそっくりな何かは二人で並んで立つ。その二人はみれば見るほど違いはなく、むしろ同じものの様な気さえしてくる。


「さて、これからが本番だよ」


 しのぶはこれを待っていたようにナイフを取り出す。


「しのぶ、あれはなんなんだ!」


「元々『ワールド』はニ対で一つのプログラム。片方を攻撃してももう片方が修正する。そういう風に作ったんだ」


 なんという厄介なものを作ってくれたんだと怜央はげんなりする。


「これで出揃った。二つを倒せば、それで本当に終わり」


 要するに今までの闘いはもう一人の『ワールド』を誘い出すためだったのかと納得する。


 しかし、一度勝利を確信していただけに、もう一度戦いの気持ちに切り替えるのが大変だった。しかし、怜央は負けるという選択肢はなかった。これに負ければ危険にさらされるのは自分の命ではない。万里奈の命なのだ。諦めることなど出来るはずがない。


「『わーるど』ヲ損壊。危険度ヲ最大マデ引キ上ゲ、全力ニヨル排除ヲ行イマス」


 二人で一つの『ワールド』は示し合わせたように一人が突っ込んでくる。


「怜央! 佐奈! 縁寿!」


 しのぶの指示にすぐに反応を見せる三人。『ワールド』を迎撃する為に迎え撃つ。


「さっきの手は使えないんだよ!」


「分かってる!」


 縁寿の言葉に怜央は怒鳴るように答える。すると縁寿がすぐに行動に出た。


「“ライト!”」


 縁寿は用意していた魔法を発動させる。それはとても単純な魔法で、ただ縁寿の前方から強い光を発するだけの魔法。しかし、それを前方だけに向ければ、それは大きな効果を生む。


「視覚情報ニえらーガアリマス。姿ヲ認識デキマセン」


 目くらまし。それは地味ではあるが、有効な戦術だ。通常なら閃光弾などを使い、その場の光がなくなるまで待つのが戦略だが、縁寿の閃光は前方にしか光っていない。


 光には直進する性質がある。光は何か物質があるか、密度が変化するまで直進しかしないのだ。そして、人の目は光を受けることで物質を認識できるし、光っていると認識できる。つまり、怜央と佐奈には何が起こっているかは分かっていない。ただ相手がひるんだ事だけが結果として見えていた。


 怜央は縁寿がどんな魔法を使ったのかは考えない。気にする必要もない。ただ目の前で起きたことだけを考え、攻め込む。


「佐奈は奥を!」


「了解!」


 怜央はすぐに指示を出し、自分は手前の『ワールド』へ攻撃を仕掛ける。横に薙ぐ斬撃だ。相手は目を押さえ、視界が意味をなしていない。完全に決まる一撃だった。


 しかし、あり得ない事が起きた。目の前の『ワールド』が斬撃を回避したのだ。


「な……!」


 あまりの驚きに怜央は追撃を考えられなかった。奥を見れば佐奈も攻撃を回避されているところだった。


「ちぇ…… やっぱり回避されちゃったかぁ」


 縁寿はそう言いながら怜央の隣を抜け、チェーンソーを振り抜く。だがそれさえも『ワールド』に回避される。


 しかしそのおかげで距離が開き、体勢を立て直すだけの時間が出来る。


「視界回復ノタメ待機シマス。緊急事態ノタメ、警戒ハ継続シマス」


「フラッシュ作戦は失敗かな?」


「もしかして、目つぶしをしたのか?」


 縁寿の一人事の様な一言に怜央が反応する。


「そうなんだよ。でも残念ながら効果なかったみたいなんだよ?」


 縁寿は『ワールド』に視界を固定したまま、少し残念そうに言った。


「当然。見た目は人に見えるようになっているけど、人じゃないからね。他にも感知する方法はいくらでもあるよ」


 しのぶはこんな時でもフォーアームをいじっている。恐らく何か効果のある魔法を作っているか考えているのだろうと怜央は考えた。


「つまり、騙し打ちも不意打ちも無駄ってことか」


「そうなるね。だとしたら倒す方法はただ一つ――――」


「回避不能の状況に持っていくことか」


 怜央、しのぶ、丈は互いの意見を一致させ、頷く。


「そこで、一つ考えた事があるんだ」


「僕も一つ、あいつらを倒す作戦がある」


 丈と怜央、それぞれが今ある時間を活用し、作戦を伝えあう。奇しくもその作戦はほぼ同じものだった。


「それは確かに有効だろうね。相手は最短、最適な行動を実行する。だったらこっちは合理的じゃない作戦で行くのは悪くない」


「そんな! 滅茶苦茶だよ!」


「それは作戦とは呼ばないんだよ!」


 その内容を聞いたしのぶはその有効性を認めるが、佐奈と縁寿が猛抗議する。それほど二人の作戦は受け入れがたいものだった。


「でも、それ以外あいつら二人を倒す方法がない」


「他にもないわけじゃないんだよ! やれることもいくつか……」


「それでも、確実じゃないだろ?」


「そうだ。あの二人は互いの情報を共有しているみたいだし、同時に倒すにはこれしかない」


「でも、そんな……」


 その作戦を止めようにも代案はあっても全て決定打に欠けていた。確実に倒すには今考えている怜央と丈の作戦だけだった。


「視界ヲ百ぱーせんとマデ回復シマシタ。行動ヲ再開シマス」


 しかしそんなに悠長に話している時間があるはずもなく、すぐに『ワールド』が動き出した。


「問答する時間はない。行くぞ!」


 怜央の強制的な会話の終了を告げる言葉に、佐奈も縁寿も言葉を続ける事が出来ず、渋々といった様子で作戦に従う様に行動を開始した。


「……行くよ!」


「……うん。ゴーゴーだよ!」


 まずは佐奈と縁寿が何かを割り切り、『ワールド』にそれぞれが攻撃を仕掛けるべく疾駆する。その後ろにそれぞれ怜央、丈が続く。


「各個対処シマス」


 完全な合理的な答えを出し、その場で最善の対処をするために行動する。それが相手の強みであり、弱みでもあった。その弱みに付け込むため、怜央と丈はこの作戦を立てたのだ。


 佐奈と縁寿がそれぞれの『ワールド』に斬りかかる。


 しかしそれは見え見えの行動。『ワールド』は軽々と剣で受け止めた。ただ、縁寿の相手は先程弾かれた事を警戒しているのか、受けたままいつでも逃げられるように体勢を整えていた。


「今!」


 怜央の言葉に従い、丈と怜央はそれぞれの『ワールド』に攻撃を仕掛ける。


 怜央は佐奈より大きい事を利用し、上方からの一撃を狙い、丈は躊躇いもなく縁寿の後ろから銃を乱射して近づいていく。明らかに一歩間違えれば自分に攻撃が当たりそうな状況にもかかわらず、佐奈も縁寿も『ワールド』に肉迫していく。


 そして丈が『ワールド』に近づいた瞬間、佐奈と縁寿が動いた。体を低くし、佐奈は怜央と、縁寿は丈と位置を入れ替えたのだ。


「人数ガ増加。対応法ヲ変更シマス」


 『ワールド』の警戒態勢も気にせず、怜央は佐奈と同じように斬りかかり、丈はなんと銃を撃つこともなく、銃で相手の剣を受けとめ始めた。


「理解不能ナ行動デス。何カノ作戦ト推察サレマス」


 その言葉すら気にせず、怜央も丈も相手から離れないように攻撃を仕掛け続ける。その間に佐奈、縁寿は『ワールド』から離れ、しのぶの近くまで移動していた。


「準備できたよ!」


 そのしのぶの一言に怜央と丈が同時に動く。相手の攻撃を受けた瞬間、武器を捨て、相手の背後に回ったのだ。そして相手を羽交い絞めにする。


「理解不能。迎撃シマス」


 普通の人の感性ならば、身動きが出来ずに恐怖するところだろう。しかし、『ワールド』にそんな感性はなく、ましてや危機的状況ですらないと判断していた。


「排除シマス」


 話すのは一人、しかし、行動を起こすのは二人同時だった。


 『ワールド』がそれぞれの後ろにナイフを作り出し、今まさに射出しようとする、その瞬間を狙ったように怜央が口を開く。


「悪いな『ワールド』。こうやって拘束した地点で俺たちの勝ちなんだ」


「理解出来マセン。攻撃ヲ続行シマス」


「人の話は最後まで聞くべきだ。まぁ、聞いても意味ないんだけどな」


 その瞬間、ナイフが飛来し怜央と丈の背中に突き刺さる。痛みとは形容できない熱さにも似た何かが体を通過していくのを感じる。それでも怜央も丈も『ワールド』を放さず、むしろ強く拘束した。


「逃がす……か」


「放すわけ……ないだろ……」


 怜央も丈もナイフが刺さったまま、言葉をつむぐ。


「理解不能。理解不能」


「理解できるわけないよ。『ワールド』、君は勘違いしている」


 怜央は意識が遠のく中、しのぶが『ワールド』との言葉を聞いた。


「私ハ違エマセン」


「間違えているんだよ。僕達は君に勝てばいいんだ」


 しのぶはおそらくあの攻撃を準備しているはずだと怜央はぼんやりと考えた。


「つまり、誰が死んでもいいんだよ。最終的に君を倒せさえすれば」


「ますたー、何ヲ?」


「しのぶ……! 早く……!」


「やれ! しのぶ……!」


 最後の力を振り絞り、怜央も丈も叫ぶ。


 そう、作戦などとは名ばかりの捨て身こそが怜央と丈が考えた作戦だった。要は『ワールド』を倒せさえすればよかったのだ。自分たちは死んでもやり直すことが出来る。そう判断したのだ。


 だから怜央と丈は『ワールド』の動きを阻害するだけでいい。後はしのぶが無数のナイフで貫くはずだから。


「じゃあ『ワールド』、今までありがとう」


 その瞬間、怜央は一瞬にして意識を刈り取られた。

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