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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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ログイン世界が牙をむく

 あれから数日が過ぎ、事後処理も終わり、ゆったりとした時間がギルド内に流れていた。拠点は全て燃えてしまったため、今は城の一室を借りていた。これはリードの提案で、拠点が建て直されるまで使ってくれていいとのことだった。どうも今回のゴッド捕獲したことによる感謝の気持らしい。他の騎士たちにも廊下ですれ違うと声をかけられたり敬礼されたりするほどだった。


 ゴッドを倒したことによる実感はあまりないが、大それたことをやったのだという事は嫌でも実感した。


「そう言えば、最近依頼をこなしていないけど大丈夫か?」


 怜央はふと気になった事を万里奈に聞く。


「は……はい。しばらくは蓄えがあるので何とか。最近は食料も用意していただいて、使うこともないので」


 そう。この城にいると料理やお菓子などの市民からの差し入れが後を絶たないのだ。それほど感謝されているということなのだろう。助けられなかった命が沢山あったというのに。それが怜央には申し訳がなかった。


「それなら、拠点ができるまではゆっくりしてもいいよな」


 なんか最近万里奈の反応がおかしいなと思いながら、怜央はその事には触れずに言った。


「そうだね。拠点も早急に立て直してもらえるようだし、後数日で出来るだろうね」


 相変わらずフォーアームいじりながら、しのぶが答えた。


「そう言えば今更だけど、怜央たちはどうやってゴッドを倒したんだ?」


「そうだよ。魔法も使えないのに、良くゴッドに対処できたんだよ」


「確かに今思えば奇跡だね。僕も後でついていくべきだったと思ったよ」


 今まで事後処理に追われ過ぎて、城下町で戦っていた丈や縁寿、しのぶにはうまく情報が伝わっていなかったらしく、怜央たちがどうにかしたことになっていた。


「あぁ、違うんだ。俺が着いた時には既に真っ黒焦げでな。何もしてないんだ」


 改めて否定をすると、怜央は申し訳ない気分になった。


 なにしろ怜央と佐奈は何もしていないのだ。街に残って『新種』と戦っていた三人とは違い、本当に何も。それが怜央をいたたまれなくした。


「じゃあ、誰が?」


 丈の当たり前の疑問に怜央と佐奈は同時に万里奈を見た。その視線を受けた万里奈は困ったようにはにかんだ。


「万里奈が?」


「どうやったのかはわからないけど、それしか考えられないからな」


 怜央が到着したときには既に燃えていたのだ。詳しいことは何もわかっていないという事に怜央は今更ながらに気づいた。


「万里奈、本当に君が?」


 しのぶはいつになく真剣に聞いた。


「はい…… 確かに私が、ゴッド様を黒焦げにしました」


 万里奈はその告白が恥ずかしかったのか、いつになく顔を真っ赤にしながら答えた。いや、さっきから赤かったかもしれない。


「黒こげって…… 火炎瓶でも投げつけたのか?」


 丈の質問は過激だったが、黒焦げになっているのは事実なので、それくらいはやったのだろうと怜央も思っていた。


「い……いえ、そうではなく……」


 万里奈は目線を下にそらし、固まってしまった。それはどういえばいいのかを迷っているようでもあり、質問に戸惑っているようでもあった。


「一体何をしたんだ?」


 いつまでも答えない万里奈に改めてしのぶは聞いた。


「私……は……」


 万里奈は答えようとして、やはり困った様に微笑んだ。さっきから心なしかふらふらしているように見える。


 大丈夫かと怜央が声をかけようと立ち上がった、まさにその時だった。


 万里奈の身体がゆっくりと傾き、立て直せないところまで言った時に初めて怜央は動いた。立ち上がろうとしていた事が幸いし、怜央は本当に滑り込みで受け止める事が出来た。受け止めるというよりは、ただクッションになったといった方が正しいのかもしれないが。


「万里奈ちゃん!」


 遅れて佐奈が反応する。そこに怜央の心配は全く含まれていない。丈、縁寿、しのぶは怜央が動いたのを確認していたのか、焦ることなく近づいてきた。


「万里奈ちゃん、大丈夫なのかな?」


 縁寿はいつも通りのゆっくりとした言葉だったが、動きは適格で腕や額に触れ、状態を調べていく。


「万里奈ちゃんどうしちゃったの?」


 佐奈は何もできずにおろおろするばかりだ。ただ万里奈の周りにいることしかできない。


「いや、とりあえず俺を助けてくれ」


 万里奈は倒れたままであり、怜央はその下敷きになったままだった。無理矢理脱出してもいいのだが、そうなると万里奈を傷つけかねないし、触ってはいけないところを触ってしまいそうだったのだ。


「そうだね。万里奈も苦しそうだし、佐奈、縁寿、頼める?」


 しのぶの意図を察し、縁寿と佐奈はすぐに手と足を持つ。しかし二人で運べるわけもなく、剣の鞘を棒代わりに、即席の担架を作り、ベッドまで運んだ。


「一体何があったんだ?」


 万里奈は苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。高熱があるだけでこれといった異常は見られないのだが、素人目なので良くわからない。ただわかっているのは未だに万里奈の意識が戻らない事だけだった。


「さすがの僕も医者じゃないからね。何も分からないよ。縁寿はどう?」


 これで縁寿もわからなかったらお手上げだ。そう思いながら怜央は縁寿の言葉を待つ。


「本当はしのぶ君もなんとなく分かってるんじゃないかな?」


 しかし、縁樹の言葉はどの予想も裏切るものだった。


「そうなのか?」


 丈も意味がわからなかったのか、ただ口を付いて出たかのように疑問を口にした。


「……ちょっと待って」


 丈の言葉にしのぶは考え込んだ。本当に確信がないのだろう。しのぶにしては長く、フォーアームを黙っていじっている。どうも答える気がなくていじって無視しているわけではないようだ。


「……うん、分かった」


 しのぶはフォーアームをシャットダウンし、睨むように万里奈を見た。


「何がわかったんだ?」


 怜央は代表して聞く。しのぶはじっくり時間をとると、それに答えた。


「万里奈は魔法を使ったんだ」


 そのしのぶの結論を怜央は思わず即否定するところだった。


 そもそも魔法とは、この世界がプログラムの世界であり、それをフォーアームを経由し書き換えたり侵入したりすることで成立するものだ。それをこの世界の住人である万里奈がフォーアームを経由せずに行うことは不可能のはずだった。そもそもフォーアームがあったとしても、プログラムがなんたるかも知らない万里奈に使うことなど到底無理な話だった。


 みんな同じような事を思っているのか、どう反応すればいいのか困ったような顔をしていた。ただ縁寿だけが頻りに頷いている。


 しのぶもみんなの反応は予想通りだったのか、説明を続けた。


「そもそも、万里奈にはその兆候があった。万里奈の前で二度魔法を使ったけど、そのときの反応がおかしかった。あれはきっと感覚的にエネルギーの通るラインのようなものを感じ取っていたんだと思う。きっと、王家の言い伝えも脚色でもなんでもなかった」


「うんうん。しのぶ君も確認したと思うけど、過去ログに万里奈ちゃんが魔法を使った形跡あったよね?」


「確かにエネルギーがこの世界に流入し、『ログイン』プログラムが消去したログがあった」


 信じがたいが、それ以外に結論はなかった。そんなことがありえるのかと、怜央は万里奈を見た。


 万里奈が使ったのは現実で言えば超能力のようなもののはずだ。


 この科学のあまり発達していないログイン世界においても眉唾物とされている魔法を使えた万里奈はこの世界にとってどんな存在になるのだろうか。


「でも、魔法を使ったからって何で万里奈が倒れる話になるんだ?」


 そう質問をして怜央は思い出した。王家の魔法を使ったとされる者は短命だったと。


「それは『ログイン』プログラムのせいだ」


 しのぶは簡潔に結論から述べた。そして、詳しく説明する。


「詳しくは言わなかったけど、この世界は一回で出来たわけじゃないんだ。お姉ちゃんのプログラムは完璧だったのに、何故か世界は安定しなかった。何度もリトライし、結局出来なかったから、僕が適当にある法則を抜いたんだ。そうしたらこの世界が出来上がった」


 今の話の流れや過去の話を思い出し、怜央はしのぶが抜いた法則が何なのかわかった。


「もしかして、エネルギー保存の法則か?」


「その通り。『ログイン』プログラムは確かにエネルギーを管理するために作られたプログラムだけど、それは法則を抜いたから保険として付けたに過ぎない。それが今、万里奈を苦しめている」


「つまり、神の怒りを買った人間って感じかな」


 縁寿の結論は今の状態を的確に表していた。


 『ログイン』プログラムはいわばこの世界を監視する神だ。万里奈はその神の領域に近づいたがために天罰を受けた。そんな神話のような状況に良く似ているのだ。


「しのぶ、万里奈を救う方法は?」


 怜央には見捨てるという選択肢などはじめからなかった。大人しく話を聞いたのは対処法を的確に知るため。話が終わった今、余計な話をする気など怜央にはなかった。


「『ログイン』プログラムを止めるしかないだろうね」


「どうやったら止まる?」


 丈は既に武器を抜いていた。物理的に倒せる相手かもわからないにもかかわらず。丈もいても立ってもいられないのだろうと怜央は思った。


「普通は無理。この世界の管理者だからね。でも、僕たちなら『ログイン』プログラムの世界に乱入できる」


「それじゃあ早速……」


「話は最後まで聞きなよ。確かに『ログイン』プログラムの世界には乱入できるし、攻撃は今まで通りで大丈夫なように僕が変換する。だけど問題が一つ。負ければこの世界に二度とログインできない」


 その一言に怜央は一つの心配が生まれた。しかし心配しただけであり、万里奈を救うことを迷ったわけではない。怜央が心配のは、失敗したときに万里奈を救うものが誰もいなくなるという事だった。


「でも、行かなきゃ万里奈ちゃんは死んじゃうんでしょ?」


「多分ね」


 その答えで怜央の心は決まった。負けることなど気にしてはいけない。この戦いは勝つしかないのだ。


「しのぶ君は相変わらず準備がいいんだよ。そんなプログラムも用意してたんだ?」


 こんなときだからだろうか、縁寿の言葉はどこか剣呑さが感じられた。


「……少しの可能性でもあれば準備するよ。万里奈に直接魔法を使わせなかったのだってこの状態を懸念したからだし」


 縁寿が何かを確認するために今の一言を言ったような気がするのだが、怜央にはそんなことよりも万里奈の方が気がかりだった。


「万里奈を救える可能性があるってわかってるならそれでいいじゃないか。時間がどれだけ残ってるのかもわからないんだろ? だったらさっさと行こう」


「そうだ。俺たちはここで話し合ってる時間はそんなにないはずだ」


「そうだよ。万里奈ちゃん苦しそうだし」


「……確かにそれは言えてるんだよ」


「……万里奈がいつまで持つかわからないからね。早速行動しよう」


 縁寿としのぶは話し合いをしている暇はないと思い出したのか、すぐに思考を切り替えた。


 その場は満場一致で万里奈を助けるために動き出す。『ディメンジョン』の仲間であり、唯一のログイン世界の住人である万里奈を救うために、五人はログイン世界最大にして最後の戦いに挑む。

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