それはゲームでは定番の出来事
それは予想外のところからの一報だった。
「ゴッドの仲間の目撃情報?」
それは聞いたこともない街からの一報だった。どうもリードが手配してくれた似顔絵を見ての情報らしい。
「怪しいところだけど、確認しに行くべきだろうね」
しのぶは既に支度を開始している。今度は前に使った加速魔法を何度も使えるようにナイフを十本用意していた。それもなぜか相変わらず食用のナイフだ。
「罠のような気がするんだけど……」
丈が明らかに嫌な顔をする。その気持ちは怜央も良くわかった。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、だよ?」
縁寿も既に向かうことに決めているのか、チェーンソーの動作確認をしている。確かにここにきて何もしないという選択肢は取れるわけがなかった。
「空振り上等で突っ込むしかないのか」
「だね」
その場の誰に意見を聞くこともなく、全員で目撃情報のあった街に向かう。
「で、来たわけだけど……」
怜央は到着して少しげんなりしていた。目撃情報があったのはいつも来ている城の城下町だったのだ。
「ここの名前、そういえば知らなかったもんね。座標を入れるときあれっとは思ったけど」
佐奈も困ったように乾いた笑いを浮かべる。
「まぁ、とりあえず、リードに話を聞きに行こうか」
しのぶの先導により、五人はお城に向かう。するとまるで待っていたかのようにすぐにいつもの作戦会議室に通された。
「お待ちしていました」
リードはそこで待っていた。今回は創もその場にいた。
「リードさん、どうしてこんな回りくどい方法を?」
怜央は勝手知ったるとばかりに近くにあった椅子に座った。残りの四人も思い思いに椅子に座る。
「いや、回りくどくするつもりはなかったんだけど、本当に不確定な目撃情報でね。ゴッドも目撃されていないから、私の名前を出して先入観を与えたくなかったんだ」
確かにリードの名前があった場合、問答無用で信じそうだと怜央は思った。
「それでも情報をこっちに与えた上、更に待ち構えていたんだから、ある程度の確信はあるんでしょ?」
しのぶは呆れたようにリードに問いかけた。
「まぁ、ある程度は。しかし、どうしてこの街を選んだのかがわからない」
確かにリードの疑問はもっともだった。
『新種』を創るには食料が必要。その食料は人間。その条件は確定ではないがほぼ間違いない事実だった。しかし、この街は城下町というだけはあり、防壁に囲まれ、外から攻め込みにくくなっていた。
「この街の人がいなくなれば否も応もなく軍は動きます。そうなれば全面戦争。それをゴッドは望んでいるのでしょうか?」
全面戦争。
それは、各国を統治する三つの国とギルドの総力を挙げての戦争。たった三人では全く相手になるはずがなかった。
「リードさん、さすがにそれはないでしょう。確かに『新種』は強力でも倒せないわけじゃない。ましてや世界の王になりたいわけじゃ……な……し」
創はそこまで言って笑顔のまま固まった。自分の言った言葉の重要性に言いながら気づいたのだ。
リードはなぜ創が固まったのかわからなかったのか、怪訝そうな視線で創を見ている。
リードがこの考えに至れないのは仕方がないことかもしれない。彼はこの世界の住人であり、戦いについても良くわかっている。その常識が彼をこの結論に至らせないのだろう。
怜央たちがこの答えにたどり着けなかったのは、このゲームが依頼をこなしていくゲームだと思っていたからだった。ゲームはシナリオ通りの行動しかとれない。それが一般的なゲームの常識だったからだ。
しかし、このゲームは全てが自由。ギルドに入って依頼をこなそうが、国に仕えて騎士になろうが自由。
そう、ゴッドは名前で既に自分の目的をあらわしていたのだ。その名前は伊達や酔狂ではなく、本当の目的を誓ってつけた名前だったのだ。
既にヒントならあったのだ。
何故『新種』はある程度発見できていたのか。
何故『新種』などという危ないものを創ろうとしていたのか。
何故『新種』は操れなければならなかったのか。
その疑問の答えを考えるべきだったのだ。
それは『新種』がどの程度この世界で有効なのか調べなければならないから。
それは戦力がどうしても欲しかったから。
それは自分の目的のために使えるものでなくてはならなかったから。
そう、ゴッドの望みは単純明快。それこそゲームの世界では悪人と呼ばれるものが目指すありふれた目標。
それは、世界を手に入れること。
「これは、ヤバイかもだよ?」
縁寿の言葉を証明する様に作戦会議室の扉が何の前触れもなく勢いよく開かれる。そして無礼をとがめる暇もなく、その兵士は告げた。
「申し上げます! 『新種』が攻めてきました」
怜央はそのとき、目撃情報が罠なのだと知った。今まで見つからなかった人が目撃された理由。それは、まとめて始末するためだったのだと。
「全軍に召集命令! 城壁の門を閉じろ!」
リードは間髪いれずに命令を飛ばす。その命令を実行するために兵士はすぐに部屋から出て行った。そして続くようにして創も部屋から飛び出していく。
その光景を見て、創もしっかりやってるんだなぁと怜央は関係のない感慨にふけっていた。
「確認しよう」
リードはすぐに立ち上がり、部屋を出て行く。少し呆然としていた五人だったが、攻めて来た『新種』を確認しに行ったのだと気づき、後に続いた。
「これはひどいね……」
リードは攻めてきている『新種』を見て思わずといった様子で呟いた。
数としてはたいしたことはない。数えることが出来る程度。しかし、相変わらず大きさがおかしかった。特に今回のものは更におかしい。城から見ているのにもかかわらず、普通の大きさだったなら手が届きそうなほど近くに見えてしまうほどの大きさがあるのだ。つまりはそれほどの縮尺。今までの比ではなかった。
数にしてちょうど十匹。見たことのあるそれは大ムカデだった。
「リード、城壁の周りに油をまいて火をつけて」
しのぶはその光景を見てそう進言した。
「……なるほど、有効そうだ。すぐに指示しよう」
リードは少し考えすぐに答えを出した。
怜央はなるほどとは思う。大ムカデは未だ城壁まで到達していない。それまでに火をつければ近づけないと考えたのだ。
「時間稼ぎにしかならないけどね」
相手は魔法を使うことが出来る。火など簡単に消すことが出来るだろう。しかしそれでも多少の時間稼ぎが出来るのは確かだった。
「リードさん、俺たちに出来ることはありますか?」
近くを通った騎士に指示を出すリードに怜央は思わず問いかけた。自分たちとは関係なく動いていく事態に何か手伝えることはないのかと思ったのだ。
「今は待機してください」
しかし、リードの答えは簡単なものだった。何もせずに待っていて欲しい。怜央にはそう聞こえた。文字通りの戦力外通告に。
「つまり、ゴッドかその一味が見つかるまで待機なのかな?」
しかし、そう解釈しない者がいた。縁寿だ。そしてその解釈こそが正しかった。
「そういう事です。あなた方はいわば最終戦力。人数がいない分、ここぞというときに使わなくては」
確かに今からあの大ムカデ十匹を退治に行ってもせいぜい二・三匹をしとめる程度だろう。そうなるよりは操っているはずの創造主が見つかってから投入したほうが確かに効果的だった。
「皆さんとしては今すぐ出たいとは思いますが、しばらく我慢をしてください」
それからが地獄だった。
怜央たちはひたすら待機し続けた。城壁の炎など三分と持たず、すぐに消火され、大ムカデたちは城壁を越えた。それからは絵に描いたような地獄絵図。予想以上に早く進入してきた大ムカデに市民の避難が間に合わず、パニック状態に陥った。そんな中を大ムカデは各々思い通りに食い散らかした。まるでいい餌場を見つけたといわんばかりに、全てを食べず、胴体のみを食い荒らしていく。
騎士も負けてはいない。必死に大ムカデに火矢で応戦し、足を切り落とそうとする。しかし、大ムカデは自らが動くことによる風によりそんな炎など消火してしまった。
怜央や丈は何度も城を飛び出そうとした。それをしのぶや縁寿は許さなかった。
怜央はしのぶの魔法での援護を進言した。しかし、他の人を巻き込む可能性を考えると使えないと却下されてしまった。
何時間にも感じる時間。その時間こそがまさしくこの場を地獄に変えた。
「くそ! まだなのか!」
怜央は何度目にかわからない言葉を吐く。そして思いっきり机を叩いた。そのたびに佐奈がびくっとなっているのだが、怜央は気にかけることが出来る精神状態ではなかった。
「怜央、無駄な力を使うのはやめたら?」
しのぶは常時と変わらずフォーアームをいじっていた。それが更に怜央のイライラを加速させていく。
「人が死んでるんだ! 何故平然としてられるんだ!」
この問いかけも何度目か。しのぶは言い飽きたとばかりにため息をついた。
「焦っても何も変わらない。僕たちはいざというときに万全の力で対処する責任がある」
毎回答える内容は変わっているが、要は備えておけという内容だった。
そんなことは怜央も頭の中ではわかっている。しかし、どうしても心を落ち着けることは出来なかった。丈も同じ心境なのか、しきりに銃をいじっている。
その地獄のような時間は、騎士の報告によって打ち砕かれる。
「怜央、見つけたぞ! 例の二人だ! 場所は城門前。確認してくれ」
報告に来たのは創だった。おそらくは戦闘では役立てないので監視役にされていたのだろう。しかし創だからこそ、何の情報が怜央たちに必要なのかが瞬時に理解できた。
怜央はすぐに窓辺に寄る。しかし、人影は全く確認できない。わかるのは街の惨状だけだ。
「どこだ!?」
「ここからは確認できないが、しまっている城壁の門を開けてすぐのところだ。今すぐ向かえ」
それからの行動は早かった。怜央は誰にも確認することなくその部屋から飛び出し、城門に向かう。ついてきているかどうかも確認せずに外へ飛び出した。




