謎の生物の創造主の正体
怜央は今日は『ログイン』に参加することなく、ファミレスで時間を潰していた。あの日以来、考え込むことが増えたのは確かだが、別にふてくされて今日ログインしていないわけではない。この間のゴッドについての調査結果を聞くためにしのぶを待っているのだ。
ログイン世界で会えばいいのかもしれないが、この後の予定を考えると現実世界にしたいと怜央から申し出たのだ。
ファミレスでコーヒーを飲むこと五杯目。しのぶはやっと現れた。
しかし、しのぶは一人ではなかった。丈も共に現れていた。
「お待たせ。少し予定が狂ってね」
しのぶはそう言いながら怜央の対面に座る。丈は少しどちら側に座るのかを迷っていたが、結局怜央の隣におさまった。
「こう言っちゃなんだけど、なんで丈がいるんだ?」
二人が注文を終え、早速怜央は最初に気になっていた事を聞いた。
「今回の事は少し込み入った話になるからね。佐奈や縁寿にも声をかけたんだけど、時間が合わないみたいで断られたんだ」
しのぶは相変わらずゲームをしながら話しているが、怜央も丈も既に話題すら上らないほど慣れていた。
いつの間に佐奈や縁寿の連絡先を聞いたんだと疑問に思ったが、それは置いておき別の事を聞く。
「それで、何がわかったんだ?」
「えっと、ゴッドについてなんだけど……」
そこでしのぶは言葉を切る。決してゲームに集中しているわけではなく、どう話そうかと迷っているようだ。
「まず結論から。ゴッドは存在しなかったよ」
「は?」
怜央は予想外の言葉を聞いたため、一言でしか聞き返せなかった。
ゴッドは確かに三人の前に現れていたし、フォーアームも付けていた。それなのにその人物は存在しないとしのぶは言う。それはあり得ないことなのだ。
「言葉が悪かったかな。正確にはこの世には……だね」
「もしかして、死んでたのか?」
丈は思わずといった様子で確認する。何か思うところがある様だ。
「その通り」
「どう言うことだ?」
一人何も分からない怜央はどうしても聞かずにはいられなかった。
その質問には訳知り顔の丈が答える。
「ニュースでやってたんだ。最近餓死者が見つかったって。詳しい事情も全く流されずに終わったから、不自然で覚えてたんだけど、関係あるんじゃないか?」
「正解。このゲームは色々な研究機関が絡んでるから圧力がかかったんだろうね」
そう言ってしのぶはある紙を机の上に置いた。それはこの間見た男の顔写真だった。
「この男の名前は遠山 幸四郎。先日自宅で変死していたところを近所の人に発見される。発見当初、既に腐敗が進んでおり、死後二ヶ月が経過していると考えられ、事件、事故の両面から調査が始まった」
しのぶはまるで報告書を読みあげる様に二人に伝える。
「検死の結果、幸四郎の死因は餓死。死んでいた場所が『ログイン』する時のカプセルの中だったからログアウト出来ずに死亡したのではないかという説も上がったが、調査の結果機器に問題はなく、事故として処理された」
「それが事態のあらましか?」
説明が終わったと判断し、怜央が確認する。
「そうだよ。機器の事故ではなかったから、『ログイン』は今も継続されているってわけ」
「でも、その幸四郎だっけ? ログイン世界にいたゴッドと本当に同一人物なのか?」
ただの他人の空似と丈としては言いたいらしい。しかし、そう言い張るには目の前の写真に写る人物は記憶に残る人物と似すぎていた。
「一応その可能性も考えて、あの時出会った三人のフォーアームの登録番号を検索してみた」
そんなことも出来るのかと思ったが、管理しているのだから当たり前かとすぐに納得した。
「確かにそのうちの一つは幸四郎という人物のものだったよ。ついでにこれがその検索でヒットした残り二人の写真ね」
二人とも初めて見る顔だったが、今はそれどころではない。
幸太郎という人物がつけていたフォーアームをたまたま顔がそっくりのゴッドという人間がつける可能性はあるのか。
答えはノーだ。そんなことはありえない。つまり、ゴッドと幸太郎という人物は同一人物だ。
しかしそうなると、幸太郎は死亡したのにゴッドは生きているという事になる。そちらもやはり無理だ。コントローラーなしではゲームが出来ないように、本人なしでログイン世界に自分を作り出すことは出来ない。
しかし怜央には何かが引っかかっていた。ただ何か重要なことを忘れているような気がしたのだ。
「これが重大な知らせってこと?」
それが何かはわからない。ただ、そんなに難しいことではない。感覚的にはのど元まで出掛かっているのだ。
「そういう事。残り二人の顔がわかったのは収穫だけど、謎が増えたね」
怜央は思い出す。このゲームのルールを。
「結局わからないことが増えたって感じか。どうしようもないな」
そして更に思い出す。しのぶの言っていた魔法というものを。
「これで本当にゴッドの件はリードに任せるしかなくなった。僕たちはしばらく『新種』を狩ることになるだろうけどよろしく」
「あ……」
そして気づいた。死してなおログイン世界に存在するゴッドのからくりが。
それは暴論に近いのかもしれない。しかし、それは実行できるような気がした。
「どうかした?」
しのぶが不思議そうな声で問いかけてきた。
「一つ不思議なことがあるんだ。何でゴッドはあの場から逃げるとき、フォーアームでログアウトしなかったんだ?」
「確かに他の二人はしていたから、ゴッドだけしない理由はないね。本人は死んでいることは置いておいて。それで理由は?」
しのぶは論点がわからずわかっていることだけを答える。質問の答えにはなっていないが、怜央にはそれで十分だった。
「そこだ。きっとゴッドはログアウトしたくても出来なかったんだ。現実世界の肉体は既に死亡しているから」
「いや、現実世界で死亡したらゲーム内でも死ぬだろ」
丈の言葉にしのぶが頷く。製作者からすればそれが答えなのだろう。
「そこで一つ聞きたいことがあるんだ。しのぶ、俺たちの肉体はどうやってログイン世界で再現してるんだ?」
「カプセルに入ると肉体情報をスキャンするんだよ。そうすれば中身まで寸分違わないコピーが作れる」
しのぶは怜央の言いたいことがわかっていないはずなのにしっかりと怜央の疑問に答える。その答えを聞いて、怜央の疑問はより核心に近づいた。
「それならやっぱりそうだ。データとしてあるのなら、もう一つ自分の肉体をコピーして作り出せる。その上でその肉体にログインすれば、ログイン世界に永住できるんじゃないか?」
怜央が気づいたのは脳に刻まれている知識も記憶もデータに過ぎないという事実だった。
感情は確かに脳だけの作用ではないが、記憶や知識は脳内のデータに過ぎない。更に肉体をコピーできるというのなら、そこに脳内のデータをその肉体に入力すればよいのではないかと考えたのだ。
「……なるほど。それは確かにいけるかも。それならログアウトしなかった理由も説明できる」
しのぶはゲームをいじる手を止め、真剣に考える。
「確かに出来そうだけど、肉体を魔法で作っても、すぐに分解されるんじゃないか?」
「それは、現実世界からログイン世界にエネルギーを持っていく場合だろ? ログイン世界で全部まかなえば分解もされない」
丈の疑問に怜央は即答する。それは既に怜央の中で提示された疑問であり、解消された疑問でもあった。
丈の『リロード』も余計なエネルギーを外から持ってきているわけではないので分解されない。それがヒントになっていた。
「これが事実だとしたら朗報だね。『新種』の騒動を止めるのが楽になる」
「どうして?」
しのぶは結論が出たとばかりにもう一度ゲームに戻る。しかしその考えが全く伝わらず、怜央は疑問を口にした。
「ゴッドが『新種』を作っているのなら、ゴッドを殺せば終わるってことだからね。取り巻きともどもログイン限界まで倒さなくて良くなった」
殺す。
その一言を聞いた瞬間、怜央はゲームの世界だと考えていたものが一気に現実にすり替わる。
ゴッドは現在、ログイン世界の住人といえる状態だ。そんなゴッドを殺した場合、次など恐らくないだろう。ゲームをやっている自分たちとは違う。正真正銘唯一の生。つまり、怜央たちが行おうとしているのは人殺し以外のなにものでもない。
その結論に達した瞬間、怜央は悪寒に襲われた。今まで感じた事のない不快感の大きい悪寒。
俺は本当にゴッドを止める事が出来るのか。そんな不安だけが徐々に大きくなっていった。
その日はそのまま解散となり、怜央は次の目的地に向かう。




