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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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謎の生物との遭遇

 遺跡は本当に村から近く、五百メートルほどしか離れていなかった。


 その遺跡は村で貰った資料によると、ある国の城だったらしい。まだ使わなくなって五十年ほどのはずなのだが、草木が生え、所々石畳を持ち上げているところもあった。


 そこは既に人が住める空間ではなくなっていた。その自然の力に目の当たりにし、怜央は感慨にふけってしまった。


「怜央君、ぼうっとしてどうかしたの?」


 佐奈には怜央が呆けている様に見えたらしい。心外だと思いながらも、らしくないなとも思い、そのことについては何も言わない。


「なんでもない。でも、どうやら当たりみたいだな」


 怜央は足元を踏みしめながら言う。


「みたいだね。道も出来ているし」


 しのぶの言うとおり、今怜央たちが通っている場所はまるで道の様に切り開かれていた。


 自然にできる獣道というものもあるにはある。獣が同じ道を何度も何度も繰り返して通るために草木が生えにくくなり、道の様なものが出来る。それが獣道だが、今回の道は明らかに人為的だった。


「人は確かにいたみたいだな。近隣の人はここには近づいてないんだよな?」


「最近は『新種』がどこにいるのかもわからないからね。その前からも少なくとも村人は近づいてはいないとのことだったよ」


「それに、どう見てもこの辺危ないよ? なんか今にも天井とか落ちてきそうだし」


 確かに植物の根などによって形が変わり、崩壊しているところがあれば、今にも落ちそうなところもある。こんな危険な場所に好き好んで用もないのに来る人はそうそういないだろう。


「天井の警戒はしのぶ、頼む」


「頼まれた」


 そこで会話は途切れ、後は無言のまま進んでいく。そもそもどこから何が出てくるのかもわからない状態なのだ。警戒するにこしたことはない。


 三人は作られた道をたどって奥へと進んでいく。


 一体どれほどの時間が流れたのだろう。まるで導かれるかのように辿り着いた場所は開けた空間だった。


「ここは?」


 怜央は思わず壁に背を預け、通路の入り口で中をうかがう様な姿勢になった。


「どうやら社交界などを開く会場みたいだね」


 しのぶも怜央の影に隠れ、その開けた空間を覗いている。


 その空間は確かに社交場と呼ぶにふさわしい場所だったのだろう。所々にそれらの名残がある。しかし今は草木に浸食され、それらしい場所ではなくなっている。


 ただ広い空間。それ今この場所にふさわしい言葉だった。


「誰か……いない?」


 佐奈は反対側の壁に隠れながらもある一点を指す。そこには確かに誰かがいる様に見えた。その広い空間のためか、それとも薄暗い空間のせいか、その人物をはっきりと見ることはできない。


「いるね」


「もしかしてあれが新種を作ってる元凶か?」


 怜央は緊張を紛らわせるように剣の柄に手をかける。


「はっきりとは言えないけど。それで、どうする?」


 目の前に元凶らしき人物がいる。しかし、近づけば絶対に気付かれる。そうなった場合、戦闘になればまだいいのだが、もし逃げられた場合もう一度見つかるのかどうかわからない。この好機を逃すわけにはいかないのだ。


 考えあぐねること数秒。事態はなかなか動かないと思われた。しかし、思ったよりも早く、予想もできない方向に事態は動く。


 それは音だったのかなんだったのかはわからない。ただ怜央は初めて大ムカデに襲われた時の様な感覚に襲われていた。


「後ろ……!」


 怜央は何も考えずに剣を抜き、後ろに振り返る。しかしそこには何もいなかった。


「どうしたの?」


 佐奈は不思議そうに怜央を見る。しかし怜央はそれどころではなかった。


「しのぶ!」


 佐奈は気付いていないとすぐに察し、すぐに思考を切り替えしのぶを呼ぶ。


「上」


 しのぶも何かに気付いていたのか、すぐに答える。怜央は反射的に上を向いた。


「……!」


 そこにいた生物を見て、怜央は絶句した。


 最初に認識できたのは黒。天井を覆うほど大きく見えた黒は確かに形を持っていた。それは細い部分を八つ伸ばし、その中心に大きな塊が一つ。その生物は怜央に恐怖を与えるには十分な形状と大きさだった。


「佐奈! しのぶ! 逃げるぞ!」


 とっさに叫び、怜央は佐奈を抱えて部屋の中に飛び込む。怜央の視界には同時に飛ぶしのぶの姿が見えた。


 その瞬間、地響きが鳴り響いた。怜央はそれを気にすることもなく更に佐奈を抱えたまま転がった。距離をとれたと感じた怜央はそこで初めて動きを止めた。


「佐奈、無事か?」


「う……うん、ありがとう」


 佐奈の声の調子がおかしいなとは思いながら、佐奈の無事を声だけで確認し、怜央は視線を今入ってきた入口に向ける。小さな土埃をあげながらそれはいた。


「勘弁してほしいな……」


 そこにいたのは巨大蜘蛛だった。怜央は知らないかもしれないが、それはジョロウグモと呼ばれる種類の蜘蛛だった。黄色い線が鮮やかなその蜘蛛は奇しくも妖怪として語られた巨大な蜘蛛、女郎蜘蛛と同じ名を冠する蜘蛛だった。


「まさか侵入者とは。見張りの二人の目を良く避けてきたね」


 その後方からの声に怜央の身体はびくりと動いた。


 あまりに必死過ぎて怜央は忘れていたのだ。この部屋には初めから誰かがいたという事を。


「佐奈、俺の後方を頼む」


「う……うん」


 まだ様子のおかしい佐奈を気にかける余裕もなく、怜央は目の前の男をきつく見つめた。


「お前は誰だ」


「誰だとはおかしなことを聞くね。あの大きな蜘蛛を見て、当たりは付けているんじゃないのか?」


 確かにその男の言うとおり、この状況で他の可能性など怜央は考えていなかった。フォーアームも確認できている。ただ、話の取っ掛かりの常套句として聞いたに過ぎない。


「やっぱりお前が『新種』の創造者か!」


「その通り。だけどいいのか? 私にばかり気をとられて」


「怜央君!」


 目の前の男の忠告と、佐奈が叫ぶ声が重なる。


 怜央は目の前の男から完全に外さないように後方を確認する。すると、後方から女郎蜘蛛が突進してくるところだった。


「……っぐ!」


 またも緊急回避のため体を捻り、佐奈を抱え、その勢いのまま横に転がる。視界の端に創造主の男が回避しているのが見えた。


 あいつ、自分の作った生物に襲われるのかと思いながら転がり、距離をとった。何かにぶつかる鈍い音を聞いて怜央は起き上がった。女郎蜘蛛が壁に激突したのだ。


「佐奈、大丈夫か?」


「う……うん」


「僕の心配は?」


 いつの間にかしのぶは当たり前のように近くに立っていた。


「お前は大丈夫だと思って」


 本当に忘れていたとは口が裂けても言えない。


「そう」


 しのぶとしてはどうでも良かったのか、答えはいつものように素っ気ない。


「それより、いつまで抱き合っているの?」


 そう指摘されて初めて怜央は佐奈を抱えたままであることに気付いた。


「あ、ごめん」


「い……いえいえ、お粗末様です」


 佐奈の答えは意味がわからなかったが、異常はないと判断して女郎蜘蛛と創造主の男を視界におさめる。


「まったく。昆虫類は見境がないのはいいが、創造主に牙をむくのが珠に傷だ」


「お前もコントロールできてないのか?」


「ある程度、といったところかな。まだ完璧じゃない」


 創造主の男は隠すことではないのか当たり前の事の様に答える。


 しかし、ある程度とはどういうことだ? そもそも、昆虫類を操る方法が存在するのか?


 色々な疑問がわくが、今は脇に置き、起き上がりつつある女郎蜘蛛に意識を向けた。


「それにしても、君たちは良くここまで誰に見つかることなく侵入できたね。見張りが二人いたはずなんだが…… まぁ、入口は三つ以上あるし、不思議ではないといえばないんだけど」


 問いかけているのか一人事なのか掴みにくい口調で創造主の男は語る。ただわかった事は、創造主の仲間は後二人いるということだ。


「とりあえず君たちはこの蜘蛛の相手を。この場は逃げさせてもらうよ」


 創造主の男は女郎蜘蛛の横を通り過ぎ、奥の通路に向かう。それと入れ替わる様にして女郎蜘蛛が怜央たちにゆっくりと近づいてきた。確かにある程度コントロールできているらしく、女郎蜘蛛は創造主に見向きもしなかった。


「逃がすか!」


 ここで逃がしては本当に手掛かりを失ってしまう。そう思った怜央は剣を抜き去り、走り出そうとして、


「ストップ!」


 それより先にしのぶの制止がかかる。


 なんで止めるんだと文句を言おうと振り返ると、閃光が視界を貫いた。そして遅れて衝撃波が怜央の背中を襲う。耐えきれずに怜央は吹き飛ばされた。


 何かが崩れ落ちるような音と先程の衝撃波で怜央は何が起こっているのか分からず、全く身動きが取れない。


 その音が止む前にしのぶの声が怜央に届いた。


「さすがにやり過ぎかな」


 その声で安全だと思った怜央は立ち上がり、改めて周りを確認した。


 しのぶ、佐奈は先程と変わらない場所にいた。ただし、怜央自身は衝撃波に吹き飛ばされ、二人がかなり前方にいたが。


「今のは一体……」


 怜央は転がった時にぶつけた腕をさすりながら、しのぶと佐奈に近づいた。


「僕が出来る最強の攻撃。だけどもう使えない一撃。理論は後ほど、かな」


 その一撃が放たれた方を見れば、未だ粉塵が舞い、良く見る事が出来ない。しかし次の瞬間、風が吹き抜けた様に粉塵がはれていった。


「やってくれる…… さすがに今のは予想外だったよ」


 はれた粉塵の中から創造主の男が現れた。衝撃波に近くで巻き込まれたためか、額から血を流していた。近くに転がっている黒い塊は先程の女郎蜘蛛のものだろうか。直撃だったのかばらばらになり、今まさに空気中に溶けているところだった。


 逃げようとしていた通路が今の一撃で崩落したためか、創造主は逃走をやめたようだ。


「私が死んだらどうするつもりだったんだ?」


 確かに先程の一撃はこの創造主さえも葬り去ろうとしているように感じた。しかしこのゲーム『ログイン』は死亡しても持ち物がなくなるだけで再びログインする事が出来る。そうなると再び雲隠れされ、『新種』の製造を止めることはできない。それではここまで頑張ってきた事は無駄になる可能性が高かった。


 創造主はそれを指摘し、今の行動が軽率ではないのかと馬鹿にしているのだ。


「心配いらないよ。君が無理でも他にも仲間がいるんでしょ? そっちを頼るよ」


「残念ながら、他の二人は何も知らない。私が絶命しなくて良かったな」


「その心配もいらないよ。僕は運営側の人間。君の顔は覚えたから、たとえ絶命していたとしても、問題ないよ。何をしてもいいゲームとはいえ、さすがに君の行動は看過できないから」


「くくっ、なるほど」


 二人はそう会話をしながらもしっかりとフォーアームを起動し、キーボードを叩き続けている。準備ができ次第戦闘がはじまると思っている怜央は既に剣を構えていた。


「ゴッド!」


 いつ始まってもおかしくない静寂を破ったのは第三者の声だった。


「やっと来ましたか」


 創造主の男はキーボードを叩く手を止め、髪を手でかきあげた。


 声のした方を確認すると、鎧を着た二人組がいた。兜で顔は確認できないが、性別は男だろうか。二人は既に剣を構え、臨戦態勢になっている。


「ゴッド…… それが君の名前?」


「この世界ではそうなるね。そもそも本名を名乗る理由も意味もないからね」


 そう言えばそうだと怜央は今更ながらに納得する。


 そもそも怜央の周りには本名を名乗る人ばかりだが、ゲームをやっているのだからインターネットの掲示板でハンドルネームを使う様に好きな名前を名乗ればいいのだ。


 それにしてもゴッドはどうなんだと怜央は半ば呆れていた。


「さてと、私は逃げるから二人とも後は頼むよ」


「おう」


「任せておけ」


 ゴッドはそのまま悠然と歩き、崩れていない他の出入り口から出ていった。


 追おうとは思わない。もし目の前の二人に背を向ければ確実に襲いかかってくるからだ。目の前の二人を先に倒してしまうという選択肢もあるが、その場合ゴッドが攻撃してこない保証はない。挟み撃ちにされた地点で、怜央たちに行動を選ぶ権利はないのだ。


 足音が離れていき、聞こえなくなった頃、目の前の二人がフォーアームに手を伸ばした。


「ログアウトか?」


 怜央は唯一の手がかりである二人を逃すまいと最後の悪あがきとして声をかける。


「戦うだけ損だからな。ここは撤退させてもらう」


 予想に反して相手は応じてくれる。それだけ自分の優位を実感しているのだろうと怜央は考えた。


「ここで戦うのも面白そうだが、ゴッドに無駄な事はするなっていわれてるからな」


 やはりこの三人をまとめ上げているのはあのゴッドと名乗る人物かと怜央は改めて確認する。


「おい、余計な事を喋るなよ。ログアウトするぞ」


「そうだな」


 このまま色々な情報を聞き出そうと思っていた怜央だったが、もう一人の男に遮られ、そのまま二人はログアウトしてしまった。


「逃げられちゃったね。というかここ、ログアウト出来たんだね」


 佐奈は残念そうに言いながら剣をしまう。


 町や村の中ではログイン出来なかったので警戒していなかったが、ログアウトして逃げるという選択肢があるのだと怜央は今気がついた。


「情報を得るのは失敗したけど、とりあえずゴッドについて調べてみるよ」


 しのぶはさほど気にしていないのか、これからの方針についていった。しかし、怜央としてはもう少しうまく立ち回れたのではないのかと後悔するばかりだった。


 そんな怜央の内心を察したのか、それとも何か思うところがあったのか、佐奈が口を開く。


「仕方ないんじゃない? 私達が殺されたら元も子もないんだし……ね」


 確かに佐奈の言う事は正しい。この件は曲がりなりにも自分たちを信頼して任せてもらっているのだ。いくら何度か生き返られるとはいえ、それにも制限がある。途中で終わるわけにはいかない。


 それは怜央も分かっている。それでも初めて元凶に出会い、無理してでも対処すべきだったのではないか。そう思ってもしまうのだ。


 そのまま三人は確かな収穫を得ながらも、明るい空気は微塵もなく、暗いまま三人は丈と縁寿が待っている村に向かう。


「…………」


 道中、佐奈は怜央に何かを言いたげにしていたが、結局何も言わなかった。

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