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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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平和の中にある謎

 あれから数日が経ち、夏休みも終わりを迎えようという頃になっても未だ新たな『新種』は見つかっていなかった。正確には怜央たちが見つけたパターンにあてはまる『新種』が見つかっていないというだけ。『新種』は確かに次々と見つかっていた。


「今日は俺たちが待機組か」


 既に方々の村や町には警告をしている。何か異変あればすぐにこの拠点に報告が届くようになっている。よって必ず拠点には誰かいなければならず、今日は怜央と佐奈が待機する日だった。


「待機は暇だね~」


 あまりにも何もなさ過ぎて佐奈にいたっては机に上半身を預けてぐったりとしている。そんな佐奈を見て万里奈はにこにこしていた。


「何かやることでも探したら?」


 しのぶも今日は待機組。しのぶは依頼の人数により日々違った。


「そんなに簡単に見つからないよ。しのぶ君と違って腕輪で何かできるわけじゃないし」


「じゃあ、何か疑問でもある? 今なら答えるけど?」


 全くフォーアームをいじる手を止めることなくしのぶは言うが、今更そんな事を気にするものはこの場にはいない。


「では、私からよろしいですか?」


 率先して質問を始めたのは万里奈だった。前々から色々な事を聞きたがっていたので、なんら不思議はなかった。


「どうぞ」


「魔法というものは皆さんが出来るものなのでしたよね?」


「このフォーアームを持っている人なら可能だよ」


 しのぶの説明は前にも一度したことだったが、その言葉を聞いて怜央には一つ気になる事があった。


「しのぶ、その説明だとこの世界の人にフォーアームを渡したら同じことが可能なのか?」


 そう。しのぶの説明では“フォーアームを持っていること”が重要であり、“現実世界の人である”ことはどうでもいい様に聞こえたのだ。


「あぁ、そのこと。試した事はないね」


 しのぶは気にせず勝手に現実世界の人間に限定して話していたらしい。しかし、怜央としては出来るのかどうかの方が気になった。


「万里奈、やってみてくれないか?」


 怜央はフォーアームを腕からはずし、万里奈に差し出す。しかし万里奈は困ったように微笑むだけで受け取ろうとはしない。


「どうかした?」


「魔法を使って、何か害はないのでしょうか?」


 そう言われて怜央は初めてその可能性に気付いた。しのぶや丈が当たり前の様に使っているからといって、住む世界の違う万里奈に安全とは限らないのだ。


 思わず怜央はしのぶを見る。しかし、しのぶはこちらを見ておらず、怜央は顔をしかめた。


「しのぶ、魔法は万里奈が使っても大丈夫なのか?」


「さぁ? 試したこともないし」


 しのぶの回答は相変わらず素っ気ない。


 怜央としては万里奈が魔法を使えるのかどうかは気になる。しかし、それに危険が伴うならば、わざわざ試してもらおうとは思わない。そう思い、怜央はフォーアームを腕に付け直した。


「でも確かに気になる事ではあるね。少し待って」


 そう言うと、しのぶは今までいじっていたのは本当に暇つぶしですというように今まで以上に高速にフォーアームのキーボードで何かを打ち込み始めた。


 その光景を三人がしばらく見守っていると、しのぶは突然フォーアームを停止させた。


「準備完了。万里奈、これで魔法を使ってごらん」


「大丈夫……なのでしょうか?」


 万里奈は思わずといった様子で受け取ったが、それ以上は何もせず、ただ困ったように微笑んだ。


「問題ないよ。ちゃんと対策したからね」


 そうしのぶが言うと、万里奈は安心した様に腕にフォーアームを装着した。


「後は呪文だよ」


「分かりました」


 万里奈は準備をするように目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。そして意を決した様に目を開いた。


「ムカッ!」


 その言葉に呼応し、フォーアームが起動し、


「は?」


「着火!」


 その言葉に呼応するように炎が灯り、


「ちょ! 待っ!」


「ファイア!」


 その瞬間に炎が燃え広がり、そして一瞬のうちに炎は消えた。


「どうやら使えるようだね」


 その結果に満足した様にしのぶは少し嬉しそうに言った。


「ちょっと待て。なんで俺のフォーアームが起動してるんだ?」


 そう、実は今の一連の現象は全て怜央の周りで起きていた。起動したのは怜央のフォーアームであり、炎が灯ったのも怜央の目の前であり、燃え広がったのも怜央の周囲だった。


「何か問題?」


「問題というより不可解だ」


 驚きはあったが怒りはない。しのぶのいつものようにやる気のない目をして何を聞かれているのかわからないといった反応に呆れるしかなかったのだ。


「魔法を使ったのは万里奈のはずだ。なのになんで俺のフォーアームが起動したんだ?」


 そう、魔法を使ったのは万里奈であり、プログラムがインストールされているのも万里奈が持っているフォーアームだ。それならば起動するのも発動する場所も万里奈の周囲であるはずなのだ。


「言ったでしょ。対策をしたって」


 しのぶはもうどうでもいいのか、さっきまでの積極性が嘘のように面倒くさそうに語った。


「万里奈が発動したとわかるとどうなるのかは僕にも分からなかったからね。だから、発動者は万里奈だけど、発動者が万里奈だとばれるわけにはいかない。それで万里奈のフォーアームから怜央のフォーアームにハッキングして、発動元を誤魔化したってわけ」


 怜央たちは魔法を使っていても問題ない事は既に分かっている。しかし、万里奈が使うとどうなるのかがわからない。だったら万里奈が使ったとわからなければそれでいい。しのぶはそう考えたのだ。


「ところでどう? 魔法を使った感想は」


 そう言えば先程から万里奈の反応がないと怜央はやっと思い出す。万里奈を見ると虚空を見つめたまま固まっていた。


「万里奈?」


 全く反応のない万里奈に声をかける。その声にやっと我に返ったようにこちらを見た。その表情は驚愕しているようであり、戸惑っているようでもあった。


「万里奈、どうかしたのか?」


「い……いえ、なんでもありません。それより、私も魔法、使えましたね」


 まるで何かに触れたくない様に万里奈は話を逸らした。ただ、何からそらしたのかもわからず、怜央は何も言えなかった。


「みたいだね。でも、もう使えないよ。今のハッキングした穴ももう塞がれちゃっただろうし」


 そう言いながらしのぶはいつものようにフォーアームをいじり始めた。会話をすることはもうないらしい。


「残念だね。万里奈ちゃんも魔法を使えれば一緒に依頼が出来るのに」


 佐奈は残念そうに、しかし相変わらず机に突っ伏したままいう。今は全てにやる気がないらしい。


「確かに残念ですが、私に使える武器といえばこれぐらいしかありませんから」


 そう言って万里奈が取り出したのは一丁の拳銃だった。


「な……なんで持ってるのかな?」


 あまりに万里奈に不釣り合いなものに思わず怜央は丁寧に聞いてしまう。


「丈様が一丁預けていったのです。なんでも一度死亡すると所持品はすべて消えてからの再スタートになるので、一丁私に預けておけば安全だとか。弾丸も五十発ほどその引き出しにあります」


 怜央は前々から思っていたことだが、万里奈はなんでもすぐに信じ、順応する。それはいい事の様な気がするのだが、今の話を聞いていると、一概にいい事ではない様な気がしてしまった。


「弾は有限だしね。万里奈は危険な事をしない方がいいよ。まがりなりにも王位継承者だし」


 ん? オウイケイショウシャ?


「そんな…… 私にそんな資格はありませんよ」


「継承権第六位なんだから、十分じゃない?」


「いいえ、きっとお兄様やお姉様のどちらかがなるはずです。私はこういった生活の方が向いています」


「やっぱり向き不向き?」


「私にはあの生活は不向きでした」


 怜央は本当に言葉の意味が理解できなかった。というより理解する前に当たり前の様に受け答えが進んだため、そのまま受け入れそうになってしまったのだ。


 しかしその疑問はあまりにも異物過ぎてそのまま飲み込む事が出来ず、当たり前の疑問として怜央の口から洩れた。


「王位継承者ってなんだ?」


 何となく意味は伝わっているのだが、それは聞かずにはいられなかった。


「あれ? 話していなかったっけ?」


 本当にしのぶはゲームのこと以外は情報の伝え方が適当だなと呆れながら、思いっきり頷く。佐奈にいたっては何度も頭を上下に動かしていた。


「万里奈はこの通り普通の生活をしているけど、王族なんだよ」


 王族。その言葉が意味するところは誤解することはないだろう。つまり万里奈は現王の血統に連なる者ということだ。


「もっとも、本人にその気は全くなんだけど。でもそのおかげでギルドを管理するだけの技能を持っているわけだよ」


 この世界では教育というものがあまり普及していない。それを知った地点で怜央は気付くべきだったのだ。ギルドを管理するほどの技能を身につけている万里奈が、何も教育を受けているはずがないのだと。


 しかし怜央が気づかないのも無理はない。怜央はこの世界の知能の標準を知らないのだから。


「じゃあ、万里奈ちゃんはお姫様?」


「いいえ。先程も言った通り、私は継承権第六位です。まず王族とは関係ない生活を送ることになると思います」


「そうなんだ? ドレスとか着たことある?」


「社交界などで何度か。昔の話ですけど」


 佐奈は気にすることではなかったのか、それとも認識が追い付いていないのか、いつも通り楽しそうに万里奈と会話に興じている。


 怜央はそこに混ざる事が出来ず、しのぶに近づいていく。


「しのぶ、万里奈はああ言っているけど、本当に大丈夫なのか?」


「何が?」


 しのぶは本当に何の事だかわからない様に珍しくフォーアームをいじる手を止め、怜央を見た。


「一応王族だろ? 無理してここにいるんじゃないのか?」


 怜央が心配なのは万里奈がここにいることではなく、ここにいてほしいとお願いすることで万里奈が無理していないかということだった。


「その辺は大丈夫。本人も言った通り殆ど王家とは関係のない立ち位置だし。リードは気付いていたみたいだけど、他の人は気付いてなかったでしょ?」


 言われてみればリードの反応が少し違った事を思い出す。そう言われれば程度の違いだが、確かにリードは言葉使いを少し変えていた。しかし、それだけで迎えに来た兵士もその周りの兵士も気付いた様子はなかった。つまり万里奈の認知度はそのぐらいということだ。


「万里奈が無理してないならいいんだ」


 自分たちはこの世界で遊んでいるにすぎない。そんな自分たちがこの世界で本当に生活している人に迷惑をかけるわけにはいかない。特にお世話になっている万里奈には。

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