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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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これからの方針

 『新種』の調査依頼が出されてから数日。怜央、佐奈が拠点に缶詰になっていた。


 『ログイン』するたびに書類と格闘する二人は今日も疲れた顔をしながら書類に目を通していた。丈、縁寿は現在『依頼』に出かけている。


「これ……いったい何枚あるんだ?」


「後もう少しです」


 万里奈はそういうが、まだ紙が辞書ぐらいの厚さぐらいには積まれている。これでも少ないというのだから元々の量も想像できるだろう。


「仕方がないよ。誰かが今までの報告を知っていなければならないんだから」


 そうはいっても無理があると、怜央は心の中で愚痴を言う。


 そもそもこの書類は、今まで発見、または討伐された『新種』の報告と、国で調査された『新種』の構造など。ありとあらゆる資料だった。それを理解するところからこの壮大な依頼は始まっていた。しかし、


「この資料に書いてあること、構造に関しては思いっきり俺たちの世界の生物そのものじゃないか」


「だろうね。それはどうでもいいんだよ」


「……どういうことだ?」


 今まで勉強でもした事がないほど集中し、資料を頭に叩きこむという慣れない作業にいらいらしていたのか、声に感情が滲んでいた。確かにこれだけ頑張ってきたことをどうでもいいと言われれば腹が立っても仕方がないだろう。


「問題は構造や生態の方じゃない。その分布だよ」


「分布?」


 そう言われても怜央にはさっぱりわからない。


 怜央たちのこなす依頼は『新種』をどうするのかというものだった。そうなると確かに『新種』がどこにいるのかは重要に聞こえる。しかしそれ以上に重要なのはどう討伐するのかのはずだ。怜央はそう思っていた。


 しかし、怜央は根本的なところで勘違いをしていた。


「そもそも『新種』を討伐したって根本的な解決にはならないんだよ」


「どう言うこと?」


 佐奈にも全くわからないのか、不思議そうに問いかける。


「言ったでしょ。あれは誰かが創ったものだって。だったらその人を止めなきゃ終わりはないよ」


 そう言われて確かにしのぶはそう言っていた事を思い出す。その説の真偽は定かではないが、怜央はその説を無条件で信じていた。そもそも同じ形の生物を作るには(自然発生とははなから思っていない)、その生物を知っていなければならないからだ。


「だけど、それと分布に何の関係があるの?」


「この『新種』は誰かが創っているなら、発見場所がどこか偏っているはずだよ」


 そう言われて怜央は発見報告と討伐報告書を引っ張り出し、まとめる。そしてしのぶが広げた地図に怜央が読み上げた地点と日にちを佐奈が記していった。途中で遅いために万里奈に交代したのは仕方がないことだったが。


「これに偏りがあるのか?」


 分布は世界各国に散らばっていて、偏りは見られない。まるで図ったかのようにばらばらだった。


「しのぶ君、これで何か分かるの?」


「更に追加情報。丈と縁寿が見たという大きな蝙蝠の目撃場所もチェック」


 しのぶは佐奈の疑問を無視して話を続ける。


「はい」


 万里奈は追加で情報を書き込む。すると、妙な事が起こった。


「あれ? ここだけ間隔が狭くないか?」


 今まで図ったように同じ距離離れていた印が、今の印だけ浮いて見えたのだ。


「多分これだけ意図して発見させたものじゃないんだろうね」


「どういうことだ?」


「魔法で創りだしたものは全て数分で消える。隠蔽するのにこれほど都合のいいシステムはないよね?」


 確かに勝手にやっていた事を消してくれるのなら、それほど楽な事はない。しかしそれは同時にある事実を示す。


「でもそれって、ちょっと前まで人がいたってことだよね?」


 そう、そういうことだ。大きな蝙蝠が消えたのが事実ならば、少し前まで創造者がいたということなのだ。


「そういうことになるな。じゃあ、この場所は……」


「調べる価値あり……だね」


 この場所が唯一の手掛かりになる。怜央にはそう思えた。しかし、しのぶの考えは違っていた。


「それともう一つ、気になるのは日付だよ」


「日付?」


 改めて日付と印をじっくりと見てみる。すると怜央にもしのぶの言いたい事がわかった。


「これ、横に移動するように日にちが経ってないか?」


「やっぱりそう見える? 僕もそう思った」


「どういうこと?」


 佐奈にはわからなかったのか、不思議そうに印を目で追っていく。説明する為に怜央は一番古い日付を指差す。


「ほら、見てみなよ。ここから日付を順に追っていくと……」


 怜央はそう言いながら指を日付順に動かしていく。


「まるで円の様に移動してる事がわかるだろ?」


「あ、確かに……」


 日付はまるで一国に一つ、それを右回りに刻んでいた。一部例外もあったが、創られた順に発見しているわけではないだろうから、例外も納得はできる。


「そうなると、次に来るのはこの辺りか」


 順番で考え、怜央はある場所を円で囲む。


「多分そうだよ。でも、広すぎるね」


 確かにその範囲をこのギルドの人員だけで把握するのは不可能だった。国からの依頼なのだから協力を依頼すればいいのだが、この話はあくまで推測に推測を重ねたもの。不確定が多すぎるものに大きな人員を出してもらえるはずもなかった。


「大丈夫。この範囲には小さな町や村はそんなに多くないはずだから」


「なんで小さな村や町が関係あるんだ?」


 しのぶの言葉に、怜央は考える間もなく質問する。『新種』を密かに創りだしているのなら、人がいない場所を選ぶはずだからだ。しかし、怜央は大事な事を忘れていた。ただ『新種』は創りだすだけではいけないという事を。


「何度同じ話をするの? 本当に君は教えがいのない人だね」


「……ごめん、私も分からないかも」


 佐奈の申し訳なさそうな声に、しのぶは露骨なため息をついた。


「もう説明しないから良く聞いて。縁寿が言っていたでしょ。『新種』は数分で消えてしまう。それをこの世界で安定させるには子供を産ませるしかない。そうなれば食糧がいる。もうわかるよね?」


「やっぱり、食糧は人間……」


 『新種』の大きさは通常では考えられない大きさになっている。その体積に比例するように食べる様に増す。ではそんな大量の食料をどのように調達すべきか。もっとも簡単な方法が近くの小さな村や町から人間を調達する方法だ。


 理屈の上では理解できる。しかし、心情的には理解したくはない現実だった。


「そういうこと。だったら必ず小さな村や町の近くで『新種』は創造されるはず」


「……じゃあ、この近辺の小さな村か町を探せば見つかる可能性があるな」


 怜央は今までの事は考えないようにした。考えすぎるとそれだけで気が滅入ってしまいそうだからだ。


「更に隠れ家になる様な場所があるといいね」


 そうなると場所は限定されてくるだろう。恐らく二・三か所しかないはずだ。


 創造主に直接会えるかもしれない。そう考えた時、自然と手に力が入る。


 自分たちが止めなければ、恐らくこの世界の人間は滅ぶ。そう考えてしまうほど報告書の内容は酷い。


 どうにかしなければ。


 いつの間にか怜央の中には使命感のようなものが生まれていた。

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