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ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
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王城での予想外の再会

 六人はお城に到着してすぐにある部屋に通された。そこは会議室の様で、長方形の机が置かれ、作戦を書き込むためなのか黒板の様な黒い板が壁に埋め込まれていた。


 国王に直接合うんじゃなくて良かったとか、他にも出入口は騎士に見張られていたり、部屋の四隅にも同じように騎士がいたりするのだが、そんな事が気にならないほど怜央は呆気に取られていた。


「やぁ、二人は初めまして。四人は久しぶりかな?」


「リード、さん!?」


 そこにいたのは怜央と佐奈が訓練でお世話になったリードだった。


 リードは座って待っているわけではなく、作戦を書き込むための黒板の前に立って待っていた。


「あれ? 聞いていなかったのかい?」


 リードは不思議そうに怜央達を案内してきた騎士に視線を向けた。それだけで騎士は背筋を伸ばした。


「も、申し訳ありません!」


「いや、責めているわけではないんだけど…… それに、私はもう騎士ではない。尊敬されるのは嬉しいが、卑屈になるのはやめてくれ」


「はっ!」


 その騎士の態度にリードは呆れたように肩をすくめた。


「さて、怜央君達、とりあえず座ってくれるかい?」


 何が何だかわからないうちに怜央達は促されるままに席に着く。


 座った順はリードから見て右側に、近い側から怜央、丈、しのぶの順に、左側に佐奈、縁寿の順にそれぞれ座った。


「リードさん、あなたは騎士をやめたんじゃなかったんですか?」


 怜央は座ってすぐに入ってすぐに疑問に思った事をリードに問いかけた


「覚えていてくれたのか。そうだね、私は騎士をやめた。しかし、そうはいっていられない事情が出来た。それは君達をここに呼んだ理由と同じだ」


「なるほどね。『新種』の件はそんなに大事になってるんだ?」


 しのぶのその言葉にリードは驚いたように目を見開いた。しかしすぐに笑った。


「会った時から思っていたけど、しのぶ君は不思議な人だね。いや、それを言うなら君達もか」


 なんとなくリードがこの世界の外から来たと言っている様な気がして、怜央は曖昧に笑うことしかできなかった。


「しのぶ君が言った通り、君達を呼んだのは『新種』について話を聞きたかったからだ」


 リードは反応を期待したわけではなかったのか、すぐに話を元に戻した。


「『新種』の報告は君達がしたもの以外に既に五十件以上の報告を受けているんだ。他国でも同様らしい。そこでこの国では特殊対策部門を作ることとなった。そこで招集されたのが騎士として使えなくなった私ということだ」


 リードは自嘲気味にそう言うが、その表情は晴れやかだ。


「つまり、リードさんが『新種』の生物の対処をする部隊の隊長ということですか?」


「そういうことだね。まぁ、実行部隊を抱えているわけではないから、部署というべきだけどね」


「もしかして、私達がその実行部隊に選ばれた?」


 佐奈は確信がないのか、声が迷っていた。しかし、それが間違いない事はその場にいる佐奈を除く全員が確信していた。


「そういうことだよ。君達には『新種』の対策をしてもらいたい。当然これは国からの正式な要請と受け取ってくれていい」


「な……何故俺たちなんですか? こんな少数よりもっと大規模なギルドに要請した方がいい様な気がしますけど」


 怜央は国から仕事を依頼されるという想像できない大事に気後れしてしまい、素直に喜べなかった。


「確かに効率化を図るのならそうだろう。しかし、この『新種』の対処は数がいればいいというわけじゃない」


 数がいれば十分じゃないかと怜央は思った。そもそも大ムカデは二人でも辛くも退治出来たし、大蟻も囲まれたことが問題であり、数がいれば問題なく対処できた。ならば数のいるギルドの方が有利だ。現実的に考えれば数がいればいいのは明白だった。


そんな怜央の考えを見抜いたかのようにリードが口を開く。


「君たちは知らないだろうけど、『新種』を討伐できているのは君たちのギルドだけなんだよ。いや、正確にはこれだけの少人数で、しかも実害なしで討伐したギルドという意味だけどね」


「そんなに苦戦してるんですか?」


丈にもそれほど苦戦するとは思えなかったのか、驚いた様子で聞いた。


「あぁ。もう無視できないほどに」


 怜央はその一言に何も言えなくなった。やはり自分が生き残ったのは運が良かっただけだと思ったからだ。確かに仲間に恵まれているのもあるだろう。しかし、そうならば人数が多く攻め込めば倒せない道理はないのだ。つまり、ただ運が良かった。その答えだけが現実に怜央には思えた。


「それで、数に意味がないってどういうこと?」


 代表の怜央が話さなくなったためか、しのぶが代わりに口を開く。


「……ここからは少し内輪の話をする。下がってくれ」


 リードは真剣な声でこの部屋を囲んでいた騎士を退場させる。そして退場し終わったところでリードが口を開く。


「君たちは新種について何を知っているんだい?」


 その曖昧な質問の意味がわからず、五人は首を傾げる。


「それはどう言う意味でしょうか?」


 万里奈は何かを察したのか、珍しく少し警戒しながら問いかけた。


「やはりあなたも知っている側の人だったのか。あなたも呼んで正解だったよ」


 リードはいつもの優しい顔ではなく、冷徹な顔でにやりと笑った。万里奈はその顔を見て何も言えなくなってしまう。


 そこでやっと怜央は気付く。ここにいるのは騎士としてのリード。自分達と接している時は私用だ。しかし今は公務中。今までの様に考えてはいけなかったのだ。


 みんなどう反応していいのかがわからず、ただ口を閉じる。そんな様子を見てとったのか、リードは話を続ける。


「今からのことに答えなくていい。とりあえず聞いていてくれ」


 そう前置きをして、リードは一人語る。


「最近『新種』と合わせて面白い報告があるんだ。ある日を境にギルド登録者が増加したんだよ。それも、新規立ち上げでね。それらを立ち上げた人の身元は不明。名前も聞き慣れない発音のものばかり。しかも登録を担当した者の話ではとても冒険者には見えなかったという話だ」


 恐らくその時期がこのゲーム『ログイン』が始まった時期なのだろう。その時期なら確かにギルドが乱立したことも考えられた。


「さらにおかしな報告がある。あるギルドの報告だが、やはりとても冒険者に見えない者が討伐任務に就き、そこで攻撃を受け、絶命。しかしその瞬間に体が消滅し、次の日に何故か何事もなかったように現れたそうだよ」


 あぁ、死亡するとそうなるのかと怜央はもうどうでもいい事を考えていた。もう誤魔化す方法が思いつかなかったのだ。


「更に、その不可思議な現象と関連があるのか、そのまるで冒険者に見えない人達は皆一様に『新種』を国が名づける前に『大ムカデ』や『巨大蟻』と呼んでいたという報告があるんだよ。いや、むしろ『ムカデ』『蟻』という呼び名が共通していたというべきかな」


「ねぇ、リードは何を調べているの? 『新種』の対策に関係ないよね?」


 黙っていられなかったのか、しのぶが口を開く。しかし言葉の割にはしのぶの話し方に剣呑さはなく、どちらかといえばどうでも良さそうな声色だ。


「これは個人的な趣味みたいなものだよ。しかし、裏でどうも何か得体のしれないものが動いている気がしてならないんだ」


 それだけは感覚なのだろう。今までの情報とは違い、完全に予想でしかない。しかし、その予想はほぼ合っているのだからリードの勘は馬鹿に出来なかった。


「まぁ、丁度良いか」


 しのぶは一人事のようにそう言うと、立ち上がり、リードの方に近寄っていく。そしてリードに近くの椅子に座る様に勧めた。


 リードが座ると、しのぶは一度皆を見渡し、見終わってから語り出した。


「本当は『新種』について語りたいところだけど、まずはリードの疑問に答えようか」


 しのぶは隠すことではなかったのか、簡単にばらしてしまう。


 自分たちはこの世界の住人ではないこと。他の世界からこの世界に来たことを語る。そんな荒唐無稽な話でもリードは何も言わず、静かに話を聞いていた。


「つまり、君たちはこの世界からすると神の様な存在、と考えていいのかな?」


「そこまで大仰な存在じゃないよ。ただ外の世界から来ただけ。それだけの存在だよ」


「死人が生き返ったのか?」


「死ぬ直前に元の世界に帰っただけ。そうするとこの世界で負った傷がなかったことになる」


 リードのしてみれば戯言の様な話のはずなのにただ真剣に言葉を選んで聞く。しのぶの説明は正確ではないが、詳しく説明をしても理解できないのは万里奈の地点で証明済みだからいいのだろう。要はニュアンスが伝わればいいのだ。


「なるほど、合点がいきました。それで皆さんは優れた教養をお持ちなのですね」


 キョウヨウ? その言葉が一瞬理解できないほど自分に不釣り合いな言葉だと思った。佐奈にいたっては教養という言葉自体がわからず、首を傾げている。


「皆さんの世界ではそれほどでもまだ足りないんですね。素晴らしい世界です」


 何を思っているのか、リードは目を細め、遠い目をする。


 確かにこの世界はしっかりと教育を受けている人は少ない。人によっては文字があまりかけない人もいるのだ。そういう意味では自分たちは教養がある方なのかと怜央は一人納得する。


「悪いけど話を戻すよ。次は『新種』について話すから」


 しのぶは強制的に話の軌道を元に戻す。その一言で注目を集めたと確認したのか、続きを話す。


「全部知っているわけじゃないけど、あの『新種』は僕たちの世界にいる虫と姿が全く同じで、ただ大きくなった生き物だよ」


「つまり、あなた方の世界から来た生物、ということかい?」


「それはない。この世界に来られるのは僕たち人型のものだけだから」


「では、なぜあなた方の世界と類似した生物がこの世界に?」


「それはちょっと皆に詳しく説明したいから、前知識としてリードはこれを見て」


 しのぶは一応前を気をして、ある言葉を口にする。


「ムカッ、着火、ファイア」


 しのぶは全く抑揚もなく相変わらず意味のわからない呪文を唱える。そして炎が灯り、すぐに消えた。


「君たちは魔法も使えるのかい?」


 魔法というものも共通の認識なのかと怜央はぼんやりと考える。リードの言い方は初めて見た感じではなかったからだ。


「僕と縁寿ぐらいだよ。いや、違うかな。多分この世界にもう一人は魔法を使える人がいるよ」


 何か根拠があるのか、しのぶは推測ではなく断定的に言い切った。


「なるほど。あの『新種』達は誰かが魔法で創ったものなのかな?」


 リードはこの状態に困惑することなく、しのぶの言葉に対応していく。その順応は怜央たちよりも早く、上をいっていた。


「でも普通魔法は五分と持たないんだよ。もしも『新種』が魔法で創られてる時、創造者が近くに必要なんだけど……」


 しのぶはちらりと縁寿を見る。この答えを持っているのは縁寿しかいないとしのぶも思っているようだ。


「出来るよ? 聞きたい?」


その場にいる全員が頷く。それに気を良くしたのか縁寿は嬉しそうに話し出した。


「まず、私達の世界から使えそうな生物をピックアップします」


 そこからなのかと思ったが、リードは真剣に聞いているので怜央は何も言わず、先の言葉を待った。むしろリードは怜央たちの世界を知らないのだから、縁寿の説明は妥当なものだったのだ。


「そしてその情報をこの世界で魔法を使って再現します。そして、繁殖期の状態を再現します。でもしばらくたったら消えちゃうから、しばらく見守ります。餌を与えながらね。そうすればそのうち子供を生みます。その子供はこの世界の栄養でできているから、この世界に定着できるはずだよ?」


 縁寿の説明はどこか実験か料理のレシピを読み上げているようだった。しかし、そこで怜央には気になる言葉があった。


 それは餌という部分だ。あれだけ大きな生物なら、それ相応に食べなければ維持は難しい。そうなるとおのずと食べるものは限定されてくるのだ。


「なるほど。それなら可能だね」


 しのぶは知ってか知らずかそのことには触れず、話を続けた。いや、おそらく後者だろう。なぜなら新種の討伐はそもそも害があったから始まったことなのだから。


「つまりあれら『新種』は誰かが創っていると?」


「目的まではわからないけどね」


 しのぶはそう締めくくって元の椅子に座る。代わりにリードが立ち上がった。


「さて、ここからが本題。君たちは今の話から『新種』の弱点を知っていると判断した」


「弱点じゃなくて、殺す方法だけどね」


 しのぶがさらりと修正する。確かにあの『新種』に弱点はない。あるのはどうすれば動かなくなるかという事だ。


「私たちからすれば同じことですよ。未だにどうすれば倒せるのかわからない私たちからすれば」


 そういってリードは自嘲の笑みを浮かべ、肩をすくめた。


「話を元に戻すけど、『新種』の対策の依頼、受けてくれるかな? 長期の依頼になるから他の依頼を受けながらでもいいし、それが出来ないようなら国を挙げて援助しよう。人手も金銭も全て」


 それは破格の待遇なのだろう。詳しい事情を知らない怜央でもそれを察することができた。他の考え方をすればそうしなければならないほど『新種』の問題は深刻という事だ。


 みんなの視線が一斉にこちらを向く。決定権はこの『ディメンジョン』のリーダーである怜央にあるのだから、当たり前なのだが、怜央には少しの間、その意味がわからなかった。


「……わかった。やろう」


 その視線に反対意見は見られず、怜央はそう決める。


 その日から『ディメンジョン』は『新種』の謎に深く触れていくことになった。

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