ログイン(仮)の世界の話 その2
「もしかして、僕の使ってる『リロード』も似たような現象だったりする?」
丈は何か思い当たることがあったのか、隣にいる縁寿に確認するように問いかけた。
「ちょっと違うかもだけど、大まかには同じかな」
「ねぇ、『リロード』って何?」
佐奈の質問に、縁寿はいつも通りの可愛らしい笑顔で答える。
「あたしが作ったプログラムだよ? 『リロード』は丈君が弾を撃ち切ったらもう一度弾を元に戻すプログラムなんだよ」
丈の銃は撃ったら弾を補充しなければならない。その時間は危険をはらむ。しかも持ち運べる弾も有限でしかない。魔法の力で弾を補充できるのならそうした方が確かに効率的だった。
「あれ? 魔法は頑張っても五分も持たない技術のはずだけど?」
「五分? なんで五分なんだ?」
魔法はこの世界に普通の物理現象ではありえない現象を起こす。しかし何故それにタイムリミットがあるのか怜央にはわからなかったのだ。
「『ログイン』プログラムのせいだよ。余計なエネルギーや物質を見つけるとなかったことにしてしまうんだ。さっきの炎が消えたのは別の理由だけど、そのエネルギーは既に『ログイン』プログラムによって消去されただろうね」
さっきの炎が消えた理由は怜央にはわかっていた。炎は燃焼物、点火源、酸素供給源の三つがあって初めて燃える。その一つのどれが欠けても炎は燃えない。
さっきのしのぶの魔法は空気中から燃焼物を集め、点火源は外から持ってきて、燃やしたのだと考えられた。そうすれば炎は燃える。ただ空気中であるためにすぐに消えてしまい、他に燃え移る事はない。そういう魔法だろうと怜央は考えていた。
「それなのに『リロード』は消去されないんだよね? なんで?」
しのぶは話の軌道修正をし、再度縁寿に問いかけた。それほどしのぶの中では理解できないものらしい。
「簡単だよ? 他からエネルギーを持ってきちゃうから消されちゃう。だったら、撃ったことをなかったことにしたら、エネルギーは関係ないよね?」
「あぁ……その手があったかぁ。それは思いつかなかったなぁ」
しのぶは心底感心した様に頷いているが、怜央には何を言っているのかわからなかった。
「縁寿が言っているのはつまりこういうことだよ」
怜央や他の人たちが会話についてきていないと思ったのか、しのぶが今の内容を要約してくれる。
「さっき僕がやったのは外からエネルギーを持ってくる方法。対して縁寿は起こった現象そのものをなかったことにする方法をとったんだ」
「そんな事が可能なのか?」
プログラムとはいえ、そんなに容易くあったことをなかったことに出来るものなのか。それが怜央には全く想像できなかった。
「難しいとは思うけど、不可能じゃない。そもそも『ログイン』プログラムは内から外、外から内に移動するエネルギーを監視しているだけだから、内側だけでのエネルギーの移動はどうでもいいんだよ」
つまり、縁寿は内のエネルギーを使って撃たれた弾丸を元の状態に戻しているということだ。周りから物質やエネルギーを使うので当然のように何かが消えているはずなのだが、そんな小さなものが消えたところで誰も気にしないだろう。
「あたしとしてはこれが不正にならない事が疑問だったりするんだけど、その辺はどうなのかな?」
縁寿としてはその技術より、その不正アクセスが罰せられない事の方が疑問らしく、可愛らしく首を傾げた。
「それは元々それが出来ることも含んでゲームにしたからだよ」
「それも含んで?」
怜央はそのまま縁寿が納得して終わりそうだったので、すぐに疑問の声をあげて説明を求めた。
「そう。だって、ゲームに魔法使いは必要でしょう? でも、この世界では魔法使いは強力。一人でなんでも出来ちゃうほどに。だから、推奨はしていないけど、やっても文句は出ないんだよ」
つまり、『魔法』が使用されることが予想されていたということだ。しかし、分かったところで怜央にはまねできそうにはなかった。
「魔法についてはわかった。だけど、それがあの生物とどう繋がるんだ?」
丈は一応納得したのか、話の先を促す。怜央としては正直疲れているのでこれ以上の難しい話はやめて欲しいのだが。
「皆さん、少しお休みしませんか?」
みんなの疲労を見えとったのか、万里奈が気を利かせて話を一時中断する。
「うんうん。少し休もうよ」
佐奈も難しい話に疲れていたのか、率先して万里奈の提案に乗った。
そうなれば既に話を進める雰囲気ではなくなり、話は一時中断することになった。
しのぶはいつものようにフォーアームをいじり、丈と縁寿は机についてはいるが、二人だけで会話をし、そして怜央と佐奈と万里奈はお茶の様なものを飲みながら雑談をしている。
「そう言えば、この世界にも魔法ってあるの?」
先程までの会話に万里奈は一度も口を挟まなかった。それが佐奈には意味がわからなかったのではないかと思ったようだ。しかし、魔法という概念自体はこの世界には存在しているようだ。何故なら魔法という言葉がこの世界ではしっかりと変換されているからだ。
「あります。いえ、本当に魔法みたいな不思議な力を使う人がいるわけじゃありません。いるかもしれませんが、噂程度です」
それは自分たちの世界と同じだなと怜央は思った。
怜央たちの世界にも不可思議な力はある。いや、あるかもしれない。その程度だが、ないと結論付ける根拠もない。この世界の魔法もそのぐらいのものなのだろうと怜央は漠然に思った。
「それは私達の世界と同じだね。やっぱりいないんだね」
「多分。しのぶ様の様な魔法は初めてみました。あのくらいなら私も使ってみたいです」
「確かに使ってみたいな。でも俺にはしのぶや縁寿の真似は出来ないからな」
「先程の話ですね。全く私には理解できませんが、怜央様や佐奈様も使えるようになるのですか?」
「多分ね。このフォーアームにプログラムを送ってもらえれば出来るとは思うけど……」
怜央もあまり理解できていないのだが、自信はないがなんとなくこうなのだろうと思う答えを返した。
「やっぱり使えるのですね」
万里奈はプログラムの意味を全く理解していないのだろう。しかしそれでも自分なりに納得して答えているようだった。
そんな意味のない会話をしていると、突然拠点の入り口の扉がノックされる。誰かが訪ねてくるのが初めてのことだったので、皆が静まり返る。そんな中、万里奈だけが訪問者に対応する為に入口に向かった。
「どちら様ですか?」
万里奈は扉をあける前に訪ねる。
「国王よりの使者である。少しお話を出来ないだろうか」
万里奈は困ったように振り返った。この訪問者をどうすればいいのか判断に困っているようだ。
怜央は一応ここの代表として入口に向かい、そして扉を開けた。そこにいたのは西洋の甲冑の様なものに全身をつつまれ、性別さえ判然としない人が立っていた。声からすると男だろうが、少し威圧感を感じる風体だった。
「失礼する。まずはこれに目を通して頂きたい」
なんか見た目の割には腰の低い人だなと思いながら怜央は手渡された手紙を受け取り、その内容に目を通す。見たこともない文字だが、読めてしまうことにそろそろ違和感がなくなってきていた。
その内容は要約すると、目の前の騎士について城を訪ねてほしいというものだった。
「少しお待ちください。みんなで相談します」
「分かった」
怜央は了承をとると、みんなを集めて相談を始める。その間に万里奈は騎士に椅子を持っていって断られていた。
「さすがに断れないよな?」
「そうだね。どう見ても正式な国書だし」
良く見れば最後のところに誰かのサインが記され、そして明らかに王国の紋章が捺印されていた。
「でも、ギルドって国から独立した機関なんだろ? 断ってもいいんじゃないか?」
丈としては行きたくはないらしく、行くことに否定的だ。
「それは流石にまずいんだよ? 建前は独立した機関なんてなっているけど、実際影響受けまくりだと思うよ? 断ると私達ギルド『ディメンジョン』の立場が危うくなるかも?」
それを聞いて丈は嫌な顔をする。しかし怜央にとってそれは予想がついていた。
三国に色々な特権を与えられているギルド。国に特権を与えられている以上そこにしがらみが生まれる。それは人が何かを与える時、見返りを期待するのと同じだ。だから人が無償の行動をするとき、尊敬の念を抱かれるのだ。
「じゃあ、行くしかないんだよな」
「でも、話を聞くだけなら全員で行く必要はないんだよ?」
「まぁ、断る理由もないしね。佐奈と怜央、行ってきてくれる?」
まるで縁寿としのぶは示し合わせたように人数を限定して怜央と佐奈に押し付けてきた。
元々行くつもりでいた怜央にとっては行くことに別に文句はないのだが、こうやって押し付けられると抵抗を感じてしまった。
「私は別にいいけど?」
佐奈は何も疑問に思った様子もなく、即答する。そんな佐奈の答えに怜央は自分は小さいなと少し思った。
「分かった。ただ、このタイミングからみて新種の話だろうし、しのぶも来てくれないか?」
「えー」
しのぶは台詞を棒読みしたかのように全く感情のこもらない、同じ音を伸ばした。その声からは拒否しているのかただ文句を言っているだけなのか判然としなかった。
「で、来てくれるのか?」
「それぐらい別にいい。じゃあ、皆で行こうか」
しのぶはそう言って皆を巻き込む。さっきの少人数で行く話はどこに行ったのだろう。
「え? あたしも行かないといけなかったりするの?」
縁寿は本当に行きたくなかったのか、意外そうに言う。
「縁寿も来てくれないと。後悔するよ?」
「……なるほどねぇ。そういうことになっちゃうってこと?」
「多分」
「じゃあ、行こうかな」
何か二人の間で会話が成立しているようなのだが、何を話しているのかさっぱり怜央にはわからない。ただ縁寿も行くことになったという事だけはわかったので、詳しくは訪ねない。代りに丈に賛否を聞いた。
「僕も行くよ。一人で待っていても仕方ないしね」
実際は万里奈がいるわけだが、丈としてはギルドのメンバーの中でという主語があるのだろう。
「君たち、もめているところ悪いのだが、全員で来てほしいとのお達しだ。もちろん、こちらのお嬢さんも含めてだ」
騎士が示したのは万里奈。つまり、本当に全員で来いということだ。
そうと分かれば迷うことはない。すぐに支度をし、案内されるがままに馬車に乗り込んだ。しかし、六人も一緒に乗れないので、しのぶ、怜央、佐奈三人、万里奈、丈、縁寿の三人で乗ることになった。騎士は手綱を握ると馬車を走らせた。
「本当に全員連れて行く話だったみたいだな」
走り出してすぐに怜央は口を開いた。
「だね。きっちり馬車の席、人数分あったし」
「でもそれはつまり、こちらの事情を調べているってことでもある。やっぱり昨日の今日で決まった呼び出しではないのは確かだね」
確かにそれはしのぶの言うとおりだろう。ここまで用意周到ならばこちらの事情は筒抜けと考えるべきだろう。
ただ、分からない事が一つある。何の用かはわからないが自分たちの様な少数で実績もないギルドになんで声がかかったのかだ。
実は、ギルドの規模は大きいものは百人規模に膨れ上がる。そして大きなギルドは大体その大きさに比例して実績がある。要は数は人気を表すわけだ。そして、国からの依頼は信頼のあるそう言ったギルドが大体受けることになる。国からの依頼はそうやって直接信頼のあるギルドにいくようになっている。
今回は呼び出されている以上依頼ではないはずだが、全員が呼び出されている以上大切な話であるのは間違いない。そうなるとやはり自分たちのギルドが選ばれる意味が全く分からなかった。
「案ずるよりも産むがやすし」
「え?」
考え込んでいたので怜央はしのぶが何を言ったのかわからなかった。
「考えても無駄って言ったんだよ。行けば分かる。別に悪いようにはならないはず」
確かに考えても仕方がないことなのだが、それでも心配になってしまうのが人情というものだろう。そもそも単純に国王に呼び出されただけで怜央としいては会った時にどういう言葉使いで話せばいいのかで既に困っているのだ。小心者と言われようとそればかりはどうしようもなかった。
「ねぇ、失礼なこと言ったら打ち首にならないかな?」
佐奈も似たようなことで悩んでいたようで、真剣な表情で問いかけてきた。
この世界に打ち首なんて処刑方法あるのかとどうでもいいことも考えながら、少し暗い空気を漂わせながら、馬車は目的地を目指す。
「そもそもこれを引っ張ってるの馬じゃないけど馬車なのか?」




