「 雪の散歩道 」
半年前、この道を歩いた時は、未だ夏名残りの風が頬を撫でていた。
少し湿った少し夏草の匂いのする風が髪の毛を揺らしていた。
その風をやけに心地よく感じて歩いていたのを思い出していた。
彼の家へと続くこの道は、小さな駅の改札口からの一本道。
電車を降りたら、真っ直ぐに彼と私を繋いでくれている。
大きなお店や建物もなく、人気もないくらい。
時々、地元の車が通る程度で道の真ん中を歩いていても、ほとんど問題ない。
あの夏。
隣に目をやれば白樺並木。
遠くに目をやると小高い山が見える。
頭の上にある空はどこまでも青く高かった。
彼の住む町は、冬になると辺り一面、真っ白な世界になる、都会の喧騒からは程遠い静かな町。
忙殺の毎日を送っていた私は、けっこう無理して休みを取り、久し振りに彼の元へと電車を乗り継いでやって来た。
彼も彼なりの忙しい日々を送っていたから、聖なる夜を彼と過ごす為に、今年は私が彼の元へと。
瞬間……!
肌に突き刺さるような冷たい風が私の横を通り過ぎた。
気付くと、何か、白いものが舞っていた。
まるで、お伽話に出てくるような天使の羽のよう。
それは手のひらにも残らないくらいの、淡い淡い雪だった。
彼のことで頭がいっぱいだった私は、その淡雪にも気付かないくらいだったみたいだった。
あと十〇分もすれば、彼に会える!
あの笑顔に会える!
吐く息がだんだん白くなっていく……。
このまま雪が降り続いたら、今夜あたりは、もう、この道も真っ白になっているんだろうな。
そうだ!
明日の朝一番で、この道を彼とお散歩しよう!
遠くの山も道横の畑もこの道も真っ白な世界の中で手を繋いで!
キュッ、キュッ、キュッ……。
歩く度に、きっと、こんな音がするんだろうな。
彼、去年のクリスマスに贈ったマフラーしてくれるかな…!?
今年のプレゼントのセーターも着てくれるかな。
遠くに人影が見えた。
私の方に向かって、大きく手を振っている。
懐かしいような、恥ずかしいような、少し不思議な感覚。
そんな思いを抱きながら、私は、今は薄っすらと所々が白くなりかけているこの一本道を、彼の元へ走って行った。
「ただいま!」
~雪の散歩道 / 了~