「 もう一度だけのクリスマス・イルミネーション 」
この時期になると、頬に当たる風が冷さと反比例して、街全体が温かい空気に包まれる。
街路樹までがキラキラと輝き、都会で見えるくらいの星の煌めきなど、消えてしまうくらい。
道行く人々も、何故か楽しそうに見える。
サンタクロースの存在を本気で信じていた、あの頃。
大きな靴下を用意しては、何処にいるか判らないサンタさんへ手紙を書いていた。
「今年は、大きなスヌーピーをください!」
イヴの夜には家族でテーブルを囲み、父が特注して来た大きなクリスマスケーキを母がカットしていた。
傍らには、これも父が選んだ大きなモミの木が……。
イヴの一カ月前から、そのモミの木には日に日にデコレーションが輝きを増し、親戚から届いたプレゼントが、そのモミの木の下に置かれて行った。
家族で教会へミサへ行き、家族でクリスマスをお祝いし、家族で過ごしたクリスマスシーズン。
何時の頃からか、その家族の風景がなくなっていた。
日本へ戻り、自分も大人になり、クリスマス・イヴには彼と過ごすことが毎年の恒例行事になっていた。
彼がいない年は、わざとバイトを入れたり……残業を入れたり……。
早く帰って、家族と過ごせばいいのに!
クリスマスイヴを彼と過ごして家へ帰ると、私が子供の頃からの家族の恒例行事となっていた、大きなツリーと大きなクリスマスケーキが、淋しげに私を迎えてくれていた。
あの年……クリスマスの日まであと一カ月ちょっととなったあの日。
突然、父が逝った。
何も言わずに逝ってしまった。
残された母と私に、クリスマス・イブに届けられたものは、父が特注してあった大きなクリスマスケーキだった。
毎年、父が買ってくるはずだったモミの木はなかった。
「ツリーを見に行って来るよ!」と意気揚々と言って出掛け、そのまま帰って来なかったのだから……。
そして、今年もまた、この季節がやって来た。
もう、父から届けられるものは何もない。
サンタクロースが聖なる夜に願いを叶えてくれるなら……本当に私の元へ来てくれるなら……。
「どうか、もう一度、あの頃の家族へと戻してください。」
そうお願いする。
そして、もっと叶えてくれるなら、父の特注ケーキを届けてくださいと。
父が選んだはずの大きなモミの木を届けて下さいと。
もう一度、家族であの街を歩きたい。
クリスマス・イルミネーションで彩られた、生まれ育った街で笑い合いたい。
もう一度だけでいいから……。
I wish Merry Christmas to......
~もう一度だけのイルミネーション / 了~