表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

「 もう一度だけのクリスマス・イルミネーション 」

この時期になると、頬に当たる風が冷さと反比例して、街全体が温かい空気に包まれる。


街路樹までがキラキラと輝き、都会で見えるくらいの星の煌めきなど、消えてしまうくらい。


道行く人々も、何故か楽しそうに見える。



サンタクロースの存在を本気で信じていた、あの頃。


大きな靴下を用意しては、何処にいるか判らないサンタさんへ手紙を書いていた。


「今年は、大きなスヌーピーをください!」


イヴの夜には家族でテーブルを囲み、父が特注して来た大きなクリスマスケーキを母がカットしていた。


傍らには、これも父が選んだ大きなモミの木が……。


イヴの一カ月前から、そのモミの木には日に日にデコレーションが輝きを増し、親戚から届いたプレゼントが、そのモミの木の下に置かれて行った。


家族で教会へミサへ行き、家族でクリスマスをお祝いし、家族で過ごしたクリスマスシーズン。


 

何時の頃からか、その家族の風景がなくなっていた。


日本へ戻り、自分も大人になり、クリスマス・イヴには彼と過ごすことが毎年の恒例行事になっていた。


彼がいない年は、わざとバイトを入れたり……残業を入れたり……。


早く帰って、家族と過ごせばいいのに!


クリスマスイヴを彼と過ごして家へ帰ると、私が子供の頃からの家族の恒例行事となっていた、大きなツリーと大きなクリスマスケーキが、淋しげに私を迎えてくれていた。



あの年……クリスマスの日まであと一カ月ちょっととなったあの日。


突然、父が逝った。


何も言わずに逝ってしまった。


残された母と私に、クリスマス・イブに届けられたものは、父が特注してあった大きなクリスマスケーキだった。


毎年、父が買ってくるはずだったモミの木はなかった。


「ツリーを見に行って来るよ!」と意気揚々と言って出掛け、そのまま帰って来なかったのだから……。



そして、今年もまた、この季節がやって来た。


もう、父から届けられるものは何もない。


 

サンタクロースが聖なる夜に願いを叶えてくれるなら……本当に私の元へ来てくれるなら……。


 

「どうか、もう一度、あの頃の家族へと戻してください。」


 

そうお願いする。


そして、もっと叶えてくれるなら、父の特注ケーキを届けてくださいと。


父が選んだはずの大きなモミの木を届けて下さいと。



もう一度、家族であの街を歩きたい。


クリスマス・イルミネーションで彩られた、生まれ育った街で笑い合いたい。


もう一度だけでいいから……。




 I wish Merry Christmas to......




~もう一度だけのイルミネーション / 了~



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ