「 星空と彼 」
会社の帰り道、ふと、空を見上げた。
満点の星が輝いている。
昼間、風が強かったせいかな……都会の空にしては、やけに輝いて見えた。
なんだか哀しかった。
星とか大好きなのに……涙が出そうになった。
空でキラキラ光りを放っている星たちを見上げ中がら思ったんだ。
「彼も今頃、同じ星を見てるかな?」
そう思った途端に涙が出そうになった。
何故って?
夏に旅行に行った時。
山に囲まれた土地で、それは素敵な星たちに降り注がれながら、そっとキスしたんだ。
「好きだよ」って言ってくれたんだ。
その時は、現実から離れ、二人、幻想の世界に居た気がしていた。
彼も、そんなことを言っていた。
それは素敵な瞬間だった。
今、現実の社会に戻ってきて、お互いに仕事に追われる日々。
逢う時間なんて、ほとんどない。
そんな中、共有出来るものがあるとすれば、私達を取り囲む共通の自然。
昼間だったら、太陽や雲……時には雨。
夜だったら、月や星。
そして、肌に感じる風くらい。
だから、「彼も見てるかな」って、ふと思ったんだ。
でも……。
きっと、彼は見ていない。
「忙し過ぎて、足もとのアスファルトしか見ていないんだろうな」
そんな思いが頭を過ったから。
それが簡単に確信出来てしまう。
逢えないのは仕方ないけれど……。
それでも、せめて都会という現実の中で共有することが出来るものがあるなら、共有したい。
それが限られたものなら、尚更。
だって、こんなに近くにある自然のものだから。
ちょっと、上を向いたら見ることが出来るものなのに。
「綺麗だね」ってメールでも電話でも、違う場所で見ている同じものを一緒に感じることが出来るのに。
そして……。
忙しさで、心まで失って、綺麗なものを綺麗と思えなくなっている彼がいたとしたら……。
本当は、私が彼のそばで支えたいって思ったから。
そう思ったら、近くに居ることができない……立ち入ることが出来ない彼の世界が遠く感じて……。
彼自身が遠く感じて、涙が出そうになったんだ。
~星空と彼 / 了~