「 華舞の命 」part 2
もう、桜も終わりのこの時期、あの青い空をも埋め尽くすようなピンク色の世界に、所々、薄緑色が混ざった風景が目につくようになっている。
時折吹く風に身を任せるように、はらはらと舞い散る淡いピンクの花びらに自分の人生を重ねて見ていた。
毎年、春になり、桜の咲く時期、私はこの世に舞い戻ってくる。
そう……私たち一族に与えられた宿命。
そして、多くの人たちの視線を生命力に変え、こうして何千年もの間、生き残ってきた。
恋もする。
恋をして恋されて、相手からの強い視線を一心に浴びることで、その年の私の生命は保たれている。
それが、私の“やり方”。
桜の季節が終わると、そのまま消える。
……だから、心から人を愛することはない。
愛してはいけないことが宿命。
今年もその季節がやってきた。
この地上に舞い戻って来た瞬間、出逢いが待っていた。
いつものことながら理由などない。
目が合った瞬間が私と恋に落ちることを運命付けられた“相手”だから。
例え、あの人の掌で踊らされていると判っていても、その時が幸せならそれでいいと思っていた。
これで来年も華を咲かせることが出来るのなら、それでいいと思っていた。
しかし、今年、桜の時期が終わる頃、私は自分の一生を閉じようと決心した。
何故なら、今年の恋の相手を本気で愛してしまったから。
毎日のように私に逢いに来てくれては熱い視線で見つめてくれていた。
その瞳に本気で恋をし、いつしか愛に変わって行った。
もし、桜の季節が終わり、春に集めた人々の視線を生命力に変える儀式が待っている一族のもとへ帰ることが出来なかったら、それも生命の終わりを意味している。
それでもいいと……あの人の掌に触れられて命を絶つのなら、それでいいと。
美しく咲いた私の姿を見せるのは、あの人が最後にしたいと……。
“恋すること”と“愛すること”の違いを知ってしまった瞬間、本当の幸せの中に身を埋め、あの人の心の中で生き続けることが出来るのなら、それが私の宿命だから。
あの人は、私の一番綺麗だった時の姿を見つめてくれていた。
そして、私の生命色が薄くなった時、そっと私の腕を撫でながら「好きだよ」と言ってくれた。
緑色がこの世を染めて行く頃、あの人の心に抱きしめられたまま永遠の眠りについた。
一片の花びらをあの人の掌に残して……風に舞った。
私が生きた何千年という月日。
夢であったのか幻であったのか……今では幸せだけが残っている。
~華舞の命 Part2 / 了~