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「幼馴染み」


大学を卒業して、見事なまでに一社からも内定はもらえず、バイト生活。


親からは、小言の嵐。



「いいじゃんか、バイトでも仕事は仕事だ!」



という訳で、そんな小言を聞くくらいならと、バイトが終わると、用事もないのに街をフラフラとし、毎日のように終電で帰宅。


さすがのファミレスでも、そう毎日、フリードリンクだけで一晩中という訳にはいかない。


一人暮らしをするほどの稼ぎはないしで、帰宅を余儀なくされていた。



いつものように、終電に乗った。


酒臭いオヤジたちが心地よさそうに爆睡している車内。


そんなオヤジたちも、自分にとっては、「あれでも会社勤めしてるんだよな」と自己嫌悪を呷る対象物になっていた。


ドアのところにもたれて、ボーっと外の風景を見ていた。


ふと、すぐ隣から視線を感じた。


視線の方をみると、自分の同い年くらいのショートヘアのちょっと可愛らしい女子と目が合った。



「ダメだよ」


いきなり、そう言われた。


なんだ?


「ちゃんとお家に帰りなよ」


なんだ?こいつ。


「人間、いつどうなるか判らないんだよ」


新種の逆ナンか?


相手にすることはないと、また夜の闇に包まれた窓の外を見ていた。


「元気なんだから……」


しつこく煩いので、もう一度、その女子の方を見た。


「あれ?」


そこには、誰もおらず、ただ電車のガタンガタンという音が響き、向こうには相変わらず爆睡しているオヤジたちがいるだけであった。


自分には耳の痛いその女子の言葉ではあったが、居眠りでもしていた自分がいたのかと思うことにして、そのまま家に帰った。



玄関を入ると、母親が飛び出してきた。


「隣に住んでいた緑ちゃん、覚えてる?」


そう言えば、小学校5年くらいの時に突然引っ越していった幼馴染みがいた。


「その緑ちゃん、そこの病院に入院してるんだって」


その緑という子が引っ越して行く時に、大泣きした自分がいたことだけ、鮮明に思いされていた。



次の日、バイトの帰りは、自然と病院へと足が向いていた。


何故か、「行かなくてはいけない」という強い気持ちに支配されていたのだった。


その日、“その”時間に最寄りの駅を降りたことは、いやに新鮮に感じていた。


「けっこういいもんだな。こういうのも」


久し振りに味わった感のある夕陽も眩しかった。



病院に着き、母親から聞いた名前を頼りに病室へ向かった。


ドアを開けると、カーテン越しに夕陽を受け、静かに眠る女子の姿があった。



電車の中でいきなり話しかけてきた女子だった。




~ 了 ~



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