第九節 最終回の攻防
「ボー!」
「3ボール2ストライク」
フーと、一塁ベンチは大きな溜め息をついた。
(さて……申告敬遠はないだろうな?)
タカマサは依然として集中し、ピッチャー男を見つめていた。
「いやー、振ってくれると思ってたんだけどね。流石、一筋縄ではいかないか」
白球を返球しながら愛莉は言う。
(さて、球は少し荒れている。次は4番……。2アウトとは言え、ランナーを溜めては相手したくない。ここで、切るか。真ん中付近に構えても、ストライクゾーンに散らばってくれる……置きにいくなよ。腕を振ってこい!)
愛莉のジェスチャーを交えたサインに、男はコクリ、と首を縦に振った。
そして――、
「カァン!」
「カシャン!」
「ファウルボー!」
「キン!」
「どっどど」
「ファウルボー!」
「カァン!」
「カシャン!」
「ファウルボー!」
男はストライクゾーンに全力をかけたボールを放つ。負けじとタカマサはそれをファウルボールにして、粘る。
「キン!」
「どっどど」
「ファウルボー!」
ボールはバックネットや三塁側スタンド等に飛んでいき、この打席で計10球以上の攻防が繰り広げられた。
「ハァ……ハァ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
投手、打者の双方は徐々に体力を奪われて行く。
「あのバカ……」
〇△□×高校、野球部の監督はタカマサの行為を是としていなかった。
(まだ9回裏の守りが残っているんだ。今回は、マウンドをタカマサに任せる。1点差だろうが何だろうが、0に抑えてもらって勝利しなければならないのに……)
そして――、
「ビュン!」
「甘い!!」
「キン!」
タカマサは13球目を叩いた。
打球はレフトのやや右方向へ飛び、2バウンドして左翼手、奏夢のグラブの中へ納まった。
2塁ランナーの山田次郎が3塁ベースを回る頃、3塁ランナーコーチャーのか細い人は――、
「(レフトの正面じゃない、山田さんは足速くないけど、イケる……)回れ回れー!!」
山田次郎は3塁ベースを蹴る。
左翼手、奏夢は山田次郎が3塁をベースを蹴るのとほぼ同時にホームへ送球した。
ボールが帰ってくる!
山田次郎は本塁へとスライディング!
捕手はタッチに行きクロスプレーに。
判定は――、
「……」
「! ……」
「アウッ!! 3アウッ!! チェィンジ!!」
アウトの判定。山田次郎はタッチアウト。タカマサは送球の間に2塁へ到達していた。2塁塁上で呆然と立ち尽くすタカマサ。
「ハァ……ハァ……」
(アウト……点が……取れなかった……)
「……サ! ……マサ! おい! タカマサ!!!!」
「!」
気が付くと、目の前にタカマサのグラブを持ったキャプテン小山田と、コップにスポーツドリンクを持ったベンチ入りの人が。
「水分です。どうぞ」
「ああ、悪い」
タカマサはゴクゴクとそれを飲み始めた。次いで小山田が話しかけてくる。
「良いかタカマサ。飲みながらでいい、聞いてくれ。さっきの攻撃、惜しかったがナイスバッティングだ。点が入らなかったコトを悔いるなよ? 2-1だ。1点差だがこっちが勝ってる。相手はこれまでの8イニングで1点しか取れていない。次の9回に、その8イニング中の1点が入ったとしても、2-2で、負けるコトは無い。こちらは9イニングで2点取れている。つまりは俺らが負ける可能性は無に等しい! 分かったな!?」
「ゴクリ……ハイ!!」
「よし! 次の回、最悪1点取られても構わない、2点だけは取られない様に、根を詰めすぎるなよ、頼りにしてるぜ、エース!」
「分かりました! 1点以内に、抑えます!」
「ヘルメを」
「ああ、ありがとう」
ベンチ入りの人にヘルメットを渡し、小山田からはグラブを受け取り、タカマサは最終回、9回のマウンドへ向かう。マウンドに着き、プレート付近の地面をならすタカマサ。
(この回……この回を抑えればベスト4に……)
タカマサは気持ちの高鳴りを抑えられないでいた。キャッチャー山田は立ち上がり、両腕を上げて言う。
「さあ、あと3アウト! しまっていこー!!」
『応!!』