第八節 今日で一番長い打席
関東のどっかの高校野球選抜選手権大会予選の一戦。
エースタカマサ率いる〇△□×(丸さんかっけぇ死角無し)高校と、キラキラ高校との試合は佳境を迎えていた。
シチュエーションは、9回表。2アウトランナー2塁。バッターは3番投手タカマサ、打席上で吠える。
「こいやー!!」
気合十分。初球からストライクゾーンなら叩きに行く姿勢でピッチャーに対面する。
初球――、
「!」
「ドパァン!」
「ボー!!」
インハイのボール球。
「おい! こっちはピッチャーだぞ!!」
一塁ベンチは、相手ピッチャー男が投げた厳しいコースのボールにエキサイトする。それに対しタカマサ、右手を差し出し一塁ベンチの選手を制止する。
「! ……」
一塁ベンチはタカマサの心情を察し少し静かになった。キラキラ高校の捕手、愛莉はそっとタカマサに話し掛けた。
「キミはピッチャーでも、並のバッターじゃないからね。厳しくいかせてもらうよ」
「上……等……!」
タカマサは更に集中力を上げる。
第2球――、
「ビュン!」
「!」
「ドパァン!」
「ストラーイク!!」
インコースぎりぎり。タカマサはストライクボールを見送る形となった。
「! ……くっ」
「ボールに見えた? ウチのピッチャー、この勝負、今日一番集中できてるよ?」
愛莉はタカマサをドヤ顔で煽りおる。
「(相手も必死なのは……)トーゼン!」
――第3球、
「キン!」
「!」
「!?」
打球は!?
「どっどど」
レフトポール左横のファウルゾーンに吸い込まれていった。
「惜しい!」
タカマサは打席に入り直す。すると――、
「ほら、ピッチャーでも、並のバッターじゃない。それでも追い込んだね」
愛莉はタカマサに話し掛けてくる。
「……」
タカマサは無言で、立ち尽くした。
カウントは1ボール2ストライクと追い込まれていたが、精神的な面ではまるで追い込まれてはいなかった。
(ストライクゾーンは全部振る。クサイのも振る。最悪ファウル。空振り厳禁。ストライクからボールになる球に引っかからない!)
タカマサにはもう、ピッチャーしか見えていない。
4球目――、
「ビュン」
(ストライク!! 来た……! 振……)
「ググッ」
ボールはほぼストレートの速さで鋭く落ちていき――、
(スプリットか!!)
「ピクッ」
「パァン!」
「ボー!」
タカマサが出しかけたバットは何とか止まり、カウントは1つボールが増えて2ボール2ストライク。
(まだ1つ分ボールの余裕があるピッチャー有利のカウントだ。セオリー通りに行けばさっきよりもっと厳しくストライクからボールになる球を投げたいはず……しかし!)
タカマサは打席の土をならしながら考え事をしていたが、不意にピッチャー男を見つめる。
(集中しているとはいえ、このピッチャーがどれだけコントロール良くゾーンに投げ込んでこれるか……)
男はセットポジションから第5球目――、
「ビュン!」
「高めのスプリット! 甘い!!」
「カン!」
ボールは大きな放物線を描いてレフトスタンドへ――。
「!!」
「やられたか!!」
男は振り返りボールの行方を追い、愛莉はマスクを外し立ち上がった。ボールは――、
良く伸びていくが、ポールを巻くことはなく――。
「ファウルボー!」
「くっ! 惜しい!!」
タカマサは悔しさで顔を歪ませる。キラキラ高校サイドでは、フーと、大きくため息をつく男。一方で愛莉は――、
(シメた……。少々危なかったが、大ファールの後は空振りするって、相場が決まっている。アウトローにストレートだ。スプリットが目に焼き付いている頃だろう。振ったら三振、振らなくても見逃しで、抑えられる……!)
運命の第6球――、
「ビュン!」
(厳しい! スプリットか!?)
タカマサはコンマ数秒の世界で様々な思いを巡らせる。
(当てられるか? ボール? 見逃し三振……振れ! 2アウト……凡打……残塁……)
「ピクッ」
タカマサの出かかったバットは止まる。
「ドパァン!」
判定は!?