第七節 寺岡の大冒険Ⅱ
「クッソー! また入院になっちまったぜぇ~」
利用者kが嘆いていた。
ここは、精神病棟である。
利用者kは、ここの病院系列のグループホームに入居していたが退所し、一人暮らしを始めていた。初めは作業所に通っていたが、段々面倒になり生活保護を貰おうと、全財産を使い尽くし、市役所に行った。が――、食費が底をつきていた為、目が銀ギラ銀にさり気なくなっていた。不審に思った職員が警察に通報し、入院が決定したのである。
「利用者kさん、ちょっと……」
「?」
利用者kは精神保健福祉士のsさんに病棟内で呼び止められた。その後、利用者kは思い知らされた。生活保護受給の現状を――。
受給していても100万円ほどなら貯金していて良いコト――、無一文にならなくても良いコト――、今のご時世、受給の審査が厳しくなっているコト――、直前まで働けていた者が急に受給とか無理ゲー(作者の意見)なコト――。
(ナンテコッタイ……。俺は……なけなしのお金を無駄に……)
ショックでひざまずいていた利用者k。
と、そこへ――、
「なにをしょーるんなぁ!!」
「!?」
遠くで広島弁が聞こえてきた。声のする方へ進んでみる利用者k。
「おみゃあはここのベッドじゃなかろうが!? ここはワシのベッドじゃ!!」
「う~ん」
「!?」
そこには火の出る様に激昂している広島弁と、広島弁のものと思われるベッドに正座で座る寺岡の姿があった。
「こっちへけぇ!!」
「う~ん」
寺岡は広島弁に胸ぐらを掴まれ、立ち上がらせられる。
「おみゃあのベッドはこっちじゃ!!」
「う~ん」
寺岡は背中を押され、広島弁に廊下の方へと連れていかれた。
「はよう歩け!」
「う~ん」
「抵抗すんな!!」
「う~ん」
二人はとある病室の前まで辿り着いた。
「ここをみい! おみゃあの名前が書いてあるじゃろうが!!」
病室のネームプレートには、確かに『寺岡』と書いてあった。
「う~ん」
寺岡は、深々と頭を下げていった。
(どういうコトだ!?)
一部始終を追っていた利用者kは困惑した。
後日――、
利用者kは病院食の昼食を食べていた。
(味はそこまで悪くないが、ぬるい……)
昼食後、自室の病室に帰っていく利用者k。自分のベッドを見た途端、一つの異変に気付いた! 寺岡が、利用者kのベッドに仰向けになって寝ているのである。ご丁寧に掛け布団も掛けていた。
「おい! 起きろ!!」
利用者kは寺岡を夢の国から帰還させた。
「う~ん」
「! ――、」
利用者kには、寺岡がママに起こされる〇び太の様に見えた。
「!」
ふと、利用者kは寺岡の腕が目に入った。黒い、ほくろの様なモノがある。しかし、少し様子がおかしい。膨らんだような、奥行きがある。
「コレは何だ?」
「ほくろ……」
「何かおかしいぞ?」
利用者kはそのほくろらしきモノを爪でつついてみた。
「ニッ……」
そのほくろは浮かび上がってきた。角栓んぎもぢぃぃいいいい動画が大好物な利用者k、つねらずにはいられなかった。
「グッ」
すると――、
「ニニニニニニニニ!」
ニャッキが寺岡の腕から出てきた。
「わぁ!! 何だ?」
腕から出てきたニャッキをティッシュで拭き、寺岡は深々と頭を下げてきた。
「ん?」
利用者kは更に何かに気付く。
「顔にもあるぞ!」
「採って……」
「いいのか?」
「う~ん」
「行くぞ?」
「グッ」
すると――、
「ニニニニニニニニ!」
ニャッキが寺岡の頬から出てきた。利用者kは律儀にもそれをティッシュで採ってやった。
「見ろ……」
寺岡は再び、深々と頭を下げていった。