第四節 チャンスの後にはピンチ有り!
1アウト1塁で、続くは四番、ショート小山田。
「来い!!」
キラキラ高校、キャッチャー愛莉はチラリと小山田を見上げる。
「……」
初球――、外へ直球が――。
「ボー!!」
はっきりとしたボール球、小山田はピクリとも反応しない。
(へへ……)
小山田には何か思惑がある様だった。
第2球――、
「ビュン!」
真ん中高めへ――。
「ボー!! ツーボルナッシング!!」
ふふふと笑みを浮かべる小山田。
(分かる……分かるぜ……バッテリーを組んでなくとも分かる……このゲームが始まってからウチの重量打線につかまりっぱなしで今はクリンナップとの勝負、迂闊にストライクゾーンには投げられない。その中で振ってほしい釣り球を2球続けるも、相手バッターは手を出さず。1塁が埋まった状態で3ボールになっては勝負も敬遠も厳しいとなると……)
第3球――、
「ビュン」
「3ボールにもしたくないよなぁ!?」
「カン!!」
2ボール、ノーストライクのカウントからの甘く入ったストライクボールを、小山田はセンターへはじき返した。
「オッシャァァアア!!」
右手を天高く掲げる。堪らずバッテリーはタイムを要求した。結構焦っている。愛莉は男に話し掛ける。
「ランナー溜まってしまったね、男。もう“アノ球”を解禁するしかないんじゃないかな?」
「……」
男はだんまりで下を向いている。ふーと、溜め息をついた愛莉は口を開いた。
「大丈夫。絶対に後ろへ逸らしたりはしないから!」
「! ……」
男は数秒、愛莉を見つめ、
「ニチャァ……」
笑った。
次は五番、センター幸村。
「一気に畳みかけてやる……!」
右打席に入る。キャッチャー愛莉はチラリと幸村を見上げる。幸村はピッチャーのみに集中し、周りが見えなくなっている様子だった。そして、ぶつぶつとお経の様に独り言を繰り返していた。
「……。……。……」
その様子をまじまじと観察した愛莉。これはチャンスとピッチャー男にサインを送った。
(初球……。初球……!!)
(しめしめ、初球、行くよ)
幸村に対して第1球――、
「ビュン!」
「来た!! 手詰まりのアウトロー!! 俺は引っ掛けて凡退などしないぜ!!!!」
幸村は叫びながらバットを出す……!
が――、
「グッ」
ピッチャーから放たれた白球はストレートに近いスピードで鋭く沈んだ。
(!! スプリットフィンガーファストボール……!!)
キラキラ高校バッテリーが解禁したのは、スプリットだった。
「ガギッ!」
幸村は沈むボールを引っかけてつまり気味の打球をショートへ。
「! クソッたれ!!」
幸村は一塁へ向けて走り出す。キラキラ高校の内野陣、軽快にボールをさばく。6、4、3とボールは送られて、幸村、ショートへの併殺打に終わってしまう。
「! ――」
下唇を噛みながら悔しがる。その幸村は一塁ベンチへと帰る際に小山田とタカマサに話し掛けられた。
「幸村、今の球は……?」
「ハイ、小山田さん。落ちるボールです」
「ストレートと見分けがつかない厄介な球だな、幸村」
「……そうだな、タカマサ。心してかかるぞ」
一回の裏――、一番セカンド、光宙。
守備につく〇△□×高校のキャッチャー山田次郎は守備陣を盛り立てるため、掛け声を出す。
「さー、しまっていこう!!」
「応おう!!」
(さて、秋までに成長したタカマサ。1年にして直球は最速135k、スライダーのキレとコントロール抜群。スタミナもなかなかだ。そうは打たれない)
1、2秒程、下を向く山田次郎。
(あとは俺がしっかりリードしてやらないと……)
顔を上げ、ミットを構えた。
「プレイ!!」
審判がコールし、1回裏の攻防が始まる。山田次郎はタカマサにサインを送る。
(初球アウトローいっぱいに――、だ)
一番打者、光宙に対し第1球――、
投げた!!
(来た!! ドンピシャだ!!)
しかし――、
「キン! ――ドッドド」
バッター光宙へ投じた初球は、センターへとはじき返された。