第十一節 幕切れ
ラストバッターの結果はどん詰まりのピッチャーゴロ!
「よし! これで終わりだ!!」
タカマサはそれを捕球し、1塁に投げる……! が――、
「フラッ」
タカマサは膝から地面に崩れ落ち、倒れ込んだ。
「!? 何……だと……?」
送球は一塁手千葉の上を遥か高く超えていき、捕球はできず……。
「2塁ランナーも還ってサヨナラだぁああ!!」
三塁側ベンチはまさかの勝利に狂喜乱舞していた。
「やた……! やったー!」
ラストバッターはサヨナラピッチャーゴロに大喜びしていた。マウンドやや前方で横たわっていたタカマサ。
「タカマサ……」
捕手山田次郎は投手タカマサの肩を担ぎ、立ち上がらせた。
「整列だ……」
タカマサは悔し涙を帽子で隠していた。
「ゲーム!!」
『ありがとうございました!!』
タカマサはベンチに戻ってからも涙を流したままだった。
「! ……アイツ!」
一塁側スタンドでその様子を目にしていた松本は気が気でなかった。と、そこへ――、
「なんとかわいおうなたたあたきゅん……なぐさえてあえあちょう」
後ろ美人、kが現れた。堪らず松本はkがおこなおうとしている淫行を阻止すべく、彼女に立ちはだかった。
「何言ってやがんだ!! やめろォ!!」
「まぁ! まちゅもちょくん、わらちのあいにきるいれ……」
「ゴッ!!」
勘違いお花畑なkを、松本の鉄拳が襲った。一塁側ベンチにて――、
「スタミナ切れ……だな」
「!?」
〇△□×(丸さんかっけぇ死角無し)高校の監督は、泣き止まないタカマサに対してそっと話し掛けた。
「9回表の攻撃……あそこで待てのサインを送ってでも、見逃し三振させて裏の守りに付かせるべきだったか……? もしくは最終回、継投策に出るべきだった」
「!!」
「責任はすべて俺にある……タカマサ、お前は最後までよく戦ってくれた。胸を張って帰ろう!」
「! ……ハイ!!」
タカマサは目一杯に溢れ出る雫を堪えながら答えた。その頃、スタンドでは――、
(アイツ……。クソッ!! なんて声を掛けてやれば良いのか……)
気を失ったkの横に、松本が佇んでいた。
「アタイも居るぜ!」
イブキも居た。
「お前は黙ってろ」
松本は、イブキの首根っこをクレーンゲームの様に掴んで吊るし上げ、スタンドの椅子に座らせた。
「あー、アタイをモノ扱いしたー。いーけないんだーいけないんだー。せーん……」
(アイツ……あんなに優勢だった試合を、自分のミスで……)
松本はイブキを完全無視して携帯電話を取り出す。
「あー、こんだーむしかぁー!? そんなヤツぁー、かめむしこーげきだぁー。にぎりっぺ! ……くせー! くせーど!? オラァァン!! くせー……」
(アイツ……)
松本は再びイブキを完全無視して携帯電話を見つめる。
しかし――、
(なんて……なんて声を掛けてやれば良いんだ……!!)
それ以上の行動はとれずにいた。
翌月曜日――、
「おはよう!」
「おはよ」
「おはよー」
松本は学校に通っていた。
(アイツ……)
松本は、依然としてタカマサのコトを気に病みながら、声を掛けられないでいた。と、そこへ――、
「おはよう! 松本!」
「! タカマサ!」
タカマサが登校し、教室へと現れた。
「お前……この前の試合は……」
「俺のスタミナ不足だ」
「!!」
「表の攻撃は、裏の投球に備えてスタミナを温存するべきだったな。後は、これから二年目の夏に向けて、スタミナをつける為に走り込みや投げ込みをしないとな!」
「タカマサ……」
「何だ? 松本……?」
「強いよ、お前は――」
「ハハ、なんだそりゃ?」
こうしてタカマサの一年目の秋、春の選抜に向けての大会は、関東地方ベスト8に終わった。




