第十節 ラストバッター
9回、裏の攻撃は――、3番中堅守、天音。
(インコース……)
3番、天音は考える。
(インコースでカウントを取って、のけぞらせてからアウトコースにギリギリ決めて打ち取りに来る……)※深読み
第1球――、3番、天音に対し、投げた!!
「インコース!! でも……」
ボールの軌道はストライクボールではない。
(スライダーだ!! ここから曲がるはず……!!)
しかし――、
(曲がれ、曲がれ、曲がれ、曲がれ!!)
白球は曲がら……
ない!!
「!!」
「ガギンッ!!」
バットの根っこ、どん詰まりの打球はフワフワっと上がった。
「レフトー!!」
遊撃手小山田は言った。レフトボールと――。
「ショート!!」
左翼手フタエは言った。ショートボールと――。
「どっ!」
打球は不運にもレフトとショートの間に落ちた。
「わっ!!」
ノーアウトのランナー出塁に、三塁側ベンチは沸いた。
「すんません、小山田さん!」
「サッ」
謝るフタエを右手で制止した小山田はマウンドに近付き、言った。
「すまん、タカマサ。打ち取った打球だったのに俺らの声掛けが足りなかった」
「仕方ないっス。飛んだところが悪かっただけです」
タカマサは軽く返し、次のバッターを睨み付けた。
次は、4番投手、男。捕手山田次郎はサインを送る。
(ここは長打だけはダメだ。最悪、フォアボールでもいい。クサイとこついてしぶとく勝負していこう)
(初めから逃げてるようで気が気でないが……)
コクリとタカマサは頷いた。
「(逆転ツーランを浴びる様なマネだけはしたく)……ねェ!!」
「ビュン!」
ボールはアウトローギリギリへ!
(このコース、ストライク、ボールどちらに判定されてもおかしくない!! さあ、どうする!?)
捕手、山田次郎の頭で考えが駆け巡る!
しかし――、
「キン!」
「!」
「!?」
「どっどど……」
打球はレフトへ。
「二者連続のレフト前だぁああ!!」
三塁側ベンチは更に沸いた。それでも山田次郎は冷静にタカマサへ声を掛ける。
「ただの単打だ。しかも初球。4球投げてフォアボールよりよっぽど良い」
「ああ、悪い……次のヤツは必ず仕留める……!」
次は5番左翼手、奏夢。
奏夢は打席でバントの構えを見せる。キラキラ高校の監督、海音マリンは考える。
(クリーンナップのお前にバントのサインだ、さぞ悔しかろう……。しかしこれは勝負事、一切の私情は捨て、勝ちに拘ってもらうぞ)
奏夢に対し、第1球――、投げた!
「ビュン!」
「コツン……」
奏夢はバント、打球は三塁手セキズの前に転がり、一塁へ投げるしかなかった。
「パシッ!」
「アウッ! 1アウ!!」
(流石にうめえな……)
セキズは三塁側ベンチを睨み付ける。そのベンチでは――、
「初球から行かなくても良かったんだぞ、奏夢。何も1球で1アウトくれてやらなくてもいい」
「……」
黙り込んでしまう奏夢。
「でもナイスバントだ。よくやってくれた!」
「ハイ!!」
完全に押せ押せムードの三塁側ベンチ。サヨナラのランナーを2塁に背負ったタカマサだったが、彼は、
笑った。
(いいぜぇ……このピリピリとした緊張感……堪んねぇな……。ここで抑えてこそ、真のエースだ……!!)
次は、6番右翼手、一心。
「ビュン!」
「ドパァン!」
「ストライーク!!」
「ビュン!」
「カッ!!」
「ファー!」
「ビュン! ググッ」
「ブン!」
「ストライーク!! バッターアウッ!!」
ストレート、ストレートからのスライダーで、タカマサは三振を奪った。
「よっしゃー! 2アウトー!! あと一人だ!!」
小山田が声を上げる。
「……」
捕手山田次郎は考える。
(結果的に3球三振にできた……。タカマサ、凄いピッチャーだ。一緒にバッテリーを組めて良かった……)
「ブルッ」
山田次郎は少しだけ武者震いを起こした。
(あと……1アウト)
タカマサは、ここに来て更に集中力を上げる。
ラストバッターに対し第1球――、
「ビュン!」
「ドパァン!」
「ストライーク!!」
アウトロー、ここにしかない1球を放った。
(あと……2球……)
(くっそー、絶対打ってやる。ヒーローになるのは、僕だぁー)
ラストバッター、ディスボールを何としても打つぞと、身構える。
次の1球――、
「ビュン!」
「振る!!」
「ゴシャァ……」
結果はどん詰まりのピッチャーゴロ! タカマサはそれを捕球し、1塁に投げる……!




