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第九話~王国~

 

「此度の首輪の件、もはやここに居る者は全員関係者、話しておくことが筋と余は見た。故にテツジにも話を聞いてほしい」


 そういって持っていたマジックバックから何かの魔道具を取り出し起動させるヨアンナさん。

 余りの手際に驚く俺やロバートさん、エレーナさんは掛けられた魔法の効果が分かっているのか無反応です。

 ポカーンとしている俺の顔を見て「あぁ」と言って


「すまぬな、諜報の心配もある故、音声遮断の魔道具を使用させてもらった。これでこの部屋で話していることは外には一切聞こえないので安心してほしい」


「あぁ、そういうことが・・・・ったく魔道具使うなら先に声かけろってんだ」


 そういって頭をかくロバートさん。エレーナさんはといえばテーブルの中央に傘のようなものを展開してふよふよと浮いている魔道具に興味津々のようです。


「ははぁ・・・なるほど、こいつが帝国の新型かい?」


「うむ、我が帝国自慢の研究開発部の新作だ。以前のに比べて性能も段違いに上がっておる」


 フフンっと自慢気な顔をするヨアンナさんに「あ、これはちょっと不味いな」と思い声を掛けます。


「あ、すみません。それで音声遮断の魔道具まで使って外に漏らしたくない話ってなんですか?」


「ん?おぉ、そうだった。また盛大に寄り道するところであったな」


 今揃っている元冒険者パーティーの面々にはそれぞれ話に地雷が存在します。

 エレーナさんは魔法や歴史の話をすると止まらなくなりますし、ヨアンナさんは帝国の自慢話になると止まらなくなります。

 聞いた話ではロバートさんはご家族と兄妹の話が地雷の用ですね。

 このままだとヨアンナさんの帝国自慢の話で脱線して本題に行くまでに夜が開けてしまう可能性があったので、急ではありますが話の路線を元に戻します。


「話というのは他でもない、テツジお前が開錠したあの宝箱の中身についてだ」


 まぁ分かってはいましたがやはりその話になりますか。

 これは真面目な話題だな、と思い俺も居住まいを正します。


「アレの管理は余が責任を持って行う。既に城の地下深くにある禁物庫に封印する予定で動いておる」


 禁物庫、その言葉に反応する二人に対して、俺は言葉の意味から察することしかできませんがかなり重大な事なんだと思います。ここで質問しても話がそれるだけなのでヨアンナさんの話を黙って聞くことにします。


「禁物庫を開く理由はいくつかあるのだが、一番大きな理由はなぜか王国が「この宝箱は我々の物、それを冒険者が盗んだ」という主張で帝国に抗議しに来ておってな」


「バカな!!あれは間違いなく希望の星の連中が王国のダンジョンから持ち帰ってきたものだぞ!!」


 立ち上がり拳を握って声を荒げるロバートさん。


「あいつらが命がけで取ってきた宝箱だぞ・・・借金まで背負って。ふざけやがって・・・!」


 血がにじむほど拳を握り、歯ぎしりさえ聞こえてきます。


「まぁ落ち着くがよい。お主の姪達がこの宝箱を正当なルートで手に入れたのは疑いようのないことだ・・・ただな」


 そういって俺を見るヨハンナさん


「テツジよ、この宝箱の錠前はこの世界の技術作られたものか?」


「・・・・いえ、恐らくは違います」


 ここは少し迷いましたが素直に答えておきます。

 この世界の文明がどのぐらい進歩していたかはよくわからないので一概に作れないとは言えませんが、少なくともこの世界の錠前のレベルはまだピンシリンダー錠までは達していません。

 シリンダー錠の技術はあるかもしれませんし、大きさを巨大にすれば恐らく再現可能だとは思いますがあの箱に付いていた物は元の世界の一般家庭に付いているのよりもっと小さいタイプ。あんな小さなピンの加工やバネの加工がこの世界で可能だとは思えません。

 とすれば、あの箱に付いていた鍵は、現時点でのこの世界の技術よりも遥か先に行っている。そう思うのです。


「で、あろうな。テツジが持つ異世界の進んだ技術だからこそ開けられたのだろう。であればこそ王国の連中が「箱が我々の物であるという証拠に我々にはそれを開ける鍵を持っている」と主張してきていてな」


「なにぃ?本当かそれ」


「あぁ、外交ルートと隠者を使って調べさせたがどうやら本当のようだ」


「アタシも確認したけど本当らしいね、どうやら唯一神教も入手に絡んでるようだよ」


「うむ・・・テツジよ、鍵の形状なんだが隠者が模写してきたものがこれだ」


 ヨアンナさんから渡された羊皮紙に書かれていた鍵の形状は確かにシリンダー錠でよく使う鍵の形状でした。


「差し込んで回してみないと分かりませんが・・・恐らく間違いないと思います」


「そうなれば、この世界で唯一、あの箱を開けることができる王国があの箱の持ち主だと主張してもおかしくはないのだ」


 なるほど、暴論ではありますが「開かない箱の鍵を持っている自分が持ち主」というのはある意味で正しい主張なのでしょう。


「そもそも王国の奴らも、帝国では箱を開けることが出来ないと高を括っておるのだろう。だがそれもテツジが箱を開けたことで状況が変わった。開かずの箱に入っていたものが三国条約や天空神教で禁じられておるアレであるからな」


 アレは恐らく「隷属の首輪」の事でしょう。先ほどから頑なに名前を言わないのは万が一のことを考えての事だと思います。

 そして開かずの箱を帝国に住んでいる俺が開けた事で、先ほどの王国が言った暴論は通用しなくなった、ということなのでしょう。

 更に言えば最悪この羊皮紙と箱があれば合鍵の作成も可能ですし、箱を開ける手順も俺の手元にあるメモで分かります。

 完全に王国が持っていた優位性は崩れ去った・・・ということなのでしょう。


「ただし、アレを王国の連中に突き付けたところで「帝国で中身をすり替えられた」と言えば言い訳が出来てしまう。だからこそ中身はこちらで処理し、箱だけを王国へ返してやるつもりだ」


「ちょっとまて、箱を返したら希望の星の借金はどうなる?」


「そちらも気にしなくてもよい、借金と治療費は国庫から出してやろう。希望の星はあの箱を持ち帰ったことで王国の手にアレが渡るのを阻止したある意味では英雄なのだからな」


 なるほど、名案ではありますね。

 箱を開いたことは秘密にして、中身の危険物はあちらにわたる前に処理。空の箱を返しても彼らは中身について言及できませんから、これで万事解決・・・という訳なのでしょう。

 希望の星の借金もどうやら国が肩代わりしてくれるようですので心配要らないようです。

 ロバートさんもほっと胸を撫でおろしています。


「しかしヨアンナ、随分と王国を警戒するじゃないか・・・今は次の王様決めるために王子共が争ってるって聞くけどなんかあったのかい?」


「あぁ、どうやら現状最有力候補の第三王子が自分の手柄の為に三国条約を破って共和国に戦争を仕掛けようとしている動きがあってな。どうにもきな臭くなってきているのだ」


 共和国に戦争、というところでエレーナさんの耳がピクリと動きます。

 共和国は確か獣人族やエルフなどが多く住む地域でエレーナさんの生まれ故郷でもあると聞いた事があります。

 自分の故郷に戦争の危機迫っているとあれば、気になるのは当たり前でしょう。


「王国の第三王子がバカだってのは聞いてたけど、そこまでなのかい?」


「うむ・・・挙句に「王国との同盟を継続させたいというのであれば姫を娶らせろ」などと言っておるようだな」


「それは・・・・」


 娶らせろと言っていますが遠回しに「人質として送ってこい」という奴でしょうね・・・。

 なんというか、やりたい放題ですね。王座争奪戦でこういう人が功を焦るというのは、ラノベやドラマでよく見ますが、この人もそうなんでしょうかねぇ・・・。


「そもそも三国条約で交わされた同盟は共和国・帝国・王国の立場は対等と記されておる。数百年に及ぶ正の伝統を反故にするとはなにを考えておるのか・・・」


 やれやれと言って首振るヨアンナさん。大分呆れているようです。

 ロバートさんやエレーナさんも同じのようで大分お酒が進んでいますね。元々ペースが速い人達ですが、今日は特別のようです。


「それで、だ。テツジよ、お前に一つ頼みがある」


「はい?何でしょうか?」


「ほかでもない、この宝箱なんだ、開けることが出来たのならもう一度閉めることは出来るか?」


 そう言って腰のマジックポーチから宝箱を取り出しました。

 ぱっくりと口を開けている宝箱には、収まっていた首輪は既に無くなっていますね。

 開けるのには苦労しましたが、閉めるほうは簡単にできる気がしますね。


「恐らくですが出来ますよ?ちょっと貸してもらっていいですか?」


 そう言って宝箱を持ち、作業台へ移動します。

 宝箱の蓋を適応な重しで開かないように固定し、鍵穴を適当な順番で回していきます。

 予想通り、明るく輝いていた赤い宝石から光が消え「ガチャン!」と開くときよりも大きな音がして施錠されました。


「出来ましたね、これで閉まったはずです」


「ほほぉ!流石だな。余の見立てに間違いはなかったな!」


 そう言って喜ぶヨアンナさんの横で、何か思い付いたのかかなり悪い顔したロバートさん。


「しかし、このままそれを王国に渡しちまうのは面白くねぇなぁ・・・テツジなんか面白い仕返しの方法ないか?」


「仕返しですか・・・」


 仕返しと言われてもなぁと思って作業台の周りを見回して、一つ思いつきました。

 元の世界でやると間違いなく警察沙汰になる、絶対に真似してはいけない悪戯。これをやられると本職ですらイライラするという奴・・・。


「あぁ、いいの思いつきましたよ。鍵穴に鍵差し込んでも回らないようにしてやりましょうか」


「マジか!そんなこと出来るのか?」


「えぇ、比較的簡単な方法で出来るんですよね。多分こちらの世界の人なら何されたのか分からないと思いますし、証拠も見つけられないと思いますよ?」


 ガハハと豪快に笑うロバートさん。ヨアンナさんもエレーナさんもノリノリですね。


「いいじゃないか!テツやっておやりよ!」


「それはいいな、開けようとして鍵を必死に回す姿を想像すると今回の事も多少気が晴れるわ!」


 そんな感じでいい年したおっさんとおばさんがゲラゲラと笑いながら酔った勢いで宝箱に細工をしていきます

 細工の方法は・・・まぁ秘密としておきます。

 簡単な細工をしている間に、少し気になったことがあったのでこの際なので聞いてみます。


「そういうえば例のアレに俺が触れそうになったとき、エレーナさんやレベッカに止められましたけど、あれって触って危ないものなんですか?」


 素朴な疑問ですが、ずっと気になっていたんです。

 首輪というからには首に巻くものだということは分かりますが、それがなぜ触ってはいけない事になるのか。

 その疑問に「あぁ」といいエレーナさんが答えてくれます。


「アレには最初に触れたものを「マスター」として登録する魔法が掛けられてあってね。ほら、装着する相手が誰彼構わず服従しちまったら、誰が主か分からなくなるだろ?そうならないように一度だけ最初に触った奴を「主人」として登録しちまうわけさ」


「あぁ、なるほど・・・だから触ってはいけないわけですね?」


「そうさ、おまけに「鑑定」の上位魔法「解析」を使えば誰が主人かなんて一発でまるわかりだからね。あんな物の主人になんてなろうものなら、帝国じゃ」


「死罪だな」


 首を切るジェスチャーをしながら笑うヨアンナさん。皇帝陛下直々にこんなことを言われると洒落になってませんね。


「おまけにアレにはかなり強い魔力が掛かってるからね、テツみたいに魔力が一切ない人間は危険性が分からないうえに、不思議な力を感じてついつい触っちまうのさ」


 あぁ、だからあの時「不気味だ」とか「禍々しい」とか思ってしまっても手を伸ばしてしまったわけですね。あの時瞬間的に止めてくれたレベッカには感謝しないといけないですね。


「ん、あれそういえばエレーナさん。あの後レベッカはどうしたんですか?」


「あぁん?」


 言ってから後悔しましたが、酔いも回っているのかエレーナさんの顔が物凄い不機嫌になります。


「・・・あぁ、あの後少し仕事の話をしてね。機嫌よく帰っていったよ。ったく思い出しただけで腹が立つ・・・。」


 そう言って更に勢いよく酒をあおるエレーナさん。いかんなんかスイッチ入ったかもしれない。


 宝箱の細工が終り、それをヨアンナさんに渡して俺も席に戻ります。


「とりあえず、そのカギには外側から見ても気が付かないように細工がしてあって、鍵が刺さらない様にしてます。万が一刺さっても回らないように弄りましたので」


「これはいい、早速明日にでも使者に渡して帰ってもらおうか!」


 うきうきと、まるで新しい悪戯を思いついた子供のように喜ぶヨアンナさん。相当楽しそうです。

 一方その横でブツブツと言って不機嫌な感じになっているエレーナさん。急にくるっとこっちを向いたかと思うと満面の笑みで椅子を持って隣に座るエレーナさん

 突然肩を組んだかと思うと酒臭い顔を近づけてきます。


「大体さテツゥ?そもそも女に組み伏せられるって鍛え方が足りないんじゃないのかい~?」


 完全に目が座り、酒臭い吐息を吐きながら言うエレーナさん。完全に酔ってますね本当にありがとうございます。

 真横にある美人の顔、本来であればご褒美でしょうが、この場合拷問です。

 何とか助けてほしいと視線を送りますが、ヨアンナさんはこちらを指をさして爆笑してますし、ロバートさんも巻き込まれたくないとそっぽを向いています。


「そもそも年増年増って、アタシだってまだまだピチピチだよぉ?人間で言ったらまだ20歳ぐらいなんだぞぉ?分かってんのか?あぁ?」


 ・・・・こうして本日最後のお仕事「酔ったエレーナさんの世話」の火ぶたが切って落とされました。


 今日も一日色々ありましたが、俺の異世界なんでも屋生活は今日も一日楽しかったなぁと思います。


「聞いてんのかぁ!?テツゥ!?」


「はいはい、聞いてますよ・・・もう」




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