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ポストスチーム  作者: 般若湯
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アルビノの少女

 ドリアードたちはイルミンスールを大分して三つの階層に分けて呼んでいる。地面や根の辺りを下層、幹を中層、枝葉を上層、と。

 植物としての性なのか、一部を除き、上層に上っていくほど裕福なものが暮らすようになる。


 ただ、具体的な理由もあり、枝葉のおかげで、土地面積が広いというのものがある。がそれ以上に、下層には体長が5メートルを超える様な害獣——基、害植が定期的に襲いに来るため常に危険が伴う。

高度な文明を持つドリアード達でも、巨大な生き物相手になると一手間ではいかない。そのために体が小さいドリアード達は安全を求め、イルミンスールへとやって来た。


 そんな下層に一人のアルビノの少女がいた。ボロを纏った真っ白な肌に、枯れ葉の様に茶色い髪をしている。

 

植物にとってアルビノとは、光合成を行う光合成色素を失うという事である。光合成をしないギンリュウソウのような植物でもない限り、種子の栄養を使い果たしたと同時に死んでしまう病である。

 この少女がまだ生きているのは偏に、ドリアードは草食植物であるからだ。とはいっても危険な状態に違いはない。


 少女はただ歩くだけでも息苦しそうにしている。少女は、何処へ行くでもなく下層を徘徊している。


 


 下層にタバコ屋を営むドリアードがいた。エーテルによる蒸気があふれるこの地でも、それなりに人気があるようで、他よりも濃い蒸気が漂っていた。


「ヘルヴィンさんいつもの頼む」

 松の葉のようにトゲトゲとした髪を持つ大男が、煙管をヘルヴィンと呼ばれた店主へと渡す。しかし、江戸時代の刻みタバコと違い煙管に虹色に輝く液体を注ぐ。

 これは液体状のエーテルであり、この液状エーテルを熱することで気化し、タバコを吸うことができる。見た目や仕組みは電子タバコに近しいものだが、出てくるのはエーテルの蒸気なので、水タバコの様なものだ。


「ふー……で、ヘルヴィンさん。そっちのお嬢さんは、お子さんか?」

「え?」

 大男がタバコをふかしながらヘルヴィンへ尋ねる。男の視線の先には、濃い蒸気の中で休憩しているアルビノの少女がいる。一目見ただけでも随分と弱っている様に見える。


「いや、知らないね。……お嬢さんどうしたの? 両親は?」

「……ん? 知らない」

 少女は自分に話しかけられたと気付いてそう答えるが、反応に困る大人二人。


「迷子かな? どう思うコニファー君」

「さぁ、それこそ知らないな。だが、捨て子じゃねえか。ただの迷子があんなボロボロになるか?

 それに、あの白い肌に茶色い頭、アルビノってやつだな」

 コニファーと呼ばれた大男は、「下層では病気な子供はよく捨てられている」と語る。この12ほどの少女もその一人だとそう考えたようだ。

 実際下層には、老若男女様々なホームレスのドリアードが多くいる。たとえどれだけ技術、文明が発展していても、イルミンスールの土地が限られている以上格差が絶えないのだ。

 

「ねえお嬢さん、お名前は? どうしてこんなとこに?」

「ええと、トリアリーっていうの。ここにいるとね、息がね楽になるの」

「そう、アリーちゃんっていうの。僕はヘルヴィンギア・グルーム。ここでタバコ屋の店主をしているんだ」

 ヘルヴィンが店から身を乗り出す。頭には花筏の花が編み込みの様に並んでいる。少女ことアリーほどではないが、白い肌をしており、中性的な外見をしているが、おそらく男性だろう。

「で、こっちのがうちのお得意さんの、コニファー・ガーデン。それなりに儲けている探偵さんなんだよ」

「やめてくれよヘルヴィンさん」

 まるで、言葉の後にたくさんお金を落としてくれるとでも付きそうなセリフに、いやそうな顔をする。が、事実なので多くは言わない。そのかわり。

「呼吸が楽になるか、わかるぞアリー。濃厚なエーテルを吸うと頭がはっきりとするもんな。俺たちドリアード、特に頭を使うような仕事には欠かせないものだな」


「なるほどね、光合成の変わりってことか。じゃあ、アリーちゃんこれをプレゼント」

 ヘルヴィンが渡したのは煙管の一種なのだが、吸引剤のように大きなものだった。コニファーが持つ煙管と比べ、内容量がかなり多そうだ。

 ヘルヴィンが使い方を教えていく。吸引部を咥えながら、上部からエーテルのリキッドを差し込み、グッとリキッドを押し込む。すると機械音がし、吸引部から蒸気が出てくる。


 蒸気の量に驚き、アリーは思わずむせこんでしまう。が、少しほど顔色がよくなった気はする。顔色は相変わらず白いことには変わりないのだが。

 今度は自分でリキッドを押し込み、動物でいうところの肺いっぱいにため込み、勢いよく吐き出す。

 人間社会では未成年者喫煙禁止法が真っ赤になりそうな光景だが、ドリアードからしたら小さな酸素缶の様なものなのだ。多用しすぎると酸素分圧ならぬエーテル分圧が上がり、エーテル中毒になる危険があるが。


「で、どうするんだヘルヴィンさん。そんな餌付けみたいなことして。なつかれても知らないぞ」

「まさかもちろんタダじゃないよ。値段相応に働いてもらうよ」

「……あー、ヘルヴィンさん? こんな少女をどうするつもりだ?」

「コニファー君最近仕事どう?」

「どう、とは?」

「いつも、依頼が増えてきて手が回らないって言ってなかった?」


「……雇わないぞ? 確かにこの前助手募集の張り紙を作ったが、子供を助手にして何になる? 慈善事業じゃないんだぞ」

「何事だって、使いようだよ。厳つい男だけじゃ色々と大変なこともあるでしょ。これも何かの縁だって」


 アリーは、自分に関しての話だとは分かっているが、内容までは分からず黙って聞いている。そんなアリーを見ながらコニファーは頭をひねる。実際問題、人として、ドリアードとして身元の分からない少女を放置するわけにもいかないのだろう。

 金は入らないが親探しをするのか、児童保護施設に預けるのか。しかし、アリーを捨てたと思しき親元に返すのは話にならない。

 それに、アルビノのアリーを育てようと思ったら、かなりのお金がかかることだろう。アルビノの簡易処置として、濃いエーテルを取り込むことで症状を抑えることをできる。

 しかし、先ほどヘルヴィンが渡したエーテルのリキッドは、それなりの価格をしている。児童保護施設が育てられるものなのかは少し不安が残る。


「まあ、助手として雇う気はないが、お茶出しくらいならできるだろ」



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