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ポストスチーム  作者: 般若湯
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エーテルとポストスチーム

 ジッ、ジジー……


『ようこそ、イルミンスール紹介ビデオへ。

 今日は皆さんと一緒にイルミンスール周辺の地理や()()()()()の歴史、生活を学んでいきましょう!』


 5年ほど前に作られた、教育ビデオが流れ始める。画面には、声の主だと思しき桜の様に綺麗な髪をした女性が、カメラに向かってはきはきと喋るっている。

 場面は変わり、平野が映る。それはただの平野ではなく、辺り一面に玉色に光る蒸気が満たしている。そんな環境にも関わらず、様々な植物が青々と生い茂っている。


『ここは、イルミンスールから西に行った場所にあるレラーズです。まずは、ここで私たちの生活を支えてくれているエーテルについて、学んでいきましょう。

 では、空を見上げてください。空から降り注ぐこの七色に綺麗に輝く蒸気がエーテルです。私たちは()()()や呼吸をすることでエネルギーに変えたり、色々な機械の動力源となっています』


 画面は女性の声と共に上へと向き、空を映す。しかし、そこに青空も曇り空もなく、蒸気が映るのみ。映像的に地味だったためか、イラストへと置き変わる。

 空の断面図が映り宇宙のはるか彼方から、七色の蒸気が降り注ぐさまが映されている。次に人体の絵が映り、髪や口から蒸気―-エーテルが入り体を満たした。すると、人体が分かりやすく血気盛んに動き回る。

 また、絵が変わり、今度はテレビや車など多種多様な機械をエーテルが満たしにぎやかに稼働しだす。


 カメラが平原に戻ると、見上げるほどの巨体と樹皮の外表をも持つ生き物がゆったりと歩いている。一見気に擬態する虫の様にもい見えるが、虫やましてやどの動物ともにつかぬ特徴を持っていることが見て取れる。

 しかし、ありふれた生き物なのか、これには触れずビデオは次の話題に移る。


『さあレラーズから東、つまり私たちが住むイルミンスールです』


 大きな生き物が通り過ぎると、天を貫く、巨大じゃ足りぬほどの巨木が生えていた。目を疑うがこの、巨木がイルミンスールなのだろう。

 イルミンスールには金属でできた添木や支柱がいくつもあり、これだけでちょっとした林に見える。それに、複数の添え木が支えているさまは、近未来的なテクノロジーを感じさせる。

 添木達は当然の如くイルミンスールほどのサイズがあり、エーテルと呼ばれる蒸気のせいか錆に覆われている。


『イルミンスールは古代の特徴を残したまま巨大化した植物です。私たちの先祖はこの木に移り住み、発展を遂げてきました。

 ここで様々な文明開化があり、今から100年前蒸気機関が発明され、今まで続く産業革命がおこりました』


 画面はまたイラストに変わり、イルミンスールの上で発展していくさまが描かれている。彼らドリアード達が他の生き物や自然から逃げ、宗教が始まり、政治や法がひかれ、科学が発展する。そして、エーテルを使った蒸気機関が作られ技術革命が爆発的に広がった。

 

『では、イルミンスールのいくつかの場所を見学してみましょう。

 はじめに、農場を見学してみましょう。ここでは、イルミンスールに生る果物を収穫したり、イルミンスールが枯れたりしないように管理するお仕事をしています』


 場面は、イルミンスールの枝の上に移る。そこではたくさんのドリアード達が、身の10倍はある木の実を収穫したり、葉や枝を見てイルミンスールの健康状態を見て世話をしている。

 枝葉には、落ちないように錆きった柵が立ててあり、行き来できるようにいくつもの鉄橋や動物的な形を模した飛空艇が飛び交っている。

 ビデオでは一人のドリアードにインタビューをしている。意気込みだけの中身のない話が続いた後に、また場面が変わる。


『次はイルミンスールの心臓部、工業地帯です。

 ここでは、毎日大量の蒸気発電でエネルギーや機械製品が作られ、公共施設や私たちの家庭へ送られます』


 工業地帯では、枝の様に大量に煙突が伸び、エーテルを吐き出している。吐き出されたエーテルはイルミンスールの枝葉に絡みついていく。今にも枯れてしまいそうだが、イルミンスールはエーテルの燦々とした光によって、どんどん光合成している。

 大型の車がいくつも行きかい、資材や機械部品を運んでいる。農場と違いどこもかしこも忙しない。


『では、最後に歴史博物館にお邪魔しましょう。

 ここでは、先史人類について収集、保存し先史人類についての研究や一般向けの展示が行われています。

 先史人類とは、ドライアドが誕生するはるか前、未だ多種多様な動物界の生き物たちが栄えていた時代

。動物たちの頂点にホモサピエンスという動物がいました。彼らは、ドライアド同様文明を築きました。

 その科学技術はドライアドを大きく超えて宇宙へ届くほどだと言います。しかし、天下はそう長く続かず、ある日絶滅してしまいました。しかし、その威光は潰えることなく、今もこうしていくつかの遺産が残っています』


 博物館には、よほど保存環境が余よかったのか、石板や書籍や鏡の一部など既視感のある物品がいくつも並んでいる。

 しかし、博物館とは言うもののその様は神社仏閣をどこか連想させる。知的生命体、人類としての先祖として信仰心に似たものを抱いているのかもしれない。でも確かに、人類の遺産というのは下手な教本よりもよっぽどいいものかもしれない。


『今、私たちが使っている蒸気技術も先史人類の遺産から学んだものです』


 ビデオの中の女性は言う、エーテルを使った蒸気技術やドリアード達が築いた今の時代を指して第二次蒸気(ポストスチーム)と。



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