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7話 異世界にテンプレを求めるのは間違っているだろうか


「………」

「………」


 二人は始まりの町、スタテリアに来ていた。朝早く出発し、たまに現れる魔物を討伐し、町のすぐそばまでやってきた。町はもう目の前だ。にも関わらず、彼らは立ち尽くしていた。何故か。それは一つの看板が原因だった。


「なあ、ルノア。俺の見間違いか?町の入り口のすぐ横に魔界への入り口の看板が置いてあるのは?(たち)の悪いいたずらだよな?」

「残念ながら現実ですね」


 二人は問題の看板を見る。


【ここから西へ1キロ進んだところに魔王の拠点、魔界があります!ぜひ遊びに来てね!】


 めちゃめちゃ軽いノリだった。


「しかも、何で日本語で書かれてんだよ」


 そう、この看板、日本語で書かれているのだ。他にも知らない言語で書かれている。おそらく、この世界の言語だろう。


 ルノア曰く、この世界に転生すると同時に脳内にこの世界の言語がインプットされ脳が勝手に元の世界の言語に変換してくれるため、この世界の住人との会話に支障は出ない。しかし、読み書きに関しては冒険者登録をし、言語理解というスキルを獲得しなければ読めないらしい。


 しかし、看板はこの世界の言語だけでなく日本語も書かれていた。そのおかげでユウキも看板の文字が読めたのだが…。


「そもそも何で"始まりの町"のすぐ近くに魔界があんだよ」

「さ、さあ…?」

「まあ、いい。これに関しては後回しだ。町に入るぞ」


 ユウキは魔界に関してはいったん保留することにし、町に入る。


「で、どうします?早速冒険者ギルドへ行きますか?」

「そうだな…。なあ、冒険者登録に金はかかるのか?」

「ええと…どうでしたっけ?」


 ミナが少し慌てる。ユウキはそれを見て一言。


「………使えねー」

「ひど!私まだ、女神になって二年くらいなんです!異世界の知識だって十分じゃないんですよ!それに物忘れくらいユウキにだってあるでしょう!?」

「ほぼないなー」

「絶対嘘です‼」


 否定するルノアに対し、ユウキは鼻で笑う。


「…ま、すぐにわかるさ」

「…?…とにかく、どうしますか?私たちこの世界のお金なんて持ってないですし。登録料がかかるなら、資金集めをしなければいけません」

「その時は身売りでもしてこい」

「なに口走ってんですか?いきなりどうしてそうなるんです!」

「冗談だ」

「いや、冗談でも言っちゃいけないですよ!」

「そうか。あわよくば、そのままルノアとはお別れ出来てラッキー。という本音があった。冗談じゃない。本気だ」

「ひどい!冗談の方がまだましでした!」

「うるせえな。ほら、行くぞ」

「釈然としませんが…まあ、いいです」


 歩き出すユウキに、はぐれまいとルノアは後をついていく。

(しかし…ギルドか。テンプレ的イベントあるかなー。超楽しみなんだが‼)

 ユウキは内心テンションを高くしていた。そして、自然と早足になりギルドへ向かうのだった。


「ここがギルドですね」

「ああ、入るぞ」


 ギルドに到着し、ユウキは扉を開ける。ギルドの中には予想通り、多くの冒険者がいた。酒を飲んだり、食事をしている。ユウキは興奮しつつ、受付を探す。が、一瞬で顔を曇らす。受付が男だったからだ。


(受付嬢という代表的なテンプレを楽しみにしていたのに…なんてことだ。クソ‼)

 ユウキはいらだち、ルノアの足を踏む。


「いいっ!?」


 ルノアが悲鳴を上げる。完全に八つ当たりだ。


「何をするんですか!」

「天界にいた時、お前に腹が立ったから殴ってやろうと思ってたんだ。だが、殴るのはさすがにひどいと思ったから足を踏むのにとどめた。感謝しろよ」

「全く感謝できる要素がないんですが‼」


 その通りだ。理不尽以外の何物でもない。ユウキはため息をつき、ルノアを無視して受付に行く。


「あのーすみません」

「はい、どうしました?」

「冒険者登録をしたいんですけど、登録料ってかかりますか?」

「冒険者登録ですね。ご利用ありがとうございます。登録料は発生いたしませんのでご安心ください」

「そうですか」


 ユウキはふと変な視線を感じて振り返る。ルノアがありえないようなものを見た!とでも言いたそうな驚愕の表情をしていた。


「…なんだよ」

「いえ、ユウキ…敬語使えたんですね…!感動しました」

「待ってろ、後で泣かしてやるから」


 この後、あんなこと言わなければよかったとルノアは後悔するが、そのことを彼女はまだ知らない。


「すいません。続きをお願いします」

「はい、そうですね。まず、こちらの用紙に必要事項を記入していただきたいのですが」


 受付の男性は何事もなかったかのように説明を続ける。今のユウキとルノアの不穏な会話に眉一つ変えないとはなかなかの手練れだ。


「ユウキ、あなたの分、私に渡してください。私が記入するので」


 用紙を受け取ったルノアがユウキに言う。


「おう、頼んだ」

「申し訳ないのですが…ご記入は登録者本人がする決まりでして」


 受付の男性がそう注意する。


「ああ、すみません。実は彼、転生者でして。文字が書けないんです」

「ああ、なるほど。そうでしたか。それなら、代理での記入は認められています。どうぞご記入ください」

「ありがとうございます」


 ルノアは礼を言い記入する。ユウキはその会話を聞き、少し驚く。


「なあ、あっさり異世界転生というワードだけで納得されたんだが、異世界転生者はそんなに多いのか?」

「ものすごく、というわけにはいきませんがそういう人もいるということは周知になってますよ」

「そうなのか…」


 その後、ルノアはいくつかの質問をユウキにし、記入を済ませて受付の男性に渡す。


「確認いたしました。では、そこの魔法陣に手をかざしてください」


 見ると、受付のカウンターの隅には小さな魔法陣が浮かんでいた。ユウキとルノアは順番に手をかざす。


「ありがとうございます。…おっと」


 受付の男性の頭上に魔法陣が浮かび、そこから何か落ちてくる。それはスマホのようなものだった。


(…ん?…スマホ?)


 ユウキは嫌な予感がしたが、その予感は見事に当たった。


「こちら、クエストフォンと呼ばれるものです。これに冒険者情報が記録されているので、紛失しないようにご注意ください。また、メッセージアプリなど様々な機能があるのでご利用ください」


 ユウキは無言でルノアの足を踏みつける。ルノアの短い悲鳴が響き渡る。

(俺の…異世界への憧れが…ことごとく壊されてゆく…)


「お客様、ステータスと表示されているアプリを開いていただけますか?」

「はい…」


 ユウキは絶望しつつ、アプリを開く。すると。


「!?」

 ユウキは妙な感覚に襲われた。まるで強化魔法をかけられたかのようだ。


「ステータスが解放されたようですね?では、ステータスをご覧ください」

「あ、はい」


 どうやら今の力が湧いてくる感覚は、ステータスがユウキに付与されたために感じたものらしい。ユウキはクエストフォンでステータスを確認する。以下のようなことが表示されていた。


冒険者名 ユウキ

称号 無し

性別 男性

職業 無職(ニート)

LV 1

物理攻撃力 A⁺

魔法攻撃力 A

魔法防御力 A⁻

魔力 B

マナ B⁺

知力 SS⁺

敏捷 S

防御力 C⁻

運 E


固有スキル   グラトリーム 〔詳細〕

職業スキル   無し

獲得スキル  言語習得 〔詳細〕

     

「うわ、ユウキまだレベル1なのにこのステータスですか。バグってますね。…基本、強くなるといっても、もともとの身体能力が基準となってそれに少し上乗せする形になったステータスになるはずですのに。どれだけ身体能力高かったんですか?」

「このステータスはなかなか見られないですね。お見事です」


 受付がいつの間にか持っていた、タブレットのようなものを使用してユウキのステータスを見る。もうどうにでもなれ。ユウキは希望を捨てた。


「では、職業の欄に選択してください、というメッセージが表示されているはずなのでそれをタッチして選択可能な職業を選んでください」

「はい」


 ユウキは職業欄を見る。が、そこに表示されていたのは"職業  無職(ニート)"という文字だった。少し間が空き、ユウキは受付に言う。


「…あの、無職(ニート)って表示されてるんですけど」

「えっ?」


 ユウキはクエストフォンを見せた。


「ほんとですね…。普通、誰にでも一つは選べるはずなんですが… しかも、こんなにステータスが高いのに」


 受付の人は不思議そうな顔をして言う。


「マジかよ」


 その後、ギルドの受付の人がいろいろ調べてくれたが、どうすることもできなかった。残念なことにユウキは異世界のテンプレ、職業を体験することが出来なかった。そして、ギルドから冒険者について軽く説明され、冒険者には助成金と登録完了サービスで武器がもらえるというのでそれを受け取り、その場を後にして、ギルド内にある酒場へ向かった。


 酒場でも、楽しみにしていた異世界テンプレイベントは何もなかった。他の冒険者に絡まれることは無かったし、酒を頼んで聞いてみたかった「お前みたいなやつに出す酒はここには置いてねぇよ」の代わりに「申し訳ございません、お客様。未成年の方にお酒を販売することはできないので」と物凄く現実的すぎる返答を頂く。


 仕方ないのでそのまま食事をし、ユウキはコーラが入ったジョッキを片手に「あっ、コーラあるんだ。コーラ美味しいな」と涙目でコーラを飲んだ。異世界テンプレを経験できず、むしろ日本で日常的にあるものを目にして、絶望しきったユウキを見てルノアは物凄い憐みの目をユウキに向けていた。食事を終えて店の外に出たユウキはぼそりとつぶやく。


「異世界にテンプレを求めるのは間違っているだろうか…?」




彼はニートです。

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