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4話 神の審判(2)


「一年って…今、死んだ直後にここに来るって言っただろうが。なんでそんなに差がある?」


 ユウキは驚き、ルノアに問い詰める。


「わかりません…なぜかあなただけ見落とされていたのです。…考えられる原因としては…」


 ルノアはしばらく考え込んでいたが、顔を上げユウキに告げる。


「気付かれない程あんたが陰キャだったからじゃね?」


 …そう笑顔で告げる。しばらくの静寂が訪れる。


「ふざけんじゃねぇぞ‼クソ女神が‼そんな理由で忘れられてたまるか‼」


 ユウキは怒り狂う。その様子を見て、ルノアがやれやれだぜと手を広げ、馬鹿にした態度をとる。


(こいつ、後で殴ってやる)


 そう心に決めるユウキ。自分もルノアに同じことをしていたのだが、そのことは棚に上げる。


「まあ、それはさておき」

「この野郎…」


 ユウキは納得できなかったが、ここで騒いでいても話が進まないのでこれ以上追及するのをやめる。後で殴ると心に決めて。


「まず、あなたの死後のことですが…ええと…ロリアム、お願いします」


「わかりました。ユウキさん…あなたを殺害した通り魔ですが…あなたとお連れの人…ミナさんを殺害後、すぐに警察に逮捕されたようです。彼の服には返り血が染み、たまたま巡回していた警察にその姿を見られてしまい、職務質問を受け、すぐに遺体が見つかり逮捕に至りました。彼は、事情聴取で覚えていない、俺は無実だと主張していましたが精神的な問題は何も見つからず、反省が見られない悪質なものだとして無期懲役の判決を受けたようです」


(覚えていない?俺は無実?…俺とミナを殺しておいてよくそんな戯言を…。ふざけるのもたいがいにしろ)


 ユウキはロリアムの話を聞き、静かに怒る。彼女はその様子を見ていたが、気を取り直したように言う。


「以上があなたが知りたいと思われる…死後の出来事ですが…何か質問はありますか?」

「…大丈夫だ」

「そうですか。…ルノア様」

「ありがと。ユウキさん」


 ユウキはルノアの方を見る。ルノアは、とても優しい表情をしていた。


「あなたは…つらい人生を送ってきました。あなたは不幸な人生を送ってこられました。そんなあなたは救われるべきだと思います。ユウキさん…新しい人生を送りませんか?違う世界で人生を送り、今度こそ幸せな人生を送りませんか?」


 ルノアは優しく告げる。まさに女神というべき慈愛の表情で。それを聞き、ユウキは答える。


「だが、断る」

「…え?何で?」


 ルノアが間の抜けた声を出す。断られるとは思わなかったらしい。


「俺は…ミナがいない…俺の大事な人がいない世界で生きようとは思わない。だから、俺は新しい人生を送らない」

「…いやぁ…まあ異世界もいいもんですよ。ほら、新しい恋も見つかるかもしれませんよ?」

「ふざけるな」


 ルノアはびくりとする。なぜなら、ユウキから尋常じゃないほどのプレッシャーを感じたからだ。いや、そんな優しいものじゃない。

 殺意だ。ルノアはユウキから自分に対する殺意を感じた。


「ミナ以外の女に俺は心を許さない。こんな俺の側にいてくれたあいつを忘れるようなそんなふざけたことはしない」

「う…」

「それにお前の言い草も気に食わない」

「え?」

「俺が不幸?幸せじゃない?…確かにそうかもしれない。だが、それを認めていいのは俺だけだ。俺のことをろくに知らないやつが薄っぺらい言葉で俺を語るな」


 ルノアはユウキの怒る様子を見て、怖いと思うと同時にすごいと思った。ユウキの言葉はただの怒りを含んでいるものではなかった。自分の強い意志を…信念を含んだ重みのある言葉だったからだ。


「そうですか…。すみません、軽率な言葉を言ってしまって。確かに、あなたの言う通り他の人がその人が幸せかどうかなんて語るのはおかしいですね。その人が幸せかどうかは当人が決めるものです。…すみません」


「…別にいいよ」

「けど、転生してください。異世界に行ってください。お願いします」

「なんでだよ」

「実は…」


 ルノアは暗い顔になる。何か事情があるのならとりあえず話だけでも聞いてやろうとユウキはルノアに目を向ける。


「私は…死者の人生全てを把握しているわけではありません」

「うん」

「異世界に転生させるなら、死者の人生をそれほど把握する必要はありません」

「…うん?」

「ですが、死者を死後の世界、すなわち冥界に連れていくならそうもいきません。死者の人生を調査する必要があります」

「…」

「死者の人生とか調べるの面倒なんです!仕事するの嫌なんです!だから転生してください!」

「オーケー。お前はクソ野郎ということが分かった。もちろん、断る」

「お願いしますよー!」


 ルノアが騒ぐ。ユウキは、顔をしかめていたが不意に表情を暗くする。


「…あいつがいない世界で生きるなんて…何の意味もない」


そうつぶやく。ルノアに対しふざけたやり取りをしていたユウキだが、その内心は絶望に満ちていた。ルノアが現れなければきっと今も自分を責め続けていただろう。表面上は全くそんな素振りはないが、実際はとても危うい精神状態なのだ。そして、その本心を今、ユウキは吐き出した。その言葉を聞き、今まで黙っていたロリアムが口を開く。


「ユウキさん」


ユウキはロリアムに視線を向ける。


「ミナさんは…一年前に転生しました。自分の愛する人がきっと追いかけてきてくれる。だから自分は新しい世界で生きて、彼が来るのを待つんだ。そう、言っていました」

「…っ!?」


 ユウキは驚く。そして希望を抱く。


「ほ…本当か!?」

「ええ、本当ですよ」

「そうか…ミナ…!」


 ユウキは希望を抱く。また、会える。自分の最愛の少女に。喜びを覚えずにはいられなかった。


「ちょ…ちょっとロリアム!」


 見ると、ルノアが焦ってた様子をしていた。


「な…何をやっているんですか!死者の情報を話すのは禁じられているんですよ!」

「ああ、そうでした。申し訳ありません。ルノア様」


 ロリアムはいかにも忘れていたような表情をしてユウキにウインクする。ルノアがいつも私にはそういうの注意してるくせに、とブツブツ言っている。


(侮れない人だな…いや、天使か)


 ユウキは苦笑いする。ルノアも似たような表情だ。


「はあ…仕方がないですね。ユウキさん。行きますか?異世界へ」

「当然だ。行かせてくれ。異世界へ」


 ユウキは力強く答える。最愛の少女に会うために。


(待っててくれ、ミナ。必ず、俺はお前を見つけるよ)


 ユウキは誓う。幸せをつかむために。


「それで、転生に関してですがこのままの記憶であちらの世界に行く…ということで間違いないですか?」

「ああ」

「——とすると…肉体はこのままで…」


 ルノアはユウキに異世界転生に関して説明をし、要望を聞く。至って、業務的な会話だ。


「——とこれで、終わりですね。ロリアム、準備して。…あ、ユウキさん。何か質問はありますか」

「特に…いや、まて。…転生するにあたって何か特典というか…何か特殊能力的なものはもらえるのか?」


 ユウキがそう聞くとルノアは優しい表情で告げる。


「ユウキさん。現実と二次元は違うんです」


 グサリ!そんな擬音語が聞こえてきそうなほどユウキの表情は歪む。羞恥心がユウキを襲う!


(仕方ないじゃねえか…憧れちゃうだろうが。異世界転生といえばチート能力ゲット!って。…よし、後でこいつ殴ろ)


 完全なやつ当たりである。


「…そろそろですかね」


 ルノアが後ろを向く。


「ついてきてください」


 ユウキは椅子から立ち上がり、無言でルノアについていく。しばらく歩くとルノアが立ち止まった。すると、それに呼応するかのように魔法陣が浮かび上がる。

 ユウキはその魔法陣をしばらく眺めていたが意を決し、魔法陣の中心へと足を進める。すると、ルノアも魔法陣の上に立ちブツブツと何か唱えた後、四つん這いになる。


「…何やってんだよ」

「最終確認です。気にしないでください」

「そ、そうか…」


 その様子をしばらく見ていたが、ユウキはふと顔を上げる。ロリアムが何か機械のようなものを操作している光景が目に入る。


(あれ、たぶん異世界転生のためのものだよな。…なんかテンション下がるな。ファンタジーって感じが全くしねえ…)


 ユウキはがっかりして、ため息をつく。


「…よし。大丈夫ですね」


 ルノアが立ち上がる。どうやら終わったようだ。


「終わったのか」

「はい。なので私は——」

「キャッ!」


後ろから声が聞こえ、二人は振り向く。ロリアムがしりもちをついていた。どうやら作業中に転んでしまったようだ。


「…何やってるんですか。ロリアム」

「すみません、ルノア様」


ロリアムは自分の失態を見られ、顔を赤くする。ルノアは呆れたようにその様子を見ていたが、急に表情が凍り付く。


「ロ、ロリアム?あなたの手元…」

「え?…あ」


 ロリアムの手元にはスイッチのようなものがある。そして、それはロリアムにしっかりと押されている。ロリアムが青ざめると同時に魔法陣が光りだす。魔法陣が発動したのだ。どうやらスイッチは魔法陣を発動するためのものだったらしい。ルノアは全速力で走り出す。だが、遅かった。見えない壁か何かがあるのだろうか。ルノアは突然進めなくなった。


「う、嘘…」


 そして、次の瞬間。ルノアとユウキの姿が消える。異世界へと転移されたのだ。


「る、ルノアさまあああああ‼」


 一人虚しくロリアムの声が響き渡った。




「…魔王はそうして、殺し合いを続けたのだった。…フフフ」


 男は笑い、読んでいた本を閉じる。男はとても暗い場所にいた。そこはとても本が読めるような場所ではない。だが、男は暗さを気にした様子はない。しばらく男は笑っていたが、ふと笑うのをやめ、歩き出す。しばらく歩き立ち止まったかと思えば、跪く。周りには何もない。ただ暗闇があるだけだ。


「わが主」


 男はつぶやく。


『久しいの。●●●●よ』


 すると、しわがれた声が答える。姿は見えない。


「はい。それで、いかがなさいましたか?」

『…ついに来た』

「…まさか…!」


 男が驚愕の表情を浮かべる。


『ああ。触媒が異なる世界よりこの地に舞い降りた。いよいよだ。いよいよ、我が目覚めるときがやってきたのだ!』


「この時をどれほど待ちわびたか…。いよいよ始まるのですね。わが主よ…!」

『この忌々しい封印を解くのももうしばらくの辛抱だ。この封印が解かれた暁には世界を分け、魔界でふんぞり返っている魔王共を滅ぼしてくれる。●●●●よ。彼のもとへむかえ。そして…わかるな?』

「もちろんでございます。わが主」

『フハハハ…。では頼んだぞ』


 そして、声が聞こえなくなり男は立ち上がる。


「フフフ。さて…行くとしようか。君はどんな人間なのかな?」


 男は凶悪というべき悪意に満ちた笑みを浮かべる。


「ねえ…ユウキ君」




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