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3話 神の審判(1)


「——キさん。ユウキさん。返事をしてください。ユウキさん」

(…声が…聞こえる。ここは…ああ、そうか。あの世なのか。俺は…死んだんだな)

「ユウキさん。返事をしてください」

(そうだ…俺は、最期まで結局守りたいものを守れずに無様に死んだんだっけ。ミナも守れなかった…)

「ねえ、聞こえますか?聞こえてますよね?早く起きてくださいよ。まだまだ他の死者もたまってるんです。起きてくださーい」

(…なんだ。さっきから聞こえるこの耳障りな声は)

「ねーえ。今どんな気持ち?どんな気持ち?女神の邪魔をしてどんな気持ちですかー?」

(なんだ。さっきから。こっちは死んだばかりで、気持ちを整理してるというのに。女神だからなんだっていうんだ。もし、青髪ロングでプークスクスって笑ったらぶん殴ってやる)

「ねーえ、これさ、日本だったら公務執行妨害とかで逮捕されると思うんですよね。だから早くしてくださーい」

「うるさい。IQ3の脳内お花畑年齢詐称のクソビッチ女神が」


 ユウキは目を開けた瞬間、そう罵った。


「…初対面の人に対してずいぶん失礼な物言いですね」


 ユウキの目の前にツインテールの少女が立っていた。青い髪ではなく、燃えるような赤い髪。やや幼い顔つきと身体をしている。ガマズミの花の髪留めが印象的だ。


「…すまない。イライラしてたもんでつい…。だが後悔はしてない」

「まあ、死んだ直後だし、仕方ないですね…と思ったのですが、あなたの今の最後の言葉を聞いてその思いは見事に消えました」


 少女は呆れた顔をして言う。そんな少女を無視し、ユウキは自分の状況を確かめてみる。まず、自分自身の状態。いつ座らせたのか、椅子に座っていた。次にユウキは周りを見渡す。目に入るのは、果てしなく広がる地平線。どこまでも続く暗闇。ユウキと少女以外には何も存在しない。それを確認して、ユウキは再び少女と向き合う。


「お前も相当失礼な物言いだったけどな」

「それはあなたがさっさと返事しないからです。公務執行妨害ですね」

「馬鹿か。そんなものは公務執行妨害にならん。黙秘権という概念を知らんのか」

「ここは死後の世界。日本じゃありません」

「お前は先ほど日本だったらといっただろうが」

「物の例えって知りませんかねえ?」


 少女は大げさにドヤ顔をする。その顔を見てユウキはイラッとする。


「…このまな板女神が」

「誰がまな板女神だ!これから成長するんですから!すぐにナイスバディですよ。ナイスバディ!」

 そう荒ぶる少女を前にユウキは憐れみの視線を向ける。

「あきろめろ。何十年、何百年と生きてその体型ならもう望みはない」

「…人を老人扱いとか女性に対して失礼過ぎません?」

「全ての女性に対して謝れ」

「どういう意味ですか!というよりそっちの方が十分失礼でしょうが!」

「やれやれだぜ」

「アア゛!?」


 ユウキの馬鹿にした様な態度を見て少女はイラッとする。先程、自分もユウキと似たようなことをしていたのだがそのことには気づかない。しばらく少女はユウキを睨んでいたが、やがて力尽きたように、ため息をつく。


「神というのはよくあるファンタジーや神話に出てくる不老不死のような存在ではないのですよ」

「そうなのか?」

「ええ。あなた方、人間が考えるような超越した存在ではないのです。例外もありますが、基本、人間と同じように寿命があります。まあ、病気やけがで死ぬことはありませんが。この空間にいる限りは。そして、私は14歳です!」


 いきなり、ドヤァとする少女。なかなかイラッとする顔である。


「そうか、俺は17だ。先輩には礼儀正しくな、後輩?」


 ユウキもドヤァとする。その顔を見て、少女の顔が引き攣るが、咳払いをし、何もなかったかのように続ける。


「…先程の続きですが、神というのは職業みたいなものです。世襲制の。基本的に子は親の神としての役目を引き受け、生き、それを自分の子に渡す。これが、私たち、神です…さあ‼わかったら、今までの暴言と失礼な態度を謝罪してください‼」


「いきなりなんだよ。脈絡なさすぎだろ。情緒不安定かよ」

「ノリです!」


 少女はキリッとした顔で言う。その様子を見て、ユウキは呆れた様子を見せる。

「なんじゃそりゃ…。まあ…たしかに、訂正すべきだな。…すまない。お前はビッチ女神ではない」


 ユウキはニヤッと満面の馬鹿にした笑みを浮かべる。


「そんな貧相な体でビッチはないだろうからな!」

「…殺す。貴様は今!この場で私が殺す!」


 少女は、鬼の形相となる。


「お前は、どこの主人公だよ」


 ユウキ、余裕の嘲笑。あおる。というか、そろそろ自重してもらいたい。


「うるさい!お前だけは許しません!あの世で後悔してください!!」

「ここ、あの世じゃねえの!(笑)(かっこ、ワラ)


 さらにあおる。かっこ、ワラと口に出されるのは相当イラつくだろう。


「うがー!」

 少女はもはや猛獣と成り果ててている。


「まあまあ。それくらいにしてください。ルノア様」


 不意に女性が現れる。ユウキは女性を見る。大人の女性という言葉が似合う、どこかミステリアスな雰囲気を感じさせ、落ち着いた印象の女性だ。もっとも、一瞬見ただけで、そこまでのイメージを持つのは、先程まで子供のような精神の少女と話していたからだろう。


「何ですか。ロリアム。邪魔しないでください」


 ルノアの今にも噛みつかんばかりの様子にロリアムはため息をつく。


「そろそろ仕事してくださいよ。もういくつもたまってるんですよ。また残業代ゼロで手伝わされるのはごめんですよ」


(神様、ブラック企業かよ)

 ユウキは思わず心の中で言う。


「まったく、心が狭いですね、ロリアムは。その無駄にでかい胸と同じくらい広い心をもってはどうですか」

(クソ上司だな、おい)

「はいはい、無駄口たたいてないで、仕事しましょうねー」

「キー‼」


 ルノアは猿のように怒る。ロリアムは怒るルノアをスルーし、ユウキの方を向く。


「初めまして、ユウキさん。私は、天使ロリアム。こちらにいる女神ルノアの補佐を務めています」

「ロリアム…か。なるほど」

「?…どうかしましたか」


 ロリアムは首をかしげる。ユウキは改めてロリアムを見る。とてもスタイルが良い。素直にユウキはそう思った。ミナには遠く及ばないが、と失礼な感想も抱いた。


(こんなクソ上司のところでよく働けるなあ。過労死に気を付けた方がいいと思う。ついでに疲れすぎて変な男に引っかかりそうだから、それにも気を付けるべきだな)

「…なんでしょう。私、今とても失礼なことを考えられている気がします」

「気のせいだろ」


 いつだって女性の勘は鋭いものだ。


「まあ、なんだ。名前と容姿があってないなーって」

「フフッ。そういえば…聞いた話ですが、あなたの世界では幼い容姿の人のことをロリと呼ぶらしいですね」

「その通りだ。だから、そっちの女神がロリアムって名前なら超納得なんだが」

「アア゛!?」


 ロリ女神様、ご乱心である。


「ルノア様?」

「今のはこいつが…!」

「ルノア様?仕事してくださいね?」


 ロリアムが笑顔でルノアに言う。だが、目は笑っていない。とても怖い。


「…はい」


 ルノアはがっくりとうなだれる。やがて顔を上げ、ユウキを睨むが、ユウキは嘲笑で返した。ルノアは無意味だと悟ったのかため息をつく。やがて、今までの様子が嘘のように真面目な顔つきになる。そして、指を鳴らす。指パッチンだ。突如、空間がゆがみ椅子が現れる。ルノアは堂々とその椅子に向かい、座った。先程の様子が嘘のように神々しく威厳を感じるぐらい立派なものだった。


「…ではユウキさん。本名、松岡ユウキさん。あなたのことで、間違いありませんね?」

「ああ」

「では、これより神の審判を行います。この審判では、あなたの処遇を決定します」


 ルノアが力強く言う。その口調にはどこか威厳すら感じる。


「もうすでに、お気づきだと思いますが、ここは死後の世界。ここには、死んだ直後の魂がやってくるのです。死んだその日のうちに。そして、あなたは…一年前に死亡しています」

「…は?」


 ユウキの間抜けな声がその場に響いた。



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