28話 平常運転!
「着きましたー!!!!」
馬車を降りるなり、ルノアが叫ぶ。荷台の上でずっと見張りをしていたからその反動だろうか。いつも以上に大きな声を出す。
「うるせえよ。ルノア。響くだろうが。……こっちは二日酔いしてるっていうのに……」
キースが頭を押さえて言う。今にも吐きそうな表情だ。
「二日酔い? 酒でも飲んだのか?」
ユウキが聞くとキースはなぜかしまったと言いたげな表情を浮かべる。
「あ、ああ。村でな。宴会の時に。お前は寝ていたからあれだが」
キースはなぜかおどおどしながら言う。ユウキはキースの様子を怪しむ。そして、ふと思いついたように言う。
「……そういえば、俺の財布がないんだけど、どこだ?」
キースはぎくりとしたように肩を揺らす。
「……はい、ユウキ」
ミナが財布をユウキに差し出す。
(……そういえば、財布はミナの家に置いてたんだっけ)
ユウキは財布を受け取る。……だが、まるで重みを感じない。軽い。ユウキは財布を開ける。……すっからかんだった。
「……は?」
ユウキはミナに視線を向ける。ミナはユウキの視線に気づき、首を振る。次にルノアを見る。ルノアはユウキの視線の意味が分からないのようで、不思議そうな顔をして首をかしげる。…そして、最後にキースに視線を向ける。キースは即刻、目をそらす。間違いない。ユウキは確信した。
「おい、キース。……まったく、金が残ってないんだが…いったいどういうことなんだ?何があった?」
キースはユウキの問いかけに一瞬、目を泳がすが、すぐにユウキの目を見返し意を決したように言う。
「……何も!!! なかった!!!……」
そうどこかの某海賊の緑の髪の剣士を思わせるように腕を組んで言う。ユウキはその様子を見てイラっとする。
「"獄炎"」
炎がキース目掛けて発射される。
「うおおおお! あぶねえ! 殺す気かっ!」
キースはよけ、炎は軌道を空中へと変わり、消える。
「は? 殺す気だったに決まってんだろうが。お前だろ。金使ったの。どういうことか説明しろ」
実は、ユウキのすっからかんになった財布。これはユウキ個人の財布ではなく、パーティー全体の資金だった。
「……いやー。村で酒を飲んでたんだけど、ついつい飲みすぎて。……気が付いた時にはすっからかんで」
……だが、その資金は魔王の飲酒によって見事に消えた。
「で、すっからかんの財布をキースから渡され、私が管理してました」
ミナが言う。ユウキは頭を抱える。
「クソが……。いきなり金欠かよ。どうすんだよ……これから」
「ユウキ」
キースが勇気に呼びかける。少しは反省をしているのだろうか。しおらしい表情をしている。しばらくして意を決したように口を開く。
「てへぺろ✩」
ユウキは思い切りキースに拳骨を食らわした。
「てめえ、ふざけんなよ……? 無一文でどう生活していけと? 今の状況わかってんのか? ああ!?」
「苦しい、苦しい! ギブギブ!」
ユウキがキースの首を絞めていく。キースはじたばたする。
「……はあ」
やがて、怒り疲れたのか、ユウキはキースを放し、ため息をつく。
「……ユウキ、これからどうするの……?」
ミナが遠慮がちに訊く。
「……とりあえず、ギルドに行ってお前のパーティーメンバー加入手続きをする。その後、ギルドでクエストを受けて稼ぐとしよう」
クエストとはギルドが冒険者に与える仕事だ。依頼者の仕事をギルドが受け、その仕事を冒険者にこなしてもらうと言ったものだ。ちなみに依頼達成の報酬の2割はギルドに入る。ギルドもビジネスなのだ。
「面倒なことにならなければいいが」
ユウキはそう呟き、ギルドに向かった。
◆
「……………受注可能クエスト、一つだけだと?」
ユウキはがくりとうなだれる。するとその隣でミナが慰めるようにユウキの背中をさすり出した。
「……まあ、クエストがあるだけ良しとしよう。…で、肝心のクエスト内容は?」
「…………アーケオプス一体の討伐だね」
「了解だ。アーケオプトス……っと」
ユウキはクエストフォンでアーケオプトスについて検索する。が、次第に表情を曇らせていく。
「どうしたの?」
ミナの問いには答えず、ユウキはクエストフォンの画面を見せる。
【アーケオプス 鳥のような姿をした魔物で、近くの生命反応を感じ取れることが出来る。遠距離攻撃が有効。自らの危機に対する危機察知能力は異常に高く、警戒状態になると素早い動きになり、防御力が高くなる。ここ100年の討伐報告の記録はない】
「…………え。なんかめちゃ難易度高そうじゃん。遠距離攻撃できるメンバーとかもうちのパーティーにいないと思うけど……誰かいる?」
ユウキはミナの問いに、他のメンバーを思い浮かべる。
ルノア……ただヨーヨー振り回すだけ。
キース……攻撃力は申し分ない。遠距離攻撃はどうか不明。
「……もしかしたらキースならいけるかもしれない」
◆
「え? アーケオプス? 無理無理! そんな無理だって!」
「お前、魔王だろうが。やれ」
「そんな戦ったことも倒したこともないのに出来るわけないよ!」
キースはどこかの少年パイロットのような口調で言う。ユウキはキースの首を絞める。
「ふざけてんじゃねえぞ。ああ? 生活の危機が迫ってるのは誰のせいだと思ってんだ? このクソ魔王が」
「ギブギブ! 死ぬ! 俺、魔王なのに死んじゃうよ! 歴代魔王で最もあっけない死に方だよ!」
「じゃあ、死ね!」
「やめて、やめて!真面目にするから! 許して!」
懇願するキースにイラっとしながらもユウキはキースの首から手を放す。
「あー苦しかった……んで、アーケオプス討伐についてだがな、今の力を押さえた状態の俺では、無理なんだよ。アーケオプスはとにかく早いし、攻撃が届くような距離まで接近すれば、気付かれて逃げてしまう。……本来の力であれば、アーケオプスの移動速度すら上回るくらい造作もないがな」
「……そもそも、お前の魔王化の力ってどういうものなんだ? 魔界の外で使えば、1週間は動けないのか?」
「いや、そこらへんはランダムだけど……魔界外での魔王状態の時間が長ければ長いほど行動制限時間も長くなる」
「はあ……面倒な力だな。要するに引きこもらないと力を発揮できないってことか」
「言い方!」
「……とりあえず、行くだけ行ってみませんか?まずは、アーケオプスの動きを知りましょう。そこから、もしかしたら対策法も思い浮かぶかもしれませんよ」
黙っていたルノアがユウキにそう提案する。
「…………そうするしかねえか」
特に案も出ず、ユウキ達はルノアの提案通り、アーケオプス討伐に一度向かうことにした。




