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27話 全身真っ黒男


 馬車が揺れる。今のところ魔物にも遭遇せず、万事順調。ユウキはそう思う。ユウキ達はミナを仲間に加え、当初の目的地、ステタリアを目指している。


「しかし、ユウキがついてきてくれるとはな! 正直、ミナと再会したからもう解散するんじゃないかと心配していたぞ!」


 キースが満面の笑みを浮かべてユウキに言う。


「ん? まあ、俺も少し目的が出来たしな。次の目的はお前と同じツインクスだ」


 ユウキはそう言い、先日のミナとの会話を思い出す。

 ――ユウイチだと?


「うん。確証はないけど。……ただ、あの時私を崖に落とした彼は言ったの」


 ミナはユウキの問いに頷き言った。


「何と?」

「その時まで待て。いずれ来るから。俺たちを振り回し、いつも俺たちの予想斜め上を行く全身真っ黒男のあいつがいつかお前を迎えに行くから待ってろって。そして、伝えろ。ツインクスに来い、と」


 ミナの言葉を聞いてユウキはしばらく考え込む。

「……この世界に来て俺のことを誰かに話したことは?」


 ミナは首を振る。


「ユウキのことについて特徴や名前だけは言ったことはあるよ。ユウキを探してたから。だけど――」

「全身真っ黒男」


 ユウキが遮る。


「全身真っ黒男は、あいつが俺につけたあだ名だ……」


 ユウキの目が鋭くなる。


「ユウイチだ」


 ミナは頷く。そして、ユウキの服装を見る。上着もズボンも靴も黒。ユウキはユウイチから服装も黒一色で固めていたことという理由で全身真っ黒男というあだ名をつけられたことがあった。


「ま、今は全身真っ黒じゃねえがな。この髪……俺の髪はストレスで脱色しちまったからな。それに全身真っ黒男というあだ名だけで奴だとは判断できん。言っちまえば、こんなあだ名なんて誰でも思いつく。安直すぎる。だから、その情報だけでユウイチだとは判定できないが――」

「ユウイチだという根拠は他にもあるの」


 ミナはそう言い、ポケットからあるものを取り出し、それを手のひらに載せて差し出す。それを見て、ユウキの目が見開かれる。それは銀のペンダントだった。皮のひもを通しただけのもの。そして銀にはユウキ、ミナ、ユウイチと刻まれてあり、ユウイチの名にマジックのようなもので丸が囲まれている。


「これは……」


 ミナが頷き、もう一つペンダントを取り出す。そのペンダントにはさっきのペンダントのように銀にユウキ、ミナ、ユウイチと刻まれている。さっきとの唯一の違いは、ユウイチではなくミナの名が丸で囲まれていたことだ。


「……《グラトリーム》」


 ユウキが少し震えた声で言う。その手には似たようなペンダントがあった。そして、ユウキという名が丸で囲まれていた。


 それらのペンダントはユウキ、ユウイチ、ミナ……三人以外は誰も知らないはずのものだった。小学二年の頃、まだユウイチの父が生きていた時の話だ。ある日、ユウキはユウイチとミナに父親がシルバーアクセサリーを趣味でやっている話をした。すると、ユウイチがやりたいと言い、ユウキは材料が残っていたことを思い出し、ユウイチとミナを自分の家に連れて行った。そして、ユウキ達は銀のもととなる粘土をこね、ヘラでお互いの名前を刻み、ドライヤーで乾かし、ペンダントを完成させ、自らの名前を丸で囲んだ。友情の証だとして誰にも見せないよう、約束しあった。


「俺ら以外知るはずのないペンダント……」


 ユウキがつぶやく。


「……これはユウイチのペンダント。だけど……」

「何故、わざわざこんな回りくどい方法をしたのか、ということだな?」


 ミナはこくりと頷く。


(……そもそも、なぜ俺が来ると断定したのか? ……ミナがこの世界にいるという事は俺がいると推測したのか?……いや、違うな……そもそも)


「何故、ツインクスなんだ?」

「え?」

「……実は俺たちのパーティーの最終目的地はツインクスだ。キースがそこに用があると言っていてな」

「……偶然……かな?」


 少し間が空き、ミナが言う。


「わからん。……キースがユウイチと何か関連があると断定もできん。少なくとも、ツインクスには何かあるとは思うがな。……それより、ミナ。何故このことを隠していた?」


 ユウキはミナに攻めるような視線を送る。ミナは気まずそうに眼をそらす。


「……わからなかったの。これがユウキにとっていいことかどうか。今、前を向こうとしているユウキにユウイチが生きているかもしれないと伝えるのは……また、過去にとらわれることになるのかもしれない。けど、わかった」


 ミナはそう言い、顔を上げてまっすぐユウキを見る。


「ユウキはもう過去になんてとらわれない。新しい仲間とともに前に進んでいける。なら、ユウイチのことを話してもそれだけにとらわれることは決してない」


 そう曇りなき目をして言う。ユウキはしばらく黙っていたが、


「……そうか。心配かけて悪かったな」


 そう一言つぶやく。


「とにかく、ユウイチが何を考えているかはわからん。けど、やるべきことはわかった。ツインクスに向かう」


 ユウキはそう言ったあと、ニヤリと笑う。


「そして、教えてやろうじゃねえか。俺をもてあそんだらどうなるかを」

「……うん。そうだね!」


(わからないことが多いし、不確定なことを断定しちゃ見えるもんも見えん。だから、俺がすべきなのは囚われることではなく、ただ進むこと。それは間違っちゃいないはずだ)


 ユウキがそんな事を考えていると、服の袖を引っ張られていることに気づき隣を見る。


「どうした?ミナ」

「んーとね。アルマさん達……本当に良かったのかな?もう地上に戻ってきても魔王の支配はないんだよね」


 ミナはそう言う。実はユウキ達はタロスの崖を離れる際、アロマ達に地上に来ないかと誘ったが、彼女達は


 ――わしらは、既に取り残された存在。今さら、地上に行ったところで発達しているに違いない文化に適応などできん。わしらはここで十分じゃ。ここで生き、ここで果て、命をつないでいく。


 そう言い、断ったのだ。


「彼らが決めたことだ。他人が口出しすることでもねえだろ」

「……それもそうだね」


 ミナはユウキの言葉に頷き、ユウキに体を寄せる。


「何だよ?」

「……イチャつきたい」

「は?」


 困惑するユウキにミナは吐き出すように言う。

「だって! ユウキが倒れてた間、ずっとユウキと何も出来なかったんだよ? もっとユウキに相手にされたいの!」


ユウキはそんなミナを見て、ため息をつく。しかし、すぐに


「……仕方ねぇな。……ほら」


 ミナを自分の方に抱き寄せその頭を撫でてやる。


「……えへへ」


 ミナはユウキの胸で幸せそうな笑みを浮かべていた。


「少しは時と場所を考えろや……」


 その様子を見ていたキースは小声でつぶやくが、二人の耳には届かなかった。


「あ! 見えてきました! ステタリアです!」


 今まで、黙っていたルノアが声を張り上げて言う。ユウキは体を起こし外を覗き込む。町が見えた。ステタリア。目的の町。ユウキは町を眺め


「……ここでは、面倒事が起きなければいいんだがなあ」


 切に願うように、そうつぶやいた。








こいつ等、相変わらずイチャついてんな……

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