26話 達者で
——夢を見ていた。ユウイチ、ミナ、俺が初めてそろったあの日のことだ。あの日は、ユウイチと公園で待ち合わせしていて、ミナを連れて行ったんだっけ…。
「ユウキ、待たせたなって…そいつは?」
公園にやってきたユウイチがユウキを見つけ、そこにミナがいるのに気付き言う。ミナは怯えたようにユウキの後ろに隠れている。
「ああ。いつも一人でいた根暗な奴だ。この前、友達になった」
「マジかよ…」
「何だ?ユウイチ。お前もこいつに関わるなと馬鹿みたいなことを言い出すんじゃないだろうな?」
ユウイチは首を振って否定する。
「そんなわけねえだろ。…その子が一人でいたのは俺も気にしてたし、他の子から仲間外れにされてた理由も知ってる。いつか、どうにか助けてあげたいとは思ってたけど…よりによってお前かあ。まずいんだよなあ」
ユウイチが頭を抱える。
「は?何でだよ?」
「お前が原因だよ…ただでさえ、はみ出し者のお前はいじめのターゲットになりやすいのに…」
「殴られたら殴り返せば良いだけの話だ」
「いや、色々陰湿なことしようとする奴もいるしな。俺もクラスの子や他クラスの仲のいい子たちとで何とかそいうのやめさせているけど…」
「やられたら、特定してやり返すまでだ」
「そういうとこだよ!そういうとこが気に食わない奴がいるからお前は狙われんだよ。俺がどれだけ苦労してることか…そのお前がこの子といるとなると他の子の輪の中に溶け込ませるのとかいじめとかやめさせたりするのは結構な苦労が…」
「…私、やっぱり邪魔?」
ミナがユウキの後ろで泣きそうな顔をして言う。
「ユウイチ…お前、泣かすのか。クズだな」
「お前に言われたくねえよ!仕返しのためならいっつも何でもかんでもやりやがってさー」
「やる方が悪い。因果応報だ」
「何言ってんのかわかんねえよ!そんな習ってない言葉言われても!」
「うるせえな。何とかしろ。お前の無駄に広い人脈使ってこいつを助けろ」
ユウイチは大きなため息をつく。
「…はあ、どうしていつもいつも、俺はこんなに苦労が絶えないんだ…」
「…大変だな。お前、まだ小学生なのに…。中間管理職ってやつみたいだぞ?」
「誰のせいだと思ってんだ!」
ユウイチが叫ぶ。
(…懐かしい。あの頃はまだ…ユウイチがいたな)
夢の中でユウキはそう思う。その時。夢の中のユウイチがこちらを振り返る。
「…ユウイチ」
ユウキは驚いたようにこぼす。
「変わってないな。ユウキ。お前、いっつも偉そうなこと言ってんのに、本当はいろいろ面倒なことばっか考えてんな!」
夢の中のユウイチがそう笑い飛ばす。
「ユウイチ…」
ユウキは驚いた表情をするが、やがて笑みを浮かべる。
「…ユウイチ。俺は新しい友を見つけたよ。俺は…過去を乗り越えて、あいつらとともに生きようと思う。まるでお前のようなバカで苦労人の残念な奴や異常に叫んでばっかりの変な
女やミナ…碌な奴がいないけど…」
「ひっでー言いざま!」
「…けど…俺はあいつらと一緒に生きていこうと思う。どんなに優れていても不意にうまくいかなくなるこの難しい人生を…俺はあいつらとともに歩もうと思う…だから…しばらくのお別れだ。ユウイチ…今までありがとう。達者でな…」
ユウイチは満面の笑みを浮かべた。
「おう!達者でな!今度こそ…守って見せろよ!お前の大事なもん!」
「…ん…」
「起きたか。ユウキ。残念ながら、お前が寝てる間に宴は終わっちまったぜ。」
ユウキが目を覚ますと腕を組んで立っているキースの姿が目に入る。
「…何で、最初に目に入るのがお前なんだよ」
「悪かったな。お前の愛するミナでなくて」
「全くだ。もう一度寝て起きた時に見るのがミナの顔になるまで試すとするか」
「そこまで言う!?」
キースが顔をしかめる。
「…ここはどこだ?ミナの家じゃないみたいだが…もしかして、あのルービックキューブか。俺の懐からパクりやがったな」
キースが肩をすくめる。
「仕方ねえだろ。俺やルノアが滞在できる家がもうなかったし…何よりミナがふかふかのベッドで休ませてやれってうるさくてな」
「まあいい…で、ミナは?ついでにルノアも」
「ついでって……ミナは村人の治療の見回り。全員、治癒魔法で回復させたけど念のためって。ルノアは…村人の心のケア。なんか、あいつ、この村で人気者になってんぞ?」
「…いいことだ。で?お前は?魔王だから村人たちに白い目で見られて居心地悪くなって逃げてきたか?」
「ちげえよ。ミナにお前に付き添うよう頼まれたんだよ。村人にはこの世界で人間を迫害する魔王はもういないって伝えたからな。納得はしてもらえた」
「…魔族のことは?お前は人間は魔王に従うって言ってたが…ウィーブスの様子では違うように見えるぞ?むしろ反発してたみたいな」
「…一部の人間だけが反発して、魔王や魔族と敵対してた事実はある。だけど、このまま魔王が恐怖で人間を支配していたならいずれは魔王と人間の戦争になっていたかもしれんな」
「…そうか」
「…少し昔話をしてもいいか?」
キースは言う。ユウキを見るとじっとキースを見ている。続けろ、そう顔に書いてある。
「…俺は昔、魔王の跡取り候補のうちの一人として生まれた。周りの魔族は人間など殺せばいい。奴らなど支配するべきだ。人間は卑怯。いつか、魔族の首根っこを掻いて自らが支配者になろうとしている。そんな考えばかりのやつばっかりだった。今考えるとおかしいよな。人間も魔族も多少なりお互いを殺す。悪意を持って殺し、奪う。そんなの一定数いる。少数なりともな。けど、俺はそれに気づかず他と同じように人間を支配することで魔族を守れると思ってたんだ」
キースが遠い目をする。
「俺は人間を殺し、殺した。魔族を殺した報いだと。馬鹿見てえ。そんなの終わらない悪夢なのに。支配すればするほどお互いの反発心が膨れ上がるだけなのに。…だが、ある日。魔族の変わっていると噂されている女と出会った。彼女は魔族と人間は同じだといった。俺は興味を惹かれ、彼女と時折、離すようになった。だが、ある日彼女は死んだ。血だらけだった。死ぬ直前、俺から何を悟ったのか、人間と魔族は同じだと言って、死んだ。…たぶん、人間に殺されたんだろうな。だから、俺にくぎを刺した」
「…それでどうした」
キース自虐気味に短く笑う。
「戸惑いつつも、人間を殺した。だが、そこから俺は変わりつつあった。今までは人間の言葉など耳を傾けなかったが、この頃から人間の最後の言葉を聞いた上で殺した。だから、何だって話だが。…そして、ある日私は一人の人間と出会った」
キースの口調が変わる。興奮気味に話す。
「私は彼を殺そうとした。結局は逃げられたがな。その時、私は魔王の座を狙っていてな。魔王は私に追っ手をよこした。私は戦い、致命傷を負い逃げた。そして、力づき、倒れた。だが、死ぬことは無かった。目を覚ますとそこには殺そうとした人間がいた。彼は私を助けた。彼になぜ命を狙った男を助けたのかと問うと彼は答えた。気付いたら助けていたと。少しの間だったが、彼と交流した。彼と交流するうちに人間を支配するべきなどという考えなど消えてしまっていた。不思議なことにな。そして、私は彼と誓い合った。魔族や人間がともに笑いあえる世を作ると。魔王が馬鹿なことをしているくらい平和な世を作ると」
そして、キースはユウキに優しい——だけど、どこか儚い笑顔を向ける。
「だから、俺は魔王になった」
ユウキは黙ってそれを聞いていた。話は終わったとばかりにキースは立ち上がり、部屋を出ようとする。
「…俺は少し散歩でもする。お前はミナのところにでも行け」
キースはそう言いドアを開けようとする。そして、振り返り言う。
「…帰りって…俺、地上までお前ら一人ずつ飛んで運ばなきゃいけない感じ?結構、距離あってきついんだけど」
ユウキがため息をつく。
「…俺のグラトリームでミナとルノアを一時的に異空間へ飛ばせば、俺を一人運ぶだけで済む」
「…そっか。あざす!」
そして、ドアを開けて出ていく。やたら、マフラーが目立っていた。ユウキはしばらくボーっとしていたが、やがてベッドから出て、側に置いてあった上着に袖を通し、外に出て歩く。もう夕方だった。
しばらく歩くと、最初にミナにあった場所でミナを見つける。
「…ユウキ?」
「おう。起きたぞ。心配かけたな」
「調子はどう?どこか具合の悪いとことかない?」
「ああ。大丈夫だ」
「…そっか…良かった」
ユウキは二歩足を進めその場に座る。ミナも同じようにその場に腰を下ろす。
「…夢を見た」
「どんな夢?」
「俺とお前、それにユウイチが初めて会った時のことだ」
「…そっか」
「…夢の中で思ったよ。どれだけいろんなことが出来るようになってもすべてうまくいくとは限らない…ウィーブスのことでもそう思った。もしかしたら…また、キースとうまくやれるようにできたのかもしれない。後悔したところで何も意味ないけどな」
「…そうだね…でも、それが人生ってものじゃない?」
ユウキがミナの顔を見る。
「どれだけ強くても…器用でも…何でもできるような気がしても…実際はうまくいかないことだってある。そうでしょ?」
ユウキはうなずく。
「そうだな」
「だから、私たちは生きる。この世界で。大事な人たちと。そうでしょ?」
ユウキはふっと笑う。
「お前がいるならどんなことがあっても生きていける気がするよ」
「私もだよ」
そして、二人の唇が重なり合う。
夕陽がきれいだった。
やがて、お互いの唇が離れる。
「…ユウキ。あのね、私、言わなきゃならない事があるの」
「何だ?」
「私ね、魔物の行進に襲われた時、崖に落とされたって言ったけど、それは正しくないの」
「どういうことだ?」
「崖から落とされたの。けど、悪意じゃない。どこからともなく現れた彼は言ったわ。この崖の底なら安全だって。時が来るまでそこで過ごせって。その人は——」
ミナはそこでためらうように口を閉ざす。が、意を決したように再び口を開く。
「その人は——多分、ユウイチだった」
これにて「第一章 魔族と人間」は終了です!ここまで読んでいただきありがとうございます!
なお、作者自身の都合でしばらく活動を休止させて頂きます。決して、小説を書くことへの情熱が無くなったとかではないので、ご安心ください!兵藤はエタりませんよ!それではしばらくの間、さよなら。また、再開後の最新章にて。
ちなみに活動再開後は大幅に1章の中身を変えるかもしれませんがご了承を




