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22話 俺は面倒事には関わらない主義なんだ


 翌日。ユウキはルノアから明日にはキースが目覚め、崖の底に迎えに行けることをセバスにより知らされたと連絡を受ける。キースは飛行術が使えるから崖の上に戻るのは問題ないらしい。


(つまり、あいつ…一人ずつ崖の上に運ばないかんのか…大変だなー)


 そんなことを思いつつ、ユウキはルノアからの連絡をミナに伝える。


「なら、村の人々に挨拶しに行かなくちゃね」


 ミナはそう言った。そして、ユウキとミナは村の人々を一軒一軒尋ねる。ユウキはミナに付き添い、改めて彼女の人徳を知る。誰もかれもがミナとの別れを惜しみ、ミナはどの村人にも同じように丁寧に挨拶し、ぞんざいには扱わない。例え、話が何時間にも及ぼうとも。やんわりとまだ訪ねなければいけない人がいるといったことも示唆しない。一人一人丁寧に話を聞き、その会話を心から楽しそうにしていた。


(…暴走した時の性格があれで忘れていたが、そういえばミナはこういう気が回る性格だったな)


 ユウキは少し離れたところでミナを眺めそう思う。


(…変わったな。すっかり。初めて出会った時とはもう、違う)


 ユウキはフードを被り、幼きミナを思い出す。


 ——お前、何でいつも一人だったんだよ

 ——だって、私は嫌われているから。みんな言うもん。私のママがふしだらだって。いつも、違う男といるって。泥棒猫だって。だから、私はいつもみんなに相手にされないの。嫌われちゃうの

 ——……くっだらねえ

 ——え?

 ——くだらねえ。何もお前、関係ないじゃん。全部、親の話じゃん。お前関係ないじゃん。周りの連中も下らんけど、お前もだよ。そんなこと意味わからん理由で自分を責めてるとか意味不明だよ

 ——…でも、私は一人。それは変わらないよ。誰も私を見てくれない。側にいてくれない

 ——なら、俺がそばにいてやるよ

 ——え?

 ——俺がいてやる。お前を見てやる

 ——ホント?本当に…いてくれるの?

 ——ああ。約束だ。


「…ユウキ…ユウキ。起きて、ユウキ」


 ミナの声が聞こえ、ユウキは目を開ける。いつの間にか眠っていたみたいだ。


「もぉ…ユウキったら…」

「すまん。…終わったのか」

「うん。次の家に行こうか」


 二人は次の家へ向かう。


「…それにしても、腕を組んだまま立って寝るなんて器用なことするねー」


 道中、ミナが茶化す。


「うるせえ」

「どんな夢見てたの?」


 ユウキは昔の夢と言おうとしたが、言葉を引っ込め、笑みを浮かべる。


「…教えねーよ」

「えー。何でー?」

「たまには、お前にいたずらでもしてやろうと思ってな」

「何よ。それー」


 ミナが頬を膨らます。ユウキはその様子を見て笑った。


「笑うなー!」


 そして、その後も何件もの家を回り、最後に村長のアルマを訪ねる。もうすっかり夜だ。


「寂しいのー」


 アルマが名残惜しそうな表情をして言う。


「サトミちゃんがいなくなるなんて、寂しいぞ!」


 アルマの隣でモサクが号泣する。


(…何でいんの?)


「これ、男がみっともなく泣くんじゃない!…すまんの、せがれが」


 アルマが申し訳なさそうに言う。


(親子だったのかよ…)


 ユウキはひそかに心の中で驚く。


「お袋!そういうの”じぇんだーさべつ”だってサトミちゃんが言ってたぞ。良くないことだって言ってたべ!」


 モサクの抗議にミナが苦笑いする。


「けっ!何が”じぇんだーさべつ”だよ。女の一人や二人作ってから偉そうなことを抜かすんだね」


 アルマが一蹴する。


「今はいろんな生き方があるべ。独身を選択する人だって増えてきてるらしいべ!」

「ふん!全部、ミナの言葉を真似ているだけさね!せめて自分の言葉で語れるようになってから口答えしな!」


 再び、アルマはユウキとミナに顔を向ける。


「すまないねえ。見苦しい親子喧嘩なんて見せちまって。…盛大に見送ってあげたいところではあるが…何しろ…先のタロスの件もあるからね。どうしたものか」

「ウィーブスの警戒か…。まあ、何とかなるだろ。あいつさえどうにかすれば、タロスもすぐに眠るはずだ。心配ない。明日には心残りの無いよう、解決してやるよ」


 ユウキが珍しく頼もしいことを言う。


(何とかするさ…キースが。だって、魔気について詳しいのあいつだし。部下の失態は上司にぬぐってもらうべきだしな!)


 他力本願だった。ミナはそんなユウキの心を見透かしているのか、ジト目で彼を見る。


「おお…どうするのかはわからんが、主を頼りにするとしよう」


 アルマが心強そうに言う。村長さん。この男、人任せにしようとしてます。


「ああ、任せとけ」

(キースに)


 隣でミナがこれ見よがしにため息をついていた。






 そして、翌日。騒々しい音とともにユウキ達は目を覚ます。


「何だ?」

「ユウキ、もしかして…」


 二人は顔を見合わせた後、すぐに家を出る。すると家の前には息を切らしたアルマがいた。


「アルマさん!」

「…主らの言ってたであろう…魔族が現れた。タロスが姿を現した滝の辺りにいる。村の者が応戦しているが…」


 ミナは最後まで聞かず、アルマを背負って走り出す。


「行くよ、ユウキ!」

「…おう」


 滝の辺りでは村人たちが応戦していた。すでに倒れている者もいた。


「ぐああ!」


 一人の村人が吹っ飛び倒れる。ウィーブスは村人を見下ろす。


「人間が…生意気にも魔族に盾突くとは…身の程知らずが!」


 ウィーブスが村人を殺そうと顔面目掛け拳を振りぬく。


「”風砲(ウインドキャノン)”!」


 突如、ウィーブス目掛け突風が吹き荒れる。ウィーブスは吹き飛ばされるがすぐに受け身を取る。


「私の大切な人たちを傷つけないで」


 見ると、そこには見知らぬ少女と老婆、そして憎き魔王と共にいた人間の少年がいた。


「よお、ウィーブス。お前、ホント喚いて暴れることしかしないな。おもちゃをねだる子供か?」


 ユウキは無機質な目で、ズボンのポケットに手を突っ込みながらそう吐き捨てた。


「モサク!」


 アルマが先程ウィーブスに倒されていた村人に駆け寄る。その村人はモサクだった。アルマはか細い手でモサクを抱き起す。


「…うう…お袋…」


 ユウキは彼らを一瞥し、すぐにウィーブスに視線を戻す。


「…生きていたか。人間」

「何とも陳腐なセリフだな。お前が生きてるんだ。俺が死んでるわけないだろうが」


 ユウキは淡々と答える。まるで感情が感じられなかった。


「どうか…どうか…頼む」


 ユウキはアルマに視線を向ける。


「どうか…村を守ってくれ。わしの…わしらの故郷を救ってくれ…!」


 アルマは懇願する。ユウキはそれを感情のこもらない目で見ていた。


「はっ!無駄なことよ!人間は卑怯で脆弱で臆病な生き物だ。そいつは俺に一度負けた。てめえらなんて相手にせず自分可愛さに逃げ出すのがおちだ!」


 ウィーブスが鼻で笑う。


「ユウキ…」


 ミナが不安そうな顔でユウキを見る。


「…ミナ。あいつの言う通りだ。俺は彼らを救わない。俺は他人を顧みない。俺はお前の言うような優しい人間じゃない。いつだって自分の大切なものが壊れるのを恐れてただけの臆病者だ」

「違うよ!」


 ミナが叫ぶ。


「違うよ…ユウキは本当は優しい。だけど、自分の大切な人たちを守りたい思いが強いから…守るためなら他は犠牲にしてしまう。それだけ。でも…今は違うでしょ?私はここにいる。手を伸ばせば救える。リスクなんてない。…それとも、私の言葉が必要?ユウキは自分の信条を簡単に曲げちゃう人だったの?」


 ユウキは驚きの表情をする。


(ああ。どうして、忘れてたんだ。俺は自分以外はどうでもいいみたいなくだらないポリシーなんか持っちゃいなかった)


 ユウキが小学三年生の時だった。路地裏から声が聞こえ、覗いてみると同い年くらいの少女が学校で有名な一つ年上のガキ大将とそのとりまき二人が少女を殴り蹴っていた。


「お前の母ちゃん、この前も他の男と歩いてるの見たぜ!知ってるぜ!そういうの不倫っていうんだぜ!最低だな!」


 彼らは醜く笑い少女を痛めつける。


「やめて…やめてよ…」


 少女は泣いていた。救いを求めていた。ユウキと少女の目が合う。


「…助けて」


 少女はすがるような目でユウキに言う。


「な…お前…!」


 今、気づいたのかいじめっ子たちは焦りの表情を見せた。くだらない、ユウキはそう思った。


「…俺は面倒事には関わらない主義なんだ」


 少女の顔が絶望に染まる。ユウキの言葉を聞いて、安心したのかいじめっ子たちは笑い出す。


「ははははっ!残念だったな!誰もお前を助ける奴なんていねえぜ!お前みたいな奴なん——」


 突如、ガキ大将の顔がゆがむ。少女が顔を上げるとそこにはいじめっ子の顔面に蹴りを入れたユウキがいた。ガキ大将が転がる。


「な…何すんだ!てめえ!」


 とりまきたちがユウキに殴りかかる。ユウキはそれをよけ、みぞおちに拳を入れ、もう一人には、かかと落としを見舞う。


「まだやる?」


 ユウキにそう問われたいじめっ子たちは覚えてろとお決まりの言葉を残しその場を去っていった。ユウキはそれを呆れた表情で見ていた。


「どうして…」


 ユウキは少女に視線をやる。


「どうして、助けてくれたの?」


「さっきも言ったろ。俺は面倒事には関わらない主義なんだ」


 ユウキが面倒くさそうに言った。


「だったら…!何で…」

「あそこであいつらを相手するのもめんどかったが、無視していくのも後味悪い。後味悪い方はずっと長引いて、めんどくさい。なら、助けるほうがよっぽど楽だった。それだけだ」


 少女は驚いた表情をする。ユウキはしばらくその顔を見ていたが、やがて口を開く。


「お前…名前は?」

「…ミナ。佐藤ミナ」


 それが二人の出会いだった。



「…ホント、何で忘れてたんだろうな」


 ユウキはフードを被り、つぶやく。


「…何をごちゃごちゃと。まあいい。キサマはどのみち、殺す!」


 ウィーブスが叫び、ユウキに向かって突進する。


「ユウキ!」


 だが、いつの間にかユウキの姿はなかった。


「…は?」

「聞くが…ウィーブス。一度、相手をやり込めたくらいで何故、もう一度勝てると確信できる?」


 いつの間にかユウキがウィーブスの背後に立っていた。ユウキはちらりと村人、そしてミナを見る。


(…ホント、めんどくせえ)

「お前を一度圧倒的な力で打ちのめしたのだ。ならば、お前が俺を負かすなどできるわけがないだろう!」


 ウィーブスが振り返り、ユウキにその拳を打ち込もうとする。だが、ユウキは飛び上がり回避する。


「何!?」

「二つ、教えてやるよ。ウィーブス」


(面倒事は嫌いだって言ってんのに、面倒事をしなきゃもっと面倒事になる。ホント、生きるって難しいもんだな)


「一つ。人間はやるなと言われたらやりたくなる」


(なら、やってやるよ)


「二つ。俺はできないと言われれば、やってやりたくなる。できないと言ってたやつが間抜けな顔になるのを見るのは笑えるからな」


 ユウキは一瞬で抜刀しウィーブスの腕を切り落とす。ウィーブスの悲鳴が響き渡る。


「この村のやつら、全員守ってやるよ。死んだ村人を見るのは後味悪くてめんどくせえからな。俺は面倒事には関わらない主義なんだ」


 ユウキが人を食った表情で言う。やたら、フードが脱げた黒と白の混じる髪が目立っていた。



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